だから言いたい
[第2、だから言いたい]
*
朝が来るには日が昇ること夜が来るには日が沈むこと、それの繰り返しで日が進んでいく、彼らの出会いから1ヶ月が経とうとしていた、誰にも言えなかった言いたくなかった、だけど言えた、あの時何よりも強くなれた気がした、重りを下ろしてもいいんだよと言われたような気がした、だから感謝しかない、もう大丈夫、これは恥ではない、どんな自分でも大丈夫、そうきっと。
「なーかーむーらー!さっさと動け!」
「すみません!今すぐ!」
「また中村くんターゲットにされてる」
「ねぇーこの前も中村君のせいにしたって話」
「マジ?」
「何かな」
「「「いえ、何もありません」」」
要はブラックと言うやつだ、少し愛想良くして断るということをしなかった行いがこれだ、気に入られてる訳では無い、良いように使われているのだ
「お前はホントなんにも出来ねーな!!」
「すみません、すみません…」
「はぁーもういい!資料作れや!」
「はい」(はぁうぜー絶対ぶっ殺す、まず絶対辞めてやる、いつか辞めてやる、そして殺す)
「中村」
「河瀬〜」
同期の河瀬隼、会社の中で唯一の理解者で助けてくれる大切な存在
「ブラックでいいか?」
「ブラックだよな」
「…ごめん、コーヒーの話」
「ははは、ブラックだよ」
「…ミルク入れとくわ」
「その優しさ有難い」
「どういたしまして」
コーヒーを飲む自由すら無くなろうとして全てが真っ黒に染まろうとしている、これは問題だ。
「はーい残業でーす」(…俺含めて4、5人か、あのクソは定時で帰りやがって、働けよクソが、てか定時で帰るってなんだよ!)
周りのビルはポツポツと灯りが消えていく、真っ暗な世界にひとつの光が輝いているだがこの光は冷たく心を縛る鞭のようなもの、あの出会いはまるで夢のように自分の願望を詰め込んだように思えてしまう、もう一度心から笑いたいと
「……何してんのかな」
周りを見渡した、もうそこには中村1人だけ電気がチカチカと眩しかったもう電気を消して自分の存在もそこに無かったことにしたいと思えるほど孤独だ
「はぁ後これだけ、これだけやったら…」
静かな部屋には小さなタイピング音と鼻をすする音が響いていた、今まで1人という事に特に何も感じなかった、1人の方が仕事が進むし気を使わなくてもいいしと言い続けていた、確かにそうなのかもしれない、だけど不意に寂しさを感じたそれを気付かないようにそんな事ないと言い続けた、どこでも1人それを当たり前にしようとしていた、帰宅しても誰もいないリビングそれが当たり前、急に連絡したくてもできないそれが当たり前、そう思っていたのに、何故だろうと寂しさが溢れてくるのだ。
「終わった」
中村は急いでパソコンを閉じた、急いで荷物を詰めたいつもは丁寧だが今日はぐちゃぐちゃでも気にしなかったイスもきちんと入れることも無くバタバタとオフィスを出た、エレベーターの中で上着を着て扉が開いた瞬間出走馬のように駆け出した
「はぁ、っはぁ、はぁ」(こんな走るの久しぶりで辛い…!やばっ苦しっ)
フルマラソンのような苦しさだった。あの店に行けば会える、とは限らないだが今はあの店に行きたいお酒を飲みに行きたいと言うよりはもしかしたら会えるかもしれないからあの店に行きたいそれだけ。
ガラガラガラ
「っしゃーしゃーませー」
いつもの店長いつもの店内いつもの空気感、まるで実家と錯覚しそうになる安心感
「カウンターにしますか?」
「あ、は、はい!」
「あれー?剛士くん?」
「昭子さん!!」
テーブル席へ座った
あの時のテーブル席だ。
*
何気ない日常を当たり前と思っていても他人からすれば刺激のある日常と取られることもある、人の感性とはバラバラで真っ白のジグソーパズルのようなものだ。大人しく綺麗で穏やかなメロディ、ピックが弦を弾き素敵な音が川のせせらぎのように流れていく
「オーナー最近よく弾いてますね」
「そうねーしかもバラードって言うかそういうの多くなったよね」
「新しい彼女さんとうまくいってんじゃないっすか?」
いつもはお店のスピーカーからBGMを流すのだがたまに店員が弾きたいのがあれば弾いても良い事になっている、将来音楽関係の仕事に就きたい人が主に働いているからだ、佐東も楽器が好きでこうやってたまに弾いている。
バラードなど数年に何回かあるかないかの程度で弾くが彼らに会ってから心境が変わったのか今この瞬間好きな事をしたいと素直になれている。
ジャンっと音楽を止めた
「誰か弾きたい人いるか?いいぞ」
「じゃー俺いいっすか!」
「おう、オレは裏にいるからなんかあったら言ってね」
「…やっぱいい事あったぽい?」
「じゃない?」
「…」
スタッフルームの扉を開け深呼吸、いつもと同じよう携帯をチェックすると多くの返事が来ていた
「会いたい、ねー、そうだな…今日はいっかな」
いつもなら直ぐに自分もと返事をしているが、しばらく1人の人と決めたかのように断る返事をしていた
「ごめんね、用事があるからまたね、っと」
(ふぅーこの子となら上手くいく気がするんだよな)「今日空いてる?一緒にご飯行かない?、よし送信」
すっと心に余裕があるのか軽く思えた。
彼女から「大丈夫ですよ、何食べますか?」と返事が来た
「カナエちゃんが食べたいのでいいよ、…はぁ幸せだな」
その後何度がやり取りをし無事にディナーが決まった、ウキウキしたまま仕事へ戻った。
夜、彼女と待ち合わせの場所へ行き彼女を待つ、男の方が先に居る佐東なりのポイントの高さらしい。
コツコツとヒールの足音がこちらへ向かってくる、遅くなってすみませんと彼女が急いで来た
「走らなくて大丈夫なのに、俺も今来たとこだから、少しゆっくりしてから行く?」
2人の時間が始まった。
カフェで少し話をしてからゆっくり歩く、外の風が気持ちよくて2人を包んでくれるかのように2人だけの世界のようだと佐東は感じていた。
お店に着き予約席へ座った、少し高いお店、キラキラしてクラシックが鳴っている
「あの、本当にこんな素敵なお店でいいんですか?」
「カナエちゃんは何も気にしない今日は楽しんで」
「は、はい、ありがとうございます」
とても大人しく謙虚な女性、今までこんな子は数少ない、自分にはこんな女性が合うのかもしれないと頬が緩む。
食事が進み勿論お酒も進んだ、お酒は人の本性をさらけ出す魅惑の飲み物そのせいか彼女がどんどん別人になっていく、ラスボスが戦う度に進化していくあの恐怖だ
「ってねー聞いてんの?、マジありえなくなーい?あいつさアタシの彼と付き合ってんの、あ元ね元、でねどーやって付き合ったんって聞いたらNTRってありえなくない!」
「えっと、そ、そうだね…」(えウソ、え?ちょっとこんな子だっけ…あれ?どっかで入れ替わった?)
拷問のような時間はさらに続いた、彼女はどんどん口が悪くなっていく、今までの爽やかで木漏れ日のような彼女が少しきつい香水を付けて色の濃いヒョウ柄を身に付けてそうな女になっていた
「あ、あのさ水飲む?」
「えー?もう酔ったのー?秀ちゃんよわーい」
「え、いやカナエちゃんに…」
(しゅ秀ちゃん!?今までそんな呼び方してないよね!?まじ誰!?)
彼女は何も気にせず自分の話を続けケラケラと笑う、お店の雰囲気には全く似合わない笑い声と声量この感じは安い居酒屋がぴったり似合ってしまう、これ以上耐えられる自信が無くなってしまった佐東は聞きたかったことを聞いた
「カ、カナエちゃんはもしかして昔ヤンチャとかしてたのかな…」
「やんちゃってなにその言い方うけるー、全然普通っしょ」
「写真とかあるかなー?」
「えー盛ってるやつならねーはーい」
とそこに映っていたのは今と違う金髪にものすごく派手などこで売っているのか聞きたい色の服だった
「!?、これいつの写真」
「これー地元に帰った時ー1週間前とかー?」
佐東はもう耐えられなかったこれ以上理想を崩されるのは見たくなかった
「ちょっと電話きて、せ、席外すね」
適当な理由をつけトイレへ逃げ深い深呼吸をした、鏡とにらめっこをしばらくしたそして覚悟を決め席へ戻った
「ごめんね、仕事の話だった、お店に戻らなくちゃ行けなくて」
「えーーマ?もっと飲みたーい」
「ご、ごめんまた埋め合わせするから」(ムリムリムリムリ)
何とか説得をしお店を出ることが出来た、彼女をタクシーへ乗せて佐東は急いで駅へ向かった、頭がパニック状態だった、理想は理想のまま触れてはいけなかったのかもしれない、いくらでも作ることができる性格、でもいつかは化けの皮が剥がれてしまう、それを受け入れることが出来るのかどうか試されるところだ、もしこれがテストだったら追試を受けてしまう、それでも佐東は追試を受けず退学になってもいいと思えるほど受け入れられなかった、逆を言えばそれ程彼女にのめり込んでしまったのだ、暖かい風がとても冷たく感じる。
男は馬鹿生き物だ、夢を壊されると立ち直れなくなってしまうのだから
「…はぁ、ムリだ」
携帯に目をやる、他の女の子からの連絡はなかった、今日は全て断ってしまった、自分を殴りたくなった、もう何も考えられないほど受けた傷は深かった、何も考えず適当に止まった駅で降りた、小雨のようポツポツと歩いていくとどこか懐かしい実家のような灯りが見えた、ガラガラと扉を開けたそこは、4人が飲んだあの居酒屋だった
「っしゃーしゃーませー」
「お客様お一人ですか?カウンターにしますかー?」
「あーはい」
ふぅ一息、腰を下ろそうとした時
「あ!佐東さん!」
「あらー!」
聞き心地がいい訳でもないがスっと入ってくる声が聞こえ振り返ると、そこに座っていたのは昭子と中村だった、2人の笑顔はまるで仲間を失い孤独で生きてきた主人公がある日木々が揺れる丘の上で聞き覚えのある声がして夢か幻か振り返るとかつての仲間がいたあの感動と同じだ
「店員さんここ相席で」
佐東はそう言うと椅子取りゲームのごとく座った。
*
日課がある人は必ずそれをやらないとその日一日不安になる人もいる、雀の鳴き声とキラキラ輝く朝日を浴びながらプロテインを飲む、いつも決まった時間決まった場所これはパワースポットだ、だがこの日だけはいつもの違った
「…しまった、寝坊した」
目覚まし時計が鳴ったであろうそれを眺め呆然としハッと我に返り急いで用意をし家を出た、自転車を引っ張り出したらまさかのパンク誰かのイタズラか何かあったのかもう時間が無い走るしかなかった。
「何でですか!」
昨夜は恋人とテレフォンセックスで繋がり、会話をしながら楽しんでいたそしていつの間にか寝落ちしていた、朝になれば勝手に起きるはずだが爆睡してしまった、相手も起こしてくれず通話を切った後「寝顔可愛かったから起こせなかったごめん」とメールが来ていた
「その優しさ!起こしてください!」
綺麗なフォームで走り新記録かもしれない速さで駅に着き電車に乗った、少し息を整え乱れた髪と服を直した。
恋人に返事をし何度がやり取りが続き最寄り駅に着き再びジムまで走った
「遅くなりました!」
「森さんがギリギリなんて珍しいですね、寝坊ですか?」
と気をかける後輩
「はい、すみません」
森は恥ずかしそうに笑い、着替えと掃除を済ませジムを開きいつもの仕事が始まった、が日課をやれなかった森はいつもと比べ調子が悪かった
「今日調子悪いんですか?森さんがミスするなんて珍しいですね」
「うーんプロテイン飲んでないからかもしれません」
「え?何ですかそれ」
本人にとってはすごく大事な事だが他人からすればそんな事で?と言われるような事笑われても仕方がないと言えば仕方がない。
夕方、仕事が何とか終わり今日は何もせず真っ直ぐ家へ帰ろうとジムを出てトボトボと歩いた、生温い風が気持ち悪かった何か起こりそうな嫌な予感、不安がスっと体を駆け巡った、何かあるのではないだろうかと周りを見渡しふと自分の鞄に目を落とした、まさかこの鞄に何かあるのではないだろうかそう思うと怖くなり鞄の中身を確認したするとあるものが無くなっていた、ICカードだ、改札を出て確かに鞄の中に入れたはず、森は自分の行動を思い返した間違いなく鞄の中に入れたそれははっきりと覚えている
「なんで無いんですか…」
もし誰かに使われていたらとチャージしたばかりだったのもありダメージが大きかった、更にゆっくりトボトボと歩き窓口へ向かい再発行の手続きと使用停止を行った、思わぬ出費でボロボロのメンタルを恋人に癒して欲しく電話をかけた
「でない」
仕事中なのか電話に出ない深いため息をつきメッセージだけ入れた、携帯を閉じ顔を上げるといつもと違う動きをする電車
「…え?…え!」
まさかの逆方向の電車に乗ってしまった、森は空いている席に座ったもうこのまま行くとこまで行ってもいいとボーッと外を眺めていると携帯が鳴った
「ごめん、今電車だからメッセージでも大丈夫…?」
後ろから知らない男の人の声がした、森は職場だからかと電話を早く切った方がいいと伝えようとした時小さい声で微かに聞こえた
「…ちょっ…今はダメだって……んっ…もぅ…ぁとで…」
あぁこれは職場ではないと確信を持った瞬間だった、森が好きな甘く優しい声いつも電話で聞いていた声だ、遠距離という事もありテレビ電話ばかりで連休が取れたら会って旅行など行き思い出を作っていたそれだけでも森は幸せだった、だが恋人はそうではなかったのかもしれない
「ねぇ、お邪魔だった?」
「ち、違うよ、あの…今仕事場で話してただけで!」
「寂しい思いばかりさせちゃってたかな?、ごめんね」
「…俊貴くん…そのゴメン…」
「ごめんか、やっぱりそうなんですね、そっか」
「え?あ、違う!」
「うんうん、そっか僕も悪かったよでも僕これでもいいよですよ、次会った時色んなドキドキがあって楽しくなりそうで」
「…え?何言ってるの」
森は優しい口調で話を続けた、浮気に怒る訳ではなくプレイの一環にした
「次会うときは3人で会いませんか」
「…ちょっと俊貴くん、まって何言ってんの」
「目の前で他人にやられてる君も見てみたいなーと」
「僕は…そんなヤダ!俊貴くんはそんな事言わない!」
「言いますよ?、別れますか?僕は今のままでもいいですが」
そう言うと涙をすする声が聞こえ電話を切られた、電車の揺れが妙に心地よくてため息をひとつ。人が誰かを好きになることは仕方がない、例え誰かと付き合っていたとしても心が正直なだけ、だったら好きな人達と一緒に時間を共有してもいいと、1人しか愛してはいけないなんてちょっとそれは酷な話ではないかと常々思っていた。
「なんで誰かって決めてしまうんだろう…」
ガタンゴトンと音が響く、何が間違ったんだろうどこから間違ったんだろう、電車の揺れる音が大きくなる、まるで何も考えさせないようにしているみたいだ
「次の駅で降りよう」
どこかで見た事のある駅、でも思い出せない
「…ふぅ」
失恋なんて今更、だけどなぜ傷付くのだろう、なぜ人は出会い別れを繰り返すのだろう、沈んたあとが薄く残る夕日世界を真っ暗に包もうとする空、綺麗な景色のはずなのに寂しく泣いているように思えた
「どこ行こう」
仕事が終わり同期や後輩先輩と飲みに行く人達友達や恋人と待ち合わせて遊びに行く人色んな人が行き交っていた。適当に目に入った雑貨店へ行った、暖かくてキラキラしていい匂いがし少し落ち着いた
「いらっしゃいませ」
少し細めの長身で綺麗な男性だった、その男性に少し目を奪われた
「なにかお探しですか?」
「えっとなにか癒されるものを…」
男性は柑橘系の爽やかさと花の蜜の甘さのような笑顔に思わず心のどこかで思っていたことを言っていた、「ではアロマキャンドルなどいかがでしょう?」森は男性店員の言われるがまま柑橘系のアロマキャンドルを購入し店を出た、彼の笑顔と少し触れた指先の感触を思い出しながらふわりと笑顔になれた
「よし帰ろう」
気分の良いまま駅へ歩いた時ドンッと肩がぶつかり紙袋が相手のカバンに引っかかり落ちてしまった「す、すみません!!」ぶつかった男性は深く頭を下げ怒鳴る上司の元へ走って行った、鈍い音をしながら落ちた紙袋を眺める直ぐに拾い中身を確認したハート型のキャンドルが綺麗に真っ二つになっていた
「…そうですか」
殺人鬼のような顔つきで近くの居酒屋へ入った、もう限界だった朝から寝坊ジムではミスICカードは紛失恋人は浮気それだけでいいじゃないかこれ以上不幸にしないで欲しかった、なのに最後に爆弾が落ちたようだった、雰囲気がいい店員から買ったキャンドルは真っ二つ、もう終わりだ、適当に歩き適当に店に入った。
「っしゃーしゃーませー」
「お客様カウンターにしますか?」
「…はい」
「森さん?」
「森さんお久しぶり」
「よっ」
「…」
森は少し涙ぐみテーブル席へ座った。
*
朝が強い人朝が弱い人、夜型の人間にオススメなのは遮光カーテン暗闇で生きたいわけではないが何も見たくないとか感じたくないとかそんなとき暗闇が心地よかったりする
「10時」
大きな欠伸をして思いっきり背伸びをした、脱ぎ散らかしたドレスに机に出しっぱなしのメイク床に転がっているヘアアイロン
「…はぁ汚」
いつもならもう少し寝ていてもいい時間二度寝も考えたが、部屋の散らかり具合を見てたまには掃除もしないと、でもベッドから中々動けない、頭の中はあれをしないとこれをしないととまるで大掃除なのに、顔を枕に押付け唸った
「起きるか」
まだ寝ぼけてゆらゆらと起き上がるとたま欠伸をひとつ、光を閉ざしたカーテンをゆっくり開けた、そしてまた背伸びをひとつ、よしっと小声でそう言うと顔を洗い部屋の掃除を始めた、1度初めてしまったらとことんやり込んでしまう性格だ、気付けば15時を回っていた
「え?もうこんな時間?」
携帯が光っていた、お客さんからの連絡が何件か来ていた、ソファーに腰を下ろし1人ずつ丁寧に返事をした、少し小腹がすき冷蔵庫にあるもので適当に作った、ここでビールの1杯でもやりたいものだ、綺麗になった部屋で何枚か自撮りをしお店のアピール
「今日のドレスは何にしようかなー」
自分の好きな服好きな色好きな自分、好きに生きることは難しい自分が良くても周りが認めることは無い、男は男らしく女は女らしく男はかっこいい服女はかわいい服、それは誰の基準なのか何故そうしないといけないのか、男の子が赤いランドセルでも女の子が黒のランドセルでも良い、色で女男決めるのは間違っている、女が男になっても男が女になっても、女が女を好きになっても男が男を好きになってもいい、誰も文句が言える立場ではない、誰にその権利があるのか
「よし!メイクもバッチリ、ドレスも決まり」
本当の自分なんて気付いたらなってるもの、それは苦しく生きていたらできない無理に笑っていたらできない、何も気にせずそうしたらきっと気付いた時には勝手に自分らしくなってるもの。
電車に揺られ夕日に染る景色が綺麗だった電車の窓がまるで額縁のように美術館にでもいるようだった、朝から起きただけ少し気分が良かった、たまには朝から起きるのも悪くない、スーツ姿の人学生服の人私服の人色んな人がいる、携帯を見てる人本を読んでる人友達と話してる人、人の目なんか気にならないが、たまに視線を感じるときがある男なのに化粧をして女の服装をしてるとクスクス聞こえる時がある、もうそれに慣れていた昔は下を向いてばかりで視線も話し声も聞きたくなかった、どんな人がいても良いでしょと言えるようになれた、最寄り駅についた時モデルのように綺麗に立ち上がりランウェイのよう歩く、周りは視線を送る
「あの人のヒールめっちゃ可愛くない?」
「は?え、あの人男じゃね?」
「え?そうなの!?」
お気に入りのヒールを褒められて気分がいい、ふふこれ良いでしょと鼻が高くなる、改札を出てカツカツと階段を降りる、外は暖かい風に綺麗な夕日、足取りが軽くお店に着いた
「おはようー」
「はぁ」
「ママどうしたの?」
「昭子さんおはようございます、ママ元気がなくて」
お店のママがため息ばかりで話そうとしない
「マーマどうしたのよー、元気だして開店前にいっぱい飲みます?」
「あっきー、ママ今日…お店閉めるわ!」
「え!?」
慌てるオカマ達何かに吹っ切れたママ、昭子が詳しく話を聞くと、3年付き合っていた恋人に奥さんがいて子供が2人もいることが分かったママが問い質すと遊びだったと本気になるわけないと言われ捨てられたのだ
「…ママ」
「何でなんですかね、私達人を好きになっただけなのになんでいつも2番で飽きたら捨てられて…なんでなんですか」
新人オカマちゃんはママの話を聞いてぽろぽろと涙を流した、ママは優しく悲しい顔で話してくれた
「誰かの1番なんてきっとなれないのよ、誰だって1番は自分自身なんだから」
優しく背中を撫でると新人ちゃんはまた涙を流した、昭子にも響く言葉だった
「…ママ今日はワタシたちで飲みましょ!」
「ありがとう、でも今からハワイ行ってくるわ」
「そう…え!?」
ママは何かある度ハワイでリフレッシュする、そのためお店に置いてある家具や雑貨がハワイ模様なのだ
「ママー私も行きたいですー」
「よし!皆で行くわよー」
「待って!いいの?」
「大丈夫よー」
捨てられたことなんかもう忘れたようにキラキラといつもの笑顔で《急用のため臨時休業致します、ごめんね♡》と紙に書いて扉に貼っていた、空元気なのか何なのか新人ちゃんも帰る用意を始めていた
「あっきーも来るでしょ?」
「あーワタシはいいわ、お土産楽しみにしてるから」
「えー行かないんですかー」
「2人で楽しんできて、ワタシはお店の子達に連絡するから何泊するの?」
「2泊3日!」
「分かったわ、戸締りしておくから」
「昭子さんありがとうございます、ママ服取りに帰っていいですか」
2人でウキウキしながら準備を始め新人ちゃんはお店を出た
「あっきーいつもごめんね」
「ママ、…ママが居てくれるからワタシ自分らしく居られるのよ、だからママが元気ないとワタシ嫌なの」
本当の母のようそっと抱きしめてくれた、お店の子達に連絡をしてお店に閉めた、ママは常にハワイセットとして用意しているキャリーケースを持ち出し新人ちゃんを迎えに行った、急遽休みになったお店の前でふぅと肩を下ろす
「暇になっちゃった、まだ19時、どうしよう」
お店の前の踊り場でゆっくりしていたとき、常連のお客さんが声をかけてきた
「あれ?今日はどうしたの?」
「岩本さん、ごめんなさい、ママが急用のアレでちょっとねー」
「あーハワイかー」
ガハハと笑いながら言い、昭子は申し訳なさそうに笑った、お店の前で話していると折角だしと2人で食事をすることになった
「休みになったのに付き合わせてごめんね」
「いえ、ワタシもどうしようかと思っていたので、岩本さんとお食事できて良かったです」
楽しい食事もお客さんとの時間も終わり、駅まで話しながら帰ろうとした時、携帯が鳴った、お客さんはごめんよと言い電話に出た
「ごめんね、嫁からだ急いで帰らないと」
そう言いペコリと頭を下げ早足で向かっていった
「また1人になっちゃった…はぁ」
お客さんと飲むのは大好きだけど、イメージ通りしないとと気を張ってしまう、綺麗で凛として上品でと、本当は大口開けて笑いたいしグビグビお酒を飲みたいと
「家に帰って飲み直すか!」
夜になった街はネオンで綺麗に輝いているこんな街は嫌いではない、携帯がブルブル震えたお客さんから休みなの?という連絡が何件か来た、オカマのお店だが人気がある、ごめんなさいなどと返事をした、ふとトーク履歴に彼ら3人の名前を見てあのお店が頭を過った
「行ってみようかな」
電車に乗ってあの街に降りた、どこだっけと周りを見渡しながらゆっくり歩いているとトンと人にぶつかった
「すみません」
「いえ、大丈夫ですか?」
ぶつかった作業着の男はさっきまで仕事をしていたのか少し汚れていた、少し焼けた肌に剃っていない髭、彼から目が離せなかった
「…あ、えぇ大丈夫です」
遠くから早くしろと彼を呼ぶ声がした、彼は頭を下げ道具を担ぎいってしまった
「……かっこいい」
すっかり彼の虜になっていた、恋をした女の子はフワフワとした気持ちのまま歩いたらいつの間にか赤提灯が見えた
「あ、この店」
ガラガラと扉を開けた
「っしゃーしゃーませー」
独特の掛け声、お店の中にはチラホラとお客さんがいた、もしかしたら彼らと出会うかもしれない今日はとてもいい日だから運命を感じたから
「テーブルでもいいかしら」
「はい、ではこちらへ」
座った席は初めて出会った場所
「ふふ本当に運命みたい」
ビールを1杯頼みグビグビと飲んだ、喉が気持ちよくなった、しばらく一人で飲んでいたらまた扉が開く音がし目を向けると、中村が息を切らしながらお店に入ってきた
「あれー?剛士くん?」
そう言い一緒に飲んだ、久しぶりの再会ワクワクが止まらない、また暫くするとお店の扉が開く音
「…あ」
「あー佐東さん!」
「あらー佐東さん」
疲れきった彼の顔がだんだん明るくなっていくのが分かった、座ると同時にビールを注文する、何かあったのだと分かった
こんなに出会っていいのだろうかと贅沢だなとでももう1人また会えたらなと
3人で楽しく飲んでいるとまた扉が開く音もう彼しかいないだろうと、なぜか彼らのときは扉の音が違う気がした彼らが来ると知らせる音に聞こえた。
すごく怖い顔で人でも殺めてのかと思えるほどの姿だった
「森さん?」
「森さん!お久しぶりです」
「よっ」
これで全員揃った、昭子は嬉しくて仕方がなかった
*
連絡先をもっていても連絡をとっていいのかなど悩んでいた、たった1回会っただけそんな人と会って飲もうと思ってもいいのだろうかと
ニコニコする昭子、上司の愚痴を言う中村、女性の理想に裏切られ慰めを求める佐東、朝から不幸な出来事が続き励まして欲しい森、それぞれ今日の出来事を話していた
「もうあんな会社爆発して消えてしまえばいいんだー」
「そうだそうだ!見た目と中身のギャップは時として相手を傷つけるんだー」
「そうだですよ!なんでこんなに悪いことが続くのか、僕何かしましたか」
「…皆会話できてないわよ」
4人ともそこまでお酒に弱い訳では無い、だがたまにはリミッターが壊れる時があってもいい普段はきちんと守っているのだから、でも守ってばかりでは疲れてしまう、何と言うべきか分からないが彼らがこの人たちならと思ったからそれは心強かった
「なんで上司ってバカみたいなやつらばっかりなんですか、道徳やり直せよな」
「道徳って大事だよな、保険体育も大事だ」
「道徳ですね…僕小学生の時佐藤先生って人がいて好きだったんですよ」
「気まずいわ」
「さとう違いですね」
「「「フフフフフフ」」」
「悪の集団みたいな笑い方やめてよ」
どんなに最悪な日だって4人が集まれば最高の日に変わるかもしれない、笑うとあっという間に時間が経ってしまう、次はいつ会えるのか、また会うことが出来るのか彼らの関係は友達と言ってもいいのだろうか
「ねぇ皆、今度は連絡して集まらない?」
嫌だという者はいないが確認をとった
「もちろん」と皆、学生時代の同窓会のように心がワクワクしてどんどんお酒が進む
「昭子さんニコニコしてずるいです」
「そうですよー俺にも幸せ分けてください」
「別に幸せとかじゃないわよー剛士くんまた泣いちゃうのー」
「泣かないですよ!」
そう言うとハイボールを流し込み顔を真っ赤にさせる
「昭子さんって中村さんのこと下の呼び方なんすね」
「「「…ホントだ」」」
三つ子のようにピッタリ揃った
まだ2回しか会っていないから仲がいいかと言われてもそうですと答えられない、呼び方や話し方もどうすればいいとかそんな事はあまり考えておらず自然と出た言葉で会話していた
「たぶん俺1番年下なんで固くならないでください」
「え?中村さんいくつなんすか、って前聞きましたっけ?」
「…たぶん?」
飲みすぎて覚えてない事なんてよくある事だ、だけど大切ことは覚えておいた方がいい
「27ですよ」
「まじ?オレ29だわ」
「なんで全然気軽に話してください」
「じゃあ皆敬語やめる?折角だもん、仲良くなりたいじゃない」
「そうですね、…って僕敬語が癖で」
大人になってから友達作りをするのは難しい子供時は何も気にせず気付いた時には友達が出来ている、いつからだろうこうすれば友達と決めるのは、子供と大人の違いってなんだろう、いつから大人になるのだろう。
大人になっても少しずつ子供みたいに友達を作ってもいいじゃないか
「あっきーさんお店しばらく休みなの?」
「えぇママがハワイ行ってるから」
「いいすねーハワイ、俺行ったことないすよー」
「ハワイ良いですよね、海すごく綺麗で」
「森さん行ったことあるんですか!」
「昔付き合ってた人と」
少しずつ崩した話し方で盛り上がった、初めは照れくさいのもあったが段々慣れていき話していて楽しいと思えるようになった、人との会話で楽しいと思えるのはすごく素敵な事だと思う、会話が苦痛な人とは何しても上手くいかない距離が出来るだけだ。
居酒屋では4人の笑いが溢れていたらもう日付が変わろうとしていた
「あっという間に時間経ったな」
「え、今何時ですか!?」
「えっと0時16分ですね」
「あら剛士くんそろそろ帰る時間?」
「…明日も朝早いんで」
「一気に顔暗くなるな」
「そんなに辛いんですね…大丈夫?」
「スーツ似合ってるわよ」
「ありがとうございます」
楽しいと楽しくないの繰り返しで人生に刺激を与えているんだろう
「皆明日もあるし今日はこの辺にしますか?」
「そうすね、いつでも会えるし」
「えぇそうね」
「またすぐ会いたくなりますよー」
佐東が伝票を持っていこうと手を伸ばすと3人も同じよう手を伸ばしまるで円陣を組んだようにも見え思わず笑った、ここは割り勘でと、この4人ならなんでも笑い話になってしまう。
帰り道、部活帰りの学生のようにはしゃぎながら駅へ向かい改札を通った、同じ電車の中村と昭子、別のホームへ行く佐東と森、30手前になってバイバイと元気よく手を振って別れるなんてあるんだなと微笑ましくなる
「森さん乗り換えっすよね」
「うん、座ってもいいですよ」
「座ったら寝そうなんで、大丈夫」
「あはは」
「昭子さん座りますか?」
「いいの?」
「はい、ヒールですし足辛いと思って」
「もうー剛士くん優しーこんなに優しいのに女の子は見る目ないわねー」
「あはは…何でなんですかね」
「つ、剛士くん元気だして!」
乗り換えの駅に着いたり最寄り駅に着いたり、それぞれ1人になった
静まり返ったいつもの道、それぞれの携帯が鳴った、昭子が1人1人に送ったのだ今日出会えたこと楽しかったことを送った、ながらスマホは本来してはいけないが初恋のように連絡が来るのが楽しみで仕方がなかった、昭子がグループに招待をした、3人は笑いすぐ入った
「なんか友達みたいでいいなー楽しい」
「ママには悪いけど行かなくてよかった」
「寝坊はしないようにしないと」
「なんかガキみたいなことしてるな」
心の支えとかそういうのは大人になるにつれて無くなっていったり作ろうと思わなくなったり大事にしすぎて他を大切に出来なかったり色々あるけど、支えとか重く考えなくてもいいのではないだろうか、自分自身で無理をさせると苦しくなるから何も考えなくてもいいと思う。
きっと突然、思いもしないところで勝手に自分にとって支えになる人ができている。
だから言いたい、無理して人付き合いしなくてもいいと、あなたがあなたらしくいられる道を選んでもいいと。