7 マイ ホーリーマザー
「「おおっ!」」
会場に着くなり不覚にも、隣のクソダサイケメンライダーもどき、略してダサメンと感嘆の声が被った。
しかし、その不快さをも目前の景色への興奮が上回っていた。
初めて見るにも関わらず、どこか郷愁を覚える雑多な店や住宅が建ち並ぶ一本道。けれど、それは道路の反対側のみの姿で、寮寄りの手前側にはこれまたどこか懐かしさを感じさせる遊歩道。そしてその遊歩道の広い両脇に絶え間なく並ぶは桜。思わず見惚れる一面の桜並木。
その美しき春を肴に楽しみに来たのだろう。可憐なピンク色の花弁が舞い降りる下、辺り一帯に数えきれない若者が集まっている。
「えーと、うちの集まりは」
天使はキョロキョロと辺りを見回し、
「あ、いたいた。こっちこっち」
仲間を見つけたらしく、俺達を手招きながら一つの塊に向けて歩き始める。
後ろについて行ってみれば、天使が向かう先の集団はとても目立っていた。
なにせ圧倒的に規模が大きい。他の団体が大抵ブルーシート一枚止まりなのに対して、天使が手を振る先は大きなブルーシートを三枚は並べており、人数にすればなんと百人近くがいるように見える。
見知らぬ多人数の圧力に気圧され、思わず後退りそうになるも、
「連れてきたよー」
手を振る天使の報告が、俺達の退路を断っていた。
「マーサちゃん、おかえりー」
しかし、天使に退路を断たれるまでもなく、俺に後退の二文字はない。
「穂乃果さん、ただいまです」
なにせ天使に手を振り返してたのもまた、もう一人の天使だったからだ。
「はじめまして。やどかり祭実行委員会の新歓へようこそ」
新たな天使の肢体は、スレンダーな第一天使と異なり、張り裂けそうなエデンを持ちなんと豊かなことか。
顔立ち、体付き、雰囲気は柔らかくどこか犬を思わせ、猫を思わせる第一天使と対照的だ。しかし、二大天使はその美の方向性こそ異なれど、偏差値の高さはT大クラスのトップレベルで、熾烈なデッドヒートを繰り広げていると言って過言ではないだろう。
「二人はお酒飲んだことあるかな?」
穏やかな受容の笑顔。そこには母性すら感じられる。
ああ、違う。この人は天使ではない。
――聖母。
俺達の全てを受け入れてくれる広大な海、偉大なる母なのだ。
「えっと、そのグループ分けに使うだけだから正直に言ってもらって大丈夫だよ。大学生なのにとか、そういうこと言わないし、気になるならお酒のない席を案内するから」
後光に言葉失う俺達の沈黙を勘違いしたか、聖母は慌てたように両手を胸の前でパタパタと振っている。
「聖母様と同じグループでお願いします」
脊髄反射で答えていた。
「え? えっと、セイボサマ?」
しかし、当然の如く聞きなれぬ呼び名で呼ばれたであろうホーリーマザーは困惑した様子で首を傾げた。