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夢(ゲーム)と現実  作者: 光頭無稽
2/8

あらすじ

 入学を明日に控え、顔合わせも含めた121期生達の夕食は静かに過ぎていった。

 ゲームでは貴族を目指す身ながらも、期待に胸を膨らませて高揚した楽しげな様子が描かれていた。しかし先程のカサンドラ=ラグドール公爵令嬢入学取り消しの一幕で、皆の心は沈みきっていた。

 確かにカサンドラ様の振る舞いは身の程を弁えぬ、非常識なものであった。ただ、これまで外の世界を知らず甘やかされて育てられていた彼らにはあまりにも衝撃的であったようだ。

 私とヴィアは夕食を終わらせると、早々に食堂を出て部屋へと向かった。

 夕食後は就寝まで自由時間として設けられており、ゲームでは歓談や勉強会など楽しげな描写もあった。もしゲーム通りなら、この後私とヴィア、そして私が移った部屋のルームメイトになる男爵家のハーモニーの3人で親交を結ぶお茶会を開く筈であった。


「シア、この後良かったら、お茶でも、、、どうかしら?」


「ご免なさい。せっかくのお誘いですけど、荷物を片付けておきたいの」


「あっ、そうよね。ご免なさい、気が利かなくて」


「そんなことないわ。むしろ私を気遣ってくださったのでしょう。ヴィアの心遣いには感謝してるのよ」


 荷物の片付けなど、前世で独り暮らしをしていた身としてはものの数分で終わらせるとが出来る。ただ、色々と考えたい私は部屋の片付けを理由に誘いを断った。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ヴィアと別れて自室に戻った私は、椅子に座ると頭を抱えた。


 -何で!?-


 本当なら叫び出したいところだが、隣にはヴィアがいる。国が建てたモノだけあって、造りは立派で防音もしっかりしているようだが、万が一ということもある。

 私は深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。


 -落ち着いて考えましょう。起きてしまったことは仕方ないわ。大事なのはこれからよ-


 私は考えていたディアモンド第一王子ルートのこれからを考えようとした。


 -いえ、仕方なくはないわね。これじゃ、第一王子ルートに入れないじゃない。って、ディアモンド王子はもう良いんだけど・・・。え~っと、こういう時はあれよ、基本に立ち返る。そう、そうね、そうだわ-


 これからの展開が全くわからなくなってしまった私は、ゲームについて知っていることを改めて洗い出すことにした。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 私がこのゲームを買ったのは10年近く前の学生時代。乙女ゲーが流行り出した時だった。当時の私はディアモンド第一王子単押しで、それ以外の攻略キャラには見向きもせずにそのルートを何度も繰り返していた。それ以外ついては、大雑把にどんなキャラだったかは覚えている程度だ。展開も大雑把には知っているがイベント内容や細かい展開、二人のやり取りは全く知らない。

 第一王子ルートはカサンドラの部屋追い出しイベントから始まる。カサンドラの横暴から、王子は彼女の王妃としての器に疑問を持ち始める。そしてこのイベントをキッカケにアリーシアに興味を持った王子は、その優しさと聡明さに徐々に心を惹かれていく。

 王子の心が離れていくことを恐れたカサンドラは、アリーシアに対して酷い仕打ちを重ねていく。健気に耐えながら理想の貴族令嬢を目指すアリーシアの姿を見て、王子の興味という感情はいつしか尊敬へと変わり、二人は同じ時を過ごすことが多くなっていく。そしてアリーシアも王子との良い関係を心地良く感じ始めていた。

 後がなくなったカサンドラはついに暴挙に出る。公爵家から持ち出したご禁制の毒を王子の卒業パ-ティーでアリーシアに飲ませてしまう。一緒にいた王子が、嵌めている魔法の指輪が反応したことで毒に気づいて咄嗟にグラスを払うが、アリーシアは僅かに口に含んでしまい苦しみ倒れてしまう。しかし常備している解毒薬を王子が口移しで飲ませたことで、アリーシアは一命を取り留める。

 アリーシアは王子の自分への愛の深さを知ると共に、自分もいつしか王子を愛していたことを悟る。

 月日は流れ、アリーシアの卒業パーティーで突如王子が現れ、舞台はそのまま結婚パーティーとなってエンディング。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 私は再び頭を抱えた。


 -大人になってみると、突っ込みどころ満載ね。え~?だけど、ネットでも別に評判悪くなかったわよね?まぁ、話の展開は置いといて。まず、問題は私が第一王子ルートしか知らないってことね。他のルートではカサンドラはどうなるのかしら?もしかして入学前に退学イベントが起きるのかしら?-


 ネットでそのようなことが書かれていなかったか思い出そうとするが、全く浮かんでこなかった。


 -って、そもそもアレって本編前に必ず見るイベントじゃない。どういうこと?もしかして隠しルート?-


 しかし“悪役令嬢がプロローグで退場”なんて、乙女ゲーとしては型破りな展開があったら、当時大きな話題となっていただろう。第一王子についての情報ばかり漁っていたが、それ程大きなネタがあったなら微かにでも目に入った筈だが、そのような記憶は浮かんでこなかった。


「どういうことかしら?ゲームと違う展開になっても、辻褄が合うような強制力が今までありましたのに。それがゲームの根幹を崩すような展開が起きてしまうなんて」


 私は天井を仰ぎ、必死に打開策を考えようとしたが無駄なことに気づき諦めた。


「無駄ね。これ以上考えても仕方ないですね。理由はわからないですけど、もうゲームと同じ展開になることはない、、、と思いたいですわね。どうしようかしら、この後第一王子から言い寄られてきたら。う~ん、学生の時はあれほど夢中だったのに。大人になったってことのなかしら?」


 私はこれ以上ゲームについて考えるのを止めて、鞄の中身を片付けることにした。一度片付けたことで荷物の配置はすでに決まっている分、1回目より手早く片付けられるだろう。鞄を開けて小物を取り出して机に片付けていく。公爵家の侍女達は優秀であった様で、とても丁寧にしまわれていた。カサンドラの食堂での様子では、他人の物など粗雑に扱いそうに思えたのだけど。それとも横暴への苦情を抑えることに慣れているのだろうか?


 -まぁ理由はともかく、丁寧に扱ってもらったのはありがたいですわ。そうだ、さっきは断ってしまったけど、終わったら気分転換にヴィアの部屋を訪ねてみようかしら?あら?何かしら?-


 小物類の入った鞄を片付け終えた私は、衣類の入った鞄を開けると見知らぬハンカチーフが一番上に置いてあった。ゲームのアリーシアはわからないが、私は全体に刺繍をいれた色つきの物が好みで、白色のハンカチーフは一枚しか持っていなかった。しかし目の前にある物は無地で真っ白な物であった。


「誰のかしら?って、カサンドラ様の物に決まってますわね。どうしましょう?早々に返した方が良いわよね?」


 カサンドラ様のことを思い浮かべてみると、盗んだと言いがかりをつけられそうなことがありありと想像できた。


「どうしようかしら?直接関わるのは避けたいですし、、、。先生に相談するのが良いでしょうか?」


 私は机の上に置こうとハンカチーフを手に取ったところ、あまりの質の良さに動きが止まってしまった。マンチカン家は侯爵家のなのでそれなりに裕福ではあるが、このような滑らかな手触りの物は見たことも触ったこともなかった。ただ前世ではその質感に覚えがあった。


「これって絹?シルクのハンカチーフ?えっ?嘘?この国に絹って流通してたかしら?」


 家で家庭教師から教わったことを思い出してみたが、そのような記憶はなかった。


「先生も知らなかった?最近入ってきたのかしら?でもお母様から聞いた事もないですし」


 貴族の女性にとって“流行”は武器である。王家や公爵家は流行を生み出すことで地位を盤石な物にし、侯爵家や伯爵家は流行をいち早く取り入れるか否かで立場が変わる。勘違いしている男性も多いが、情報収集において女性に勝る男性はいない。とは言え、踊られやすいのも事実であった。

 マンチカン家はお母様が堅実であった為、踊らされることはなかったけど、全く知らないというのも腑に落ちなかった。


「それに、入学のことでアメショー家ともやり取りしてましたし、我が家だけが知らないってことはないでしょうし」


 私はハンカチーフをよくみようと裏返してみると、端に小さな黒い蝶が刺繍してあった。


「黒い蝶って?」


 どこかでと思った瞬間、ハンカチーフの持ち主がわかった。


「これって、ジェミニアーニ様のハンカチーフ?」

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