何が悪いんだ
世界は広い世間は狭い
出会いは多く運命は少ない
下を向いて歩いている訳では無い、上を向いて歩いてる訳でもない
友情や愛情に名前があるのか誰かを好きになるのに理由はいるのか、友達は何人いるべきなのか、上司と部下どちらの話を聞くべきか、先輩と後輩どちらと付き合うべきか、お酒とお金どちらが大事か、男と女は何が違うのか、トマトとプチトマトは何が違うのか
生きていても答えは見つからないことだらけだ。
人生は辛く困難な思いをしたやつが成功を遂げるそう誰かが言っていた気がする。
ライト兄弟は飛行機を作り飛ばすことに成功した
エジソンは初めて電気を発明した
レオナルド・ダ・ヴィンチは万能の天才と呼ばれた
ガリレオは望遠鏡を開発した
ジェームズ・ワットは蒸気機関車を発明した
リンカーンは大統領になった
エジソンは動画撮影機や色んなのを発明した
他にも色んな人がいる
では、困難に立ち向かわなければ成功者とは呼べないのか、ただ生きていることは違うのか、彼らにも分からないことはあったはずだ
たぶん、モテたくてもモテないやつの心や、もういい年だし大人になったからなと言いながらも遊んでるやつの気持ちや、好きや愛してると伝えているのに何も伝わっていないやつの想いや、趣味が拗れて相手にされず上手くいかないやつの感情、彼らにもきっと分からない。
これは誰にも分からない
それでも、歩き続けるしかない、生きているから。
[第1何が悪いんだ]
広過ぎず狭過ぎず味は美味く値段は安いだが店主のクセがすごいそんな居酒屋で飲むのが定番となっていた。
「仕事が恋人ですーってな訳ないだろ!ほしいよ!見て親方空から女の子が、俺は彼女を救い、彼女のためなら空賊にでもなれますよ、どんな王族だろうが地球が滅びようが俺は彼女の手を離さない!!」
「それジ○リだろ」
「うーんそうねワタシだったら、怖いやつに追いかけられてるところを助けてくれて魔法で老婆にされても嫌な顔一つしないで傍に置いてくれて彼も為に家政婦になるわ、そして彼を守るためにワタシも戦うの遠い昔に出会った運命なの、そしてワタシ達は家族で幸せに暮らすの」
「何お前ら○ブリ見てきたの?」
「いいですね、僕は大切な子の親が豚にされて不安な中癖のある上司の下で働いてすごいお客さんが来ても頑張って働いてる子を近くで見守りたくて応援の仕方が間違ったけど最後は仲良くして一緒にケーキ食べたいなー」
「なんかお前だけ違うな」
「「「いいよねー」」」
「なに!?お前ら3人揃ってジブ○見てきたのか!おい!」
「たこわさのお客様ーお待たせしました」
「はーいワタシ」
「俺ビールお願いします!」
「僕はハイボールを」
「かしこまりましたー!」
「…帰りTSUTA屋行くわ」
彼らは昔からの友達という訳では全く無い、偶然が偶然重なってできた偶然だった、偶然が集まれば奇跡なのかもしれないがそんな言葉は夢見る子供が使う言葉だ。現実を見ているようで見ていない大人は子供と変わらない、大人も子供もみんな好きな映画を大声で馬鹿みたいに話をしたり、子供の頃の夢を未だに引っ張ったり、大人っぽくなりたくて背伸びばかりして足が吊りそうだ。
高いスーツを買うことがかっこいい男
優しくて一途なやつがかっこいい男
一生懸命なやつがかっこいい男
中身がしっかりしたやつがかっこいい男
がいいとかそんな人と結婚したいとか恋人に欲しいとか聞くが、現実は難しい。
頑張って頑張って背伸びして頑張って
あれ?どこまで頑張ればいいのか、大人の階段を登っているのに一向に届いている気がしない、そうか彼らはまだシンデレラなのかとあの歌のあのフレーズが出てくる。
彼らは世間とのギャップに押しつぶされそうになりながらも必死に生き、自分の好きなように生きるのは難しい時もある、そんな時はどうしたらいいのだろうと、人生に疲れた時ほんの一時でもいいから、誰かに慰めてほしくて励ましてほしくてバカ笑いしてほしいだけ、でもこれってきっと誰もが思っていることではないだろうか、みんな同類を探してしまう弱い生き物だから。
出会いなんて時として簡単な話だ、なんせ世間は狭いから。
彼らが出会ったのは、友人の結婚式だった、広い綺麗な式場、綺麗な新郎新婦、美味しい料理、素敵な友人に囲まれ輝きの涙を流し両親への手紙、これはまさに人生の勝者の景色と言うものかもしれない。
「おめでとう」
「ありがとう」
その言葉はどこでも飛び交っていた。
*
「咲妃おめでとう」
「剛士くん!来てくれてありがとう」
「似合ってるよ、いい人そうで良かったな」
「うん、ありがとう」
(彼女は山田咲妃、今は青木咲妃、俺の中学からの友人だ。
俺は中村剛士、一般会社員で年齢27歳、血液型はA型、好きな事はアニメ•映画鑑賞そんな時間ないけど、子供の頃の夢はヒーローだったなー変身ベルト着けて遊んでたなー懐かし。)
披露宴も無事に終わり二次会が始まった、式には来てなかった人達がチラホラと居た。よく結婚式で出会って友人になりそのまま上手くいくというパターンもあるにはあるが中村は1人ポツリと飲んでいた。
*
「咲妃ちゃん披露宴行けなくてごめんなー、これお祝い、ホントおめでとう」
「秀哉先輩、良かったー間に合ったんですね」
「まーな、旦那呼んでるよ」
(オレは佐東秀哉、楽器店のオーナー、年齢は29歳、血液型O型、好きな事ギター弾くこと楽器なら何でも弾けるよ、少しバンドを組んでたけど色々あってね、子供の頃の夢は消防士とかだったな、なんでだっけかっこよかったからかな。)
出会いは自然とやってくる、佐東は壁に寄りかかりお酒を嗜んでいると女性が声を掛けてきてニコニコと話し日常のようにさらっと連絡先を交換していた。
*
「咲妃ちゃん二次会のドレスも綺麗ね、またいつでもお店に来てねー今度はワタシもいい男見つけるか」
「あっきーもドレス綺麗だよー、絶対行く!彼氏紹介してね!」
(ワタシはあっきー昭子って呼んでね、本名はヒミツ、年齢はいつでも乙女、血液型は私のカップと同じBなんてね、好きな事は料理を作る事いつでもお嫁に行けるわよ、子供の頃の夢はヒミツ、女の子は謎が多い方が魅力的なの。)
綺麗なドレスを着た女性たちの中でオカマが1人、綺麗なメイクにドレス周りは偏見もなく彼女と同じ話題で盛り上がりお酒を飲んでいた。
*
「俊貴先輩楽しんでますか?」
「山田、いやもう青木だったね、楽しいですよ色んな人がいて」
「良かったです、テラスもあるので楽しんでいってくださいね」
「ありがとう」
(僕は森俊貴、ジムのトレーナーです、年齢は30歳血液型はA型です、好きな事は筋トレ、ビルダーもしてます、子供の頃の夢はパン屋さんだっけ両親の後を継ぐとか言ってたっな…)
だた1人で時間を潰して人に話しかけたりせずニコニコしている、不思議なもので出会いを呼んでいるのか森の元へ次から次へと色んな人が話しかけてきた、少し会話をしすぐ彼の元を離れていく。
*
まだこの時はお互い顔を見ることは無かった、この賑やかな場所と友人の幸せな顔を見てどこか羨ましいなと心に隙間風が通るのを感じるしかなかった、それを防ぐため中村はお酒に手が伸びるしかなかった
「あの、大丈夫ですか?顔赤いですよ」
(え?あぁ俺か、大丈夫ですよ)
気を使って話し掛けてくれた女性の反応を見た中村は自分が上手く話せていたいことに気づいた
「しゅみません、らいじょうぶれす」
フラフラと立ち上がりテラスへ出て4人掛けのベンチへ座った。
(あぁこんなに飲むなんて思わなかったなー、はぁそう言えば最近いい事なんにもないなー)
「お隣良いかしら?」
「ふぇ?あーはい、いいれすよ」
「ふふ大丈夫?飲み過ぎちゃったの?」
そう笑う昭子にへらりと同じように笑った
「お水取ってきてあげる」
中村はペコリと頭を下げた
「あーはいはい、どうしたー?」
電話をしながらテラスへ出てきたのは佐東だった
(なんかチャラいなーこの人、披露宴に居たっけ?あんなピチッとしたパンツよく履けるよなーほっそ)
ジロジロと佐東を見ていたら、当然のように目が合ってしまった、こんなに賑やかな場所なのにとても静かに聞こえた
(やべ目が合っちゃった、え?睨まれてる?ウソまじ?え?なんかすみません)
(なんだコイツ声デカかったか?すげぇ見てくるな早く電話切るか)
「あーまたかけ直すわ、今大学で仲良かった後輩の結婚式の二次会でさ、いや、ホントだって、え?嘘じゃねぇよ、ちょっ、おい、まっ…」(なんで女ってすぐ浮気だとかそういうの疑うかなー……って視線感じるなー)
「あのーすいません、うるさかったすか?」
(恋人かな?いいなー恋人か、そういや俺いつから居ないっけ…いや…あー悲しくなってきた)「いえ…だ、大丈夫です」
そう言うとポロポロ中村の目から涙が零れた、お酒の飲み過ぎで情緒不安定になったのだ中村は別にお酒が強いという訳でもないがここまでなるのは珍しい
(え!?うっそだろ、え!?オレ泣かせた?なんで!?えぇ)
「え、えっと、あの、大丈夫か?」
「だいじょうぶです」
(えぇぇ絶対大丈夫じゃねーだろ、まじなんなのこいつ、誰か助けてー)
「あのー何かありましたか?」
「え!、あ、いやなんか泣いて、て…」(いや、これオレが泣かしたって思われるよな!?)
「これ良かったら」
そう言い膝を付きハンカチを取り出した、それはまるで王子様のように爽やかな笑顔だった
「あ、ありがとうございます」
「いえ、何かありましたか?」
「え、あ!違うんです、大丈夫です」
(オレのせいではないよな!?、てかこいつ体デカっ!!足スゲーな、え、オレやっちゃった?)
「あ、あの」
「え?あ、はい」
「急に泣いてすみません、あのたぶん酒の飲み過ぎで」
「あー!そうだったのーいやー大丈夫なら良かったです」
「お待たせ、お水よ…」
少し肩幅のある女性?がキョトンとしていた
(いや、確かにこの状況凄いよな、分かる分かるけど違うから!)
ベンチで泣く男、泣く男にハンカチを差し出す男、それを見て顔を困っている男、その状況に戸惑いながら水を持ってきたオカマ
まるでギャグ漫画のワンシーンのようにカメラが何カットにと描かれたような気分であった。
「ビックリしちゃったわ、戻ってきたら急に泣いてるんだもの」(泣き顔ちょっと可愛かったけれどね)
「あはは、すみません」(恥っず!)
「僕は喧嘩でもしたのかと思いました」(泣いてる顔可愛かったな)
「いやーオレが泣かせたのかとマジでビビったすよー」(いや、ほんとに)
あはは、と笑いながら無事に状況を説明した、これで問題は解決したかと思われたが更にもう1つ次の状況を説明しなければならない、それは4人がけの椅子に今日初めましての彼らが座る事になったという事だ。
(なんでこの人達も座ってんの?俺が座ってたから?え?男3人でもキツいよ、てかこの人でかい!)
(待て待て!オレ座る意味あるのか?最初はオレが泣かせた?みたいになったけど座る意味は!?)
(あらーワタシお邪魔しちゃって良いのかしら?それにしてもみんないい男)
(やっぱこの子カワイイ系の顔してる、ちょっと目にクマ出来てるけど)
人とは不思議な生き物で、無意識に他人がやっていることを真似してしまうという特徴を持ち、誘われたら断るのが下手という生き物だ、昭子は持ってきた水を中村に渡すため椅子に座った、ゴクリと水を飲み少し酔いが覚め、「ありがとうございます」と礼を言うと森が自然と隣へ腰掛けニコニコと微笑みを中村へ向けていた、佐東は会場へ戻ろうとした時あなたもどうぞと森に誘われ座るしかなかった、別に断ることも出来たが何を考えているのか読めない笑みを向けられ座るしか無かったのだ。
(なんでオレ誘われたの?何で断らなかったんだよ!)
(この人もいい人そうだなー本当今日来てよかったな)
(少し気分良くなったかしら?)
(俺が座ってるからなのか!?え?立つ?立った方がいい?中戻った方がいい!?)
互いに複雑な様な楽しい様な感情がぐるぐる駆け巡っていると、会場からアナウンスが聞こえた
「それではそろそろお開きと致します、三次会へ行ける方が居ましたらこちらまで」
今だ!と言わんばかりに勢いよく佐東は立ち上がった、その姿はまるで優等生が背筋良く挙手し先生に指名され席を立ち上がるように綺麗な立ち姿であった
「じゃ、オレはここで」(よし!言った!これでよく分からない状況から解放される)
「そうだ、良かったら4人で飲みませんか?」
一件良い提案だがこれは中々問題発言だ
「いいわねーワタシ明日遅いし大丈夫よ」
(は?マジか、おい泣き虫断れ)
「はい、俺もせいもあるのでそのお詫びもしたいです」
(おいーー泣き虫ーー!!)
これは強制ではない断っても誰にも攻められることは無いだがなぜ佐東は断れないのか、それはこの状況を作ってしまった元凶でもあるからだろう。3人は席を立ちどこへ行こうかと話が進んでいたそして中村が温かい眼差しで佐東を見つめていた、すると1人もう1人と結局3人に見つめられ断ることは出来なかった
「……行きます」
だが、この出会いがあったからこれからも彼らの人生に大きく響くものになるとはまだ誰も知らない。
「ここいいお店ね、ワタシ知らなかったわ」
「会社の同期とかともよく来るんですよ」
「料理も多いですね」
二次会場を出て電車に乗り何駅が行ったところにある中村のお気に入りのお店へ行った、後にこの店がこの4人の集合場所になる。
渋々着いて来た佐東はちびちびと飲んでいた、3人はいつの間にか楽しく話す仲になっていた
「大丈夫ですか?」
「え?あーはい」
「もし、予定があったらいつでも行ってください、少し無理矢理連れて来たのもあるので」
「あはは…、ありがとうございます」(こういう時に誰からも電話とかこないんだよな…頼む誰か!電話してくれ、ここから出してくれ!!)
佐東の願いが届いたのか携帯が鳴った(よしきた!)「すいませんちょっと電話を」
3人はどうぞと言い、佐東は外へ出て電話に出た、その間残りの3人は自己紹介をしていた
「そう言えばまだ名前言ってませんでしたよね、俺中村剛士って言いますサラリーマンやってます」
「そうね、ワタシは昭子あっきーって呼んでねバーで働いてまーす」
「サラリーマンだったんですか、目のクマが出来てたから何してるのかと思いました、僕は森俊貴です、トレーナーしてます」
「だからすごい筋肉なんですね」
ほんの他わいもない話これはまるでお見合いの空気感と一緒だ、特に盛り上がらない話をニコニコと笑いどうでもいい自己紹介のトークをする。
*
「もしもしすげー助かったわ、どうした?…
え?今?今は…居酒屋、ちょっと訳あって…え?マジ?行く行く!絶対行く、違うって舞に会いたいからだよ、当たり前だろ、すぐ行くから待ってて」
ガラガラと扉を開き少し顔色が良くなった佐東が入ってきた
「すいませんちょっと友達に呼ばれて」
「はい、分かりました、俺のせいで無理に来てくださってありがとうございました」
「いやいやそんなことないっすよ、これお金置いときますね、では」
佐東は自分が飲んだ分のお金をテーブルへ置き少し急ぎながら店を出た、謎の解放感そしてこの先に女の子が待っている幸福感に佐東はスキップするテンションで駅まで走った、
残った3人はほのぼのとした空気のまま話をして連絡先を交換していた
「ごめーん、お待たせ」
「秀哉ー遅いよー」
「ごめんな舞」
女性の腰を抱きそっと頬にキスをした
舞という女性の友達がモデルの卵でその他にも何人かで飲んでいるから来ない?というものだった、佐東は女性が大好きだ、美しい女性の中に佐東が1人このハーレム空間はまさに天国、しばらく楽しんでいると舞の電話が鳴り少し揉めているようだった
「どうした?」
「えっと…大丈夫」
そうか?と話をしていると男の声がした
「舞ここに居たのかよ、誰だそのチャラい男」
「あ?あんたこそ誰?舞に何の用?」
そこに現れたのは佐東より少しガタイのいい男性だった、その男は自分の女だと言い佐東を浮気相手だと思ったのか胸ぐらを掴んだ、
近くにいた女の子達は隅へ逃げ店は大混乱になり売り言葉に買い言葉いつの間にか喧嘩になっていた
(なんでオレがこんなことになってんだよ!友達の二次会に行って楽しく飲んでたら泣き虫野郎に出会うし、分かんねぇ奴らに絡まれるしよ!何なんだよ!)
「くっそボゲェ!」
店の外まで飛び出し喧嘩は続いた、舞はやめてと止める、冷静になればこの女性が二股をしていたのだ
「おい!舞!こいつなんだよ!」
佐東が叫んだが舞は何も言えず黙ったままだった、それに察したのか「浮気してたのかよ」と再び叫んだ
「だって秀哉他の女の子と一緒デートしてるの見たんだもん、私じゃなくてもいいんでしょ、私は私だけを愛して欲しかったのに!秀哉が悪いんだもん」
泣き叫ぶ女に男は俺の女を泣かすな俺が舞を幸せにするんだよ、と佐東をぶん殴り飛ばされた
「なんだよこれ……意味分かんねぇ」
*
「え、ボディビルダー出てたんですか!?」
「うん一番絞ってた時でこれかな」
「うっそすごーい、良い意味で人間じゃないみたいね」
「いやーありがとうございます」
相変わらずたわいもない話に酒も進み少しずつ自分達の話もできるようになったがいざって所は誰も踏み込まないようにしていた、佐東が店を出て2時間は経ち時刻は0時を越えようとしていた
「そろそろお開きにもする?剛士くん明日お仕事なんでしょ?」
「そうですね」
「あのまた一緒に飲みませんか?」
「もちろんです」
「ワタシも賛成、連絡するわね」
意外に3人の波長は合っていたのかもしれない。
さてと、と会計を済まそうとした瞬間、まるで道場破りにでも来たのかと思わせる勢いで扉が開き店内の全ての人が一点に集中した、そこに立っていたのは顔が腫れ鼻血も出てボロボロになった佐東だった、もちろん3人は顔見知りなのですぐ佐東のそばに駆け寄った
「どうしたんですか!?」
「ちょっと血を拭かないと、店長さん氷とタオルを」
「とりあえず、こちらへ座りましょう」
佐東は何も言わず森に支えてもらい先程まで座っていたテーブルへ戻った。
戻るつもりなんてなかった、真っ直ぐ家に帰ればよかった、自分より少しガタイのいい男に殴られ女に浮気されていて何も考えられなかった、殴られたところが熱くて痛くてもういい歳なのに泣きそうになった時、ふわっと頭に過ぎったはあの3人の顔だった、彼らに会ったって何がどう変わるわけないのに何故か足が向いた、たった数時間一緒にいて始めは嫌々だったのに直ぐにどこかに行きたかったのに、なんでだろう分からない。
「ワタシが持ってる絆創膏だとこれしか無いわ」
「俺2枚持ってます」
「僕お店の人に聞いてみますね」
少し顔を上げると昭子が腫れているところを氷で冷やしてくれていた、中村は血が固まっているところを濡れたタオルで拭き絆創膏を貼ってくれて、森は心配そうな顔で見守ってくれていた、まだ見ず知らずの自分にこんなにしてくれるのはなんでだろうと目頭が熱く
て熱くて涙が止まらなくなった
「オレなんで…悪くねぇよ訳わかんねぇ、好きとか何しても嫌いにならないとか言ってよ、寂しくなったら電話しよとか言ってよ急に携帯チェックするしよ、こっちの事お構い無しでよ、意味分かんねぇ、そりゃ男だし女の子見ちゃうよ女の子好きだよ何がいけねぇんだよ、好きだって言ってんじゃん、浮気してたのそっちじゃんってお前もしてるのに言うなよってさ、なぁ!」
初めてだった、初対面の彼らにこんな不細工な姿を見せたのはと。
そっと佐東の背中を中村が摩った誰も何も言わず、29歳の男が女に振られて知らない男に殴られて泣くなんて人生の中でこんな波乱な事早々ないことだと思う、これを貴重な経験と終わらせるのかこれをどう切り替えるのか、それは人間のデカさによる。
少し落ち着いたのか涙は止まった、他にいた客はこの状況をどうしたらいいものか終電もあるからか店に残ったのは彼ら4人と店長と店員3名だけだった
「ごめんなさい、お店何時までですか?」
「今日は好きな時間で閉めるからまだ大丈夫だ、バイトは全員上がっていいぞ」
バイトは顔を合わせお疲れ様でしたと帰っていた、沈黙が続いた
「…っ、すいませんした」
「大丈夫ですか?」
「わりぃ、オレ変なこといっぱい言ってあの、店もその開けてもらってすいません」
店長は何も言わずそっと水をテーブルに置いた
「良いんじゃないかしら、ずっと言えない事って言わないままでいたら苦しいもの、いつか爆発しちゃうなら関係ない人達の前で爆発さ
せた方が気にならないものよ」
「そうですね、僕もお付き合いしていた人と酷い別れ方した事ありますし、結構ダメージでかいんですよね、あれって」
「…あざっす」
佐東はテーブルに置いた水を一気飲みし自分の頬をバチンと叩いた
「もう大丈夫です!ありがとうございました!」
彼らも店長も安心したようにそっと笑顔になった、そしてまだしてない会計をして謝罪金として佐東が渡そうとしたら
「次来てくれたらそれでいいよ」
と白い歯をキラリと輝かせながら言ってくれた。
4人で店を出て駅まで歩いていると佐東が提案した
「まだ時間ありますか、最後に1杯だけ付き合ってください」
「もちろんよ」
「はい!」
「1杯だけなら!」
4人の背中は数年ぶりに再開した同級生のような暖かい思い出に包まれているようだった。
コンビニで好きなお酒を買い公園で1杯
「「「「かんぱーい」」」」
「オレ今日めっちゃ嫌な奴でしたよね、すいません!オレ、佐東秀哉って言います、さっきの居酒屋ですげー色々言ったけど、その彼女に浮気されていてその浮気相手の男にボコボコにされてあーなって、…その名前も知らないこんな奴に優しくだってありがとうございました!」
ピシッと背筋良く深々と頭を下げた
「頭を上げてください、佐東さんは悪くないで
すし嫌な奴じゃないですよ」
森も昭子もポンと背中を叩き3人も改めて自己紹介をした。
公園でお酒を飲みながら今度は4人で笑いながら話をした、大人になると人付き合いや気遣いで中々バカ笑いしながら飲んで好き勝手思った事を言えなくなるものだ、でも一瞬ほんの一瞬の油断で今まで言えなかった話をした、するとスラスラとひねった蛇口の様に溢れ出た
「佐東さんいい人いるなら紹介してくらさいよ、俺ずーーっと年齢イコールってやつで彼女いたことないんですよ!」
「えーワタシじゃだめー?まだ工事してないけどー」
「中村さんって女の子限定ですか、僕は気にしないんで大丈夫ですよ、何プレイが好きですか?」
「なーに言ってんだよ、オレの知り合いギャルとか隠れビッチとかだしタイプ合わねぇって、どうせ清楚系が好きとか言うんだろ」
だがこれもまた一瞬我に帰る時がある、やってしまったなと誰もが思った
隠していた秘密
(やっちまった…彼女いたことないって言ってしまった…童貞ってバレた)
(やってしまったわ…綺麗な女性でいたかったのに男だってバレてしまった)
(これは言わない方がいいやつだっけ、やってしまったな)
(…え?いや俺はさっきすげーボロ出したからいいけどさ、え?皆なんて?)
静止画、笑顔のまま固まってしまった、これは、誰が口を開くかの勝負だ
「…えっと、わりぃ皆なんて?」
「「「……あははは」」」
「…別に良いんじゃないかな、聞かれたくなかったんなら今の聞かなかったことにしてさ」
「そうね、でもワタシはいいわ、ここまで言えたことにビックリしちゃった」
オカマって引かれたらもう何も言えない、本当の事だから、だけど大人になってこんなに仲良くなりたいと初めて思ってこんなに楽しいと思えたのは、昭子は残念そうに感じた。
「僕、前付き合ってた人に自分の性癖とか変な事人に言わない方がいいよって黙ってればいい人なんだからって言われて別れたことあってそれから自分出すの怖かったんですよね、なので僕もびっくりしました」
男は女を好きになるものそれが当たり前でそういう世間だ、初めて両親に男性と付き合っているとカミングアウトした時は泣かれそれから誰にも言えなく自分を作るのが苦しかった、だから彼らと会いこんなに楽しい時間は久しぶりだった、折角なら友達になりたかったと寂しく感じた。
「この歳で、童貞って凄く笑われて恥ずかしくてずっと嘘ついてたんです、付き合ったこともないのに付き合ったことあるかのように話し適当に作って笑って、…俺もビックリしてます」
成人式に童貞だと周りに知られ好き勝手に言いふらされ、友達も居なかった為誰も助けてはくれなかった、本当は成人式なんて行きたくなかったけど記念になるからと仕方なく行き嫌な思いをしそこから風俗など行ったがいざとなると怖くて何も出来なかった、絶対SEXしないといけない訳ではないがもう一生童貞なのかなと不安だった、それでもこんな自分を知って友達になってくれる人が欲しかった彼らならと思っていたが自分で関係を壊したと悔しく感じた。
「えーと、オレは女性が好きで浮気してるつもりはないけど、女の子が浮気すんのは許せねぇ奴だし連絡先とか女の子がほとんどだし、何度も遊んでるところバレたりしてるけど、女の子好きなのはやめられないし、…オレはこんな奴だよ」
人には必ず言えないことがある、それをずっと言わないままでどれだけ人と仲良くなれるのか、友達になりたい人には言わないといけないのかと聞かれればそうでは無い、言いたいなら言えばいい聞きたくないなら聞かなければいい、それだけの話、本当にそうだろうか、友達友達と簡単に口にしているが本当はそんな軽いものではない、本当の友達は何人居ますか?
こう聞かれたら人は何人と答えるのだろう
「あのオレが言うのもあれなんすけど、オレは言ってもいいんじゃないかなって思い…ました」
「ふふふそうね、ありがとう」
昭子の笑いに釣られて中村も森も笑った
「なんか凄く気分いいです!俺今ならなんか出来そうです!」
「なにか叫びますか?」
「いいね!それ!」
青春の1ページとでも言えるだろう
夜中の公園に三十路前の男達、目を擦れば夕方の河川敷に高校生が悩みをぶっ飛ばすような姿に見えなくもない、清々しく今までよりも生き生きしてこれから先どんな事があってもまた会えたら何でも話せそうだ。
「彼女いた事なくて童貞で」
「女の子が大好きで」
「オカマで」
「変な性癖があって」
「「「「何が悪いーー!!!!」」」」
腰に手を当て天高々に酒を掲げた
あっはっはっはと子供のように無邪気に馬鹿みたいに幸せそうに笑った
笑った
楽しくて楽しくて
朝が来るのが惜しかった。