第28話 アマタは異世界冒険者の悲しき現実を目の当たりにする。
楽しんでもらえれば嬉しいです。
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
「おうアマタ!!って、今日は普通だな。」
「普通で悪いか。」
「昨日はどうした?急に女装なんか初めて、正直ビビったぞ。」
「ビビるなって警告してただろ?LINEで。絶対ビビらないって言ってたくせに結局ビビったのかよ。」
「ああ、ビビった。というか、あんな人格豹変ドッキリ辞めろよな。心臓に悪い。」
「済まん済まん。」
「今日呼び出した理由はな。アマタに会わせたい人がいるんだ。」
とある病室だった。
山本って人だ。個人事業主でアバターを活動のメインに置く素材採取のプロだった
急に激痛を訴えて病院に搬送、診断結果で癌で余命宣告を受けたそうだ。アバター事業は強制引退、ここで入院している。
抗がん剤治療で髪が抜け落ち、凄い衰弱していた。
「俺はアマタ君、君のファンだった。いろんな困難にも負けずに勝ち進んでいて俺は、君の活躍を見ているだけで幸せだった。」
俺がこの人に出来る事ってなんだろう。
「そんな大した事できてませんけどね。攻略にも最後は足引っ張って引退しましたし。」
「でも、弱いなりにもアイテムを駆使して立ち向かう姿が俺たちには希望だったんだ。死にかけの俺からのお願いだ。また、活躍する姿を見せてくれ。」
エイルめ、卑怯だぞ。こんなの見せられたら俺、アバター作ってくれって頼まなければならないじゃないか!!
「俺もドクターストップです。でもそれが解けたらいつかまた復帰します。」
「ありがとう。期待してるよ。」
と握手する。
<マスター、マスター>
(なんだよ。今話かけるなよ。)
<神子の霊薬で完治しますが使って見ます?>
(ん?)
<末期癌。神子の霊薬で完治しますが使いますか?>
(神子の霊薬ってチユの持ち物だろ?無いものねだり辞めろよ。)
<転送許可を下さい。>
(なんの話だ?出来るもんならやってみろ。)
<アイテム転送。転送完了。召喚します。>
「はい?」
思わず声が出てしまった。山本さんに不思議そうに見ていた。
「どうしたのかなアマタさん。」
ポケットにずっしりと重い感覚がある。硬い瓶に入った何かだ。俺は取り出した。
「よろしければこれ、使ってみます?」
「なんだ?その緑色に輝く液体は。」
「とあるルートで回復薬を手に入れたんです。たまたまポケットに入ってたんですが?使って見ませんか?」
聞いたエイルが驚いて口を挟む。
「馬鹿、アマタ。ただの回復薬程度で末期癌が治る訳ないだろ?それにたまたまポケットに回復薬を入れる人がどこに居るんだよ!!」
エイルの突っ込みに苦笑い。俺も何がなんだかよくわからないから。
それを見た山本さんは遠慮する。
「いや、気持ちは嬉しいけど、それって高いでしょう?こんな死にかけの人間に試しに使うより、然るべき機関に売った方が金になると思うんだ。」
「どうせタダだし、ものは試しに。」
「いや、でもさ。俺なんか。」
「騙されたと思ってグイッと。」
いや、こんな得体の知れない緑色の液体、いきなり飲めっていう方がおかしいよな。青汁ならまだしも緑色に輝いてるんだぞ。怪しさMAXだろ!!
「そこまで言うなら。試しにね。」
えっ!?飲むの?結局飲むのかい!!!
山本さんはなんだ・・・得体もしれない緑色の輝く物体を・・・。飲んでしまった!!それも一気飲み!!美味いの?マズイの?どっちなの?顔をしかめてないけどポーカーフェイスなの?
そう思ってたら山本さんの身体が黄金に輝く。
「え?え?え?」
いやこれは驚かずにはいられない。
まず、見た目の変化。スキンヘッドの頭は髪がふっさふさに伸び、むしろ背中まである長ロングヘアーに。
次に・・・
「なんだこれは!?全身の痛みが嘘のように消えた!!やばい、俺の身体の息子がやばいぐらいにそそり立っている!!」
「それは大変ですね!!」
「痛い、パンツが千切れる!!こんなの思春期以来だ!!」
冗談かと思いきや、本気で下の方を押さえてる。あら、大変だ。
後、声の張りが段違いに違う。
それに、貧弱した身体は筋肉ムキムキに・・・
エイルは目を丸くして訊ねた。
「おいアマタ。何を飲ませた?」
「回復薬・・・」
神子の霊薬って名前なんだが。
「やる気がみなぎって来た!!!!こうしちゃいられない。世界が俺の持ち帰る素材を待っている!!入院なぞしてられるか!!!」
「おいアマタ。山本さんのキャラが崩壊したぞ。どうしてくれる。」
「どうしたもこうしたもないだろ?これが本来の姿っぽいし。」
「じゃねぇよ!!もっと場をわきまえる人だったぞ。少なくとも病院で叫ぶ人じゃねぇ!!」
と叫ぶエイルに・・・
「君たち、病院ではお静かに!!」
と怒られるのであった。
あ、本当にすみません。
「本当にありがとう!!なんか元気がみなぎるんだ。もし、これが仮初の元気でも、寿命を迎えるまで<アバター>に潜り続けようと思う。素材を求める人達がいる限り。」
「あ、はい。」
あ、いや、こんなに熱く語られても俺困ります。
「回復薬のお金は絶対に振り込みます。相場は最低でも100万と聞く。これでいいか?」
紙にメモを取る山本さん。
「1000万円ですか!?そんなに?」
と反応する俺の傍ら、エイルは突っ込む。
「違うぞ。よくみろ。1000万ドルだ。」
脳みそがフリーズした。俺は一瞬でお金持ちになってしまったのだ。
その帰り道。俺より何故かエイルの方がご機嫌だった。
「やったじゃねぇか。これでお前・・・<アバター>を借金無しで作れるな。」
「待ってくれ。作るのは身体が治ってから。」
「馬鹿、<アバター>って制作時間かなり必要なの知ってるか?1年は掛かるんだぞ。」
「あ、いや。待ってくれ。エリコさんからそこまでアバターバラバラにされたつもりはないぞ。アバターガチャを引けるぐらいはベースは残ってる。」
「あのな、ベースだけだろ?アバターガチャを回すったってエリコさんところの会社だけだろ?俺の会社に籍を移すんだから一からお前のアバターの情報をインプットさせたいといけない。下準備が必要なんだ。ガチャを回すまでに1年だよ。俺の親父に話つけとくから。」
「だから待ってくれ。俺は復帰するって言ってないぞ。」
「あ・・・。そうだったな。済まん。アカネ達ともいろいろあっただろうしな。」
「そうだ。勝手に進めるのは辞めてくれ。」
「悪い。でもお前、夢はどうするんだよ?」
「夢はまた見つける。」
俺は今日、エイルと別れた。
とはいえ、チユが帰ってくるとも限らないし、またエルフの村に行けるとも限らない。
ああ、現実見よう。
普通に学校行って、良い大学入って、普通に働いて。一生を終える。それでいいんだ。
<ようこそお帰りなさいませチユ様。>
不意にアナウンスが流れた瞬間、身体の自由が効かなくなった。
「アマタさん!!あんな場所で突然寝ないでください!!私も眠いのに家に帰るの大変だったんですよ!!」
声に出して怒られてしまった。
(あ、ああ。チユ。チユ?帰って来たのか?チユなのか?)
もう会えないと思った。魔法使い過ぎて死んだのではないかと思った。怒っていたけど、なんか帰って来たのが嬉しくなって・・・
「チユですよ。昨日は本当に疲れましたね。皆を守ってくれて本当にありがとうございます。」
涙が出そうなぐらい嬉しかった。もし身体があれば抱きついていたのだが・・・
「な、泣かないでくださいよアマタさん。私も釣られて泣いてしまいます・・・。うえーーん!!」
と泣き出してしまった。
側から見たら突然独り言を発したと思ったら突然泣き始めるやばい奴で。それはもう、周囲の目は冷たかった。
ひとしきり泣いて、落ち着いたところにアマタイルは呟いた。
<マスターは面白いんですよ。チユ様がなかなかこっちの世界に来ないから『チユが死んでしまった!』なんて大騒ぎでして>
(おい!アマタイル!!)
<生気の失った顔して今日一日過ごされておりました。>
(そうだったんだ。チユは元気ですよ。)
(だってな、今までこんな事なかっただろ?一緒に寝て、一緒に起きて。タイミングとか全て一緒で。)
<チユ様とマスターの魂の結びつきがより強くなりました。シンクロ率が150%を超えたのである程度離れても支障が出なくなったのだと思います。この現象はその影響でしょう。>
(今後、今日みたいに別々のタイミングで目覚めるって事があるって言いたいのか?)
<はい。そのようです。もっとシンクロ率を上げて、もっといろんな事出来るようになりましょう!!>
それを聞いて、少し怖いなと思ったのは俺だけだろうか?
チユは大して気にしてなかったので俺も気にしない事にした。
その日の夜、エイルからLINEがあった。
『山本さん、完治だってよ。おい、その回復薬余ってるなら俺達にくれ。というか親父の方にだけど。』
『1個だけだぞ。』
『1個でもあったらすげえと思ったんだが、複数あんのかよ。まじか。1億出すそうだ。』
『1億円か?1000万ドルから見たら少し弱いけど・・・でも友達価格だ。タダでやるよ。』
『タダでやるってお前な・・・これは会社からの正式な取引だ。しかも何度言えばわかる。1億ドルな。ドル。それにこんな非常識な回復をタダで貰ったら市場が混乱する。』
はぁ!?1億ドルって何円だぁ!?俺の頭がまたパンクしたのはいうまでも無かった。
異世界に存在するアバターは元気でも現実にある元の身体が病気ならシンクロ率に直結します。ログインは悲惨なものになります。




