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わたしの上司を紹介します


 この地方でもっとも弱い、もとい小規模クラン<アンバーゴースト>の受付嬢になって、そろそろ三か月が経とうとしている。教会の鐘の音をありがたく聴きながら身支度をととのえ、朝食代わりのお茶をちびちびとすすってから部屋を出る。コーヒーはここでは貴重なので、私のような身分の者が気軽に手にすることはできない。

 私は、転生者というやつだ。明日の会議という名のつるし上げ大会の準備を整え、戸締りをして、機嫌の悪い守衛さんに挨拶をしてエレベーターに乗った。塗装のはげたふるいエレベーターのドアが開くと、剣と魔法と暴力が支配するこの見捨てられた不毛の地にはじき出されていたのだった。

 特に死ぬような目にあったとかそういうわけではないので、厳密には「生まれ変わった」というわけではないようだが、明らかに私の風貌は変化している。体格、顔かたち、声にいたるまで。これはまあ転生と言っていいのではなかろうか、そして何よりも____

 「おはようございます」

 死んだ魚の目をした前勤務者と勤務交代をする。冒険者たちは、昼夜をとわず暴力にあけくれているので、その対応をする受付嬢にも昼夜の別はない。

 周囲の薄暗さからしてただいま午前6時くらい、一番に私のところへやってきたのはこのクランのボスだった。彼女の名前はロザリンド・イスラ・ヴェイル。肩まで伸びたウェーブする琥珀色の髪と、はしばみ色の瞳を持つ美しい少女だ。肌の色は透き通るように白く、すらりと伸びる手足はほっそりとしていて、まるで人形のようだった。

 だが、そんな見た目とは裏腹に、彼女の性格はまったく可愛らしいものではなかった。

 「おはよう、我が<アンバーゴースト>期待の新人、ヘンリエッタくん」

 「…おはようございます、ボス」

 うっすらと微笑んではいるが、その目はまったく笑っていない。むしろ獲物を見つけた猛禽類のようにギラついている。

 「さっそくだが有望なきみに新しい仕事を任せたい」

 「……なんでしょうか」

 私はわざとらしく首を傾げて見せた。そういえば最近、なにかと話題になっている気がする。心当たりはあれとこれとそれと、ええっとそれから?

 「おや乗り気だね。この前の飛竜討伐の時は大活躍だったじゃないか、その意気で頼むよ」

 「私はたんなる受付係ですよ」

 「今は、そうだが。しかし私としては、きみをたんなる受付嬢で終わらせる気はないのでねえ」

 愛らしい少女はニヤリと笑ってこう言った。

 「なにせ我がクラン初の心眼スキル持ちなのだから」

 目いっぱい力を発揮してもらおう、と笑うと私のデスクの上にガラクタがどさりと積まれた。

 「なんですか、これは」

 「そろそろきみに新しい仕事を任せよう。これらを鑑定し、適切な冒険者どもに分配しろ」

 「受付はだれがするんです」

 「もちろん、きみさ」

 私がこの愛らしい悪魔に付き従っているのは、ひとえに生活の保障のためだ。そして失うものがない今となってなお暴力で解決しないのはこの悪魔が従えている用心棒のためだ。

 機嫌が悪いとその場で切り捨てられるとか、ボスの命令は絶対で不用意に近寄るものは親でも斬るとかいう噂のついて回る男は、半目のまま私を一瞥しただけで明後日の方向を見つめている。

 ともかく、この悪魔の機嫌を損ねるわけにはいかない。でも親は斬っちゃマズいだろ。

 「……はい」

 「よろしい。ではさっそく取り掛かってくれ給えよ」

 そう言うと彼女は笑顔のままくるりと踵を返し、男を従えて奥の部屋へと消えていった。

 ああ、憂鬱だ。私はため息をつくと、積み上がったガラクタを見下ろした。

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