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【改稿前】Fallen Heaven  作者: 甘宮るい
第一章/中編 Secretive Savior
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第一章/40話 「聞いてほしいことがある」






 ホルン・エングレイシャル変異個体の討伐に参加することになった俺は、決戦日となる明後日までシュウセイたちと同じキャンプで生活することになった。


 まず今日のうちに俺は基本のホルン・エングレイシャルの習性についてリョウマに話を聞く。それからミシャーレとシュウセイと一緒に定点視界と呼ばれる監視カメラのようなもの設置しに行く。俺はそこで周辺の地形を覚える。その後、夕飯までに戦闘の際の5人の陣形や得意な対魔獣魔法、現在のイメージについて聞き、夕飯のタイミングですり合わせる。ホルン・エングレイシャルの群れに異常が発生しなければ明日の定時観察に参加する。それから討伐時のルートや陣形と戦術を計3パターン全員ですり合わせながら考える。リハーサルは軽く行うが魔法を使うことでホルン・エングレイシャルに感づかれるわけにはいかないので現地でのリハーサルはもちろん距離があるとはいえ警戒は怠らず、陣形のみのリハーサルを行う。

 5人はここに来るまでに何度も対魔獣討伐戦に向けた連携を練習してきているらしい。俺が合わせさえできれば、問題出来ないと言う。俺は一番槍となる予定だったリョウマと共に標的であるホルン・エングレイシャル変異個体に突っ込んでもらうことになると思う、とシュウセイは話した。リョウマと共に標的を両脇から襲い、攪乱するのが今のところ俺の役目だ。

 明日、リハーサルと念入りな当日の打ち合わせが終わった後は万が一に備え用意してある脱出ルートと手順もすり合わせし直す。表向きでも全員の考えが一致するまで、というのがこのグループの掟らしい。

 戦術が整った後は魔獣の使う魔法の影響を短期間受け辛くなる特殊な薬剤を混ぜた食事をとる。これは都市とカサウエにある害敵魔獣対策部という役所が運営する機関で譲ってもらったものらしい。

 翌日の討伐は朝早くに行う。観察の結果、変異個体以外のホルン・エングレイシャルは昼まで群れでまとまって眠っているらしい。そもそもホルン・エングレイシャルは1日の半分を睡眠に費やす。群れから迫害されているとはいえ、ホルン・エングレイシャルの群れを刺激することは避けるべきだ。そのため変異個体以外が眠っている時間に討伐に向かう。すぐ傍で魔法を大量に使用するのを避けるため、移動しながらの戦闘も予想されると言う。とはいえ、現在ホルン・エングレイシャルの変異個体はすでに群れと少し離れたところで生活し始めているし、追放がはじまって数日経っている。ホルン・エングレイシャルの群れを刺激せずに戦うことは難しくないだろうとシュウセイは言った。

 討伐後、ホルン・エングレイシャルの死と引き換えに咲く花の花弁と蜜を採取。これの半分を俺に報酬として渡すらしい。半分はシュウセイたちが回収する。その花はホルン・エングレイシャルの死後、1分のうちに咲いて枯れてしまう。採取が難しいというわれる花で蜜は特殊な薬になるらしい。まだよくわからない代物らしいが、非常に価値が高いものだと教えてもらった。ちなみに、役所ではいくつもの品と交換してもらえるという噂がある。基本的には魔獣が攻撃してきた場合もしくは人体や森に非常に有害な影響を及ぼす魔獣以外、ヴェートは討伐を許さず罪とさえしている。ヴェートの森にとって魔獣は隣人、そんな考えや風習はずっとずっと昔からあるもので、ホルン・エングレイシャルの死後に咲く花がどれだけ価値があっても攻撃性のないホルン・エングレイシャルの一般個体を討伐することはできない。故にどこでも何の代わりにもできてしまう品らしい。

 その花でサクラが目覚めればいいのに、とアーロンが溢した。

 もしその子に俺の報酬の分も飲ませた方がいい時には気にせず使ってくれ、と返した。



 まず俺は、スケジュール通りにリョウマから基本のホルン・エングレイシャルの習性について聞いた。群れに属する通常個体の習性も聞いたが、特に予想を上回る内容はなかった。リョウマは先ほど話した角の色が変わり成体になること、ホルン・エングレイシャルは群れの仲間が攻撃された際、激しい反撃をすること、1つ1つ細やかに俺に説明してくれた。


「だから絶対に普通の群れのヤツには喧嘩は売らない。もし間違って殺すようなことがあれば、アイツらは犠牲を払おうとも復讐してやるって勢いで襲ってくる。変異個体は異常な強さを誇るって言ったよな」

「あぁ」

「だからって普通のホルン・エングレイシャルが弱いってわけじゃねぇ。あいつらが使う魔法は元々、魔獣が使う魔法の中でもかなり種類が多くてデカイ影響を及ぼすもんが多いんだ。扱いづれぇんだよ」

「わかった、群れのヤツには攻撃が当たらないようにする」


 俺がそう返すと、リョウマは軽く咳ばらいをする。少し周囲を見回して、俺の方へ向き直った。


「それから……少し話は逸れるんだが聞いてほしいことがある」


 声のトーンが下がる。心なしか先ほどよりも声が小さい気もする。


「なんだ、内緒話か?」

「あぁ、そうだ。アキラ、お前に相談がある。単刀直入に言うが、俺はホルン・エングレイシャルの変異個体を殺す気はない」

「討伐するって話じゃなかったか? 納得してないのか」

「サクラのことは俺もどうにかしてやりてぇって思ってる。それにこの国のやつらの考え方に染まってやるつもりでもねぇ……。ホルン・エングレイシャルの習性は気持ち悪りぃもんだが、俺たちがそれを変えることはできないのは俺だってわかってる。今回のターゲットが出す毒ガスが有害かもしれないってことも……ちゃんとわかってんだ」


 リョウマはそこまで話すとやりきれないというような表情でため息を着いた。


「サクラの容態は役所の奴に聞いても、グリーズに掛け合ってもらうために手紙を出しても、何度病院のヤツに診てもらってもどうしようもならなかった。ホルン・エングレイシャルが死んだあと咲く花だって効果はないはずだ。そもそもサクラは病気じゃねえんだ。何らかの原因で意識が保てない状況下にあるって医者は言った。グリーズからの返事はいろいろ内容が濁してあったが、成仏したわけでもなく目に見える障害も起きていないなら意識と体が離れちまってるってことらしい。それは薬じゃ戻せねぇ……」


 意識と体が結びついていない状況、か……。元々、生きているわけではない俺たちにとってこうして体を動かし何かを感じて考えることさえ自然にできることではないのかもしれない。グリーズが何かしらサポートすることで意識を保つことができているとすれば、返事を濁されるのも納得できる。

 グリーズにすら改善できないのか。俺にとってグリーズはこの世界のすべて管理をしている機関のように感じていた。明確に示されたわけではないが、俺はもうグリーズをそんな風に捉えていた。


「一度はシュウセイに話したんだ。薬じゃどうにもならねぇんだから、他の方法を考えようって……。でも無駄だった。アイツ、聞く耳持たねえんだ。試せることがまだあるのに試さないでどうするってさ。俺だってアイツの考えがわかんねぇわけじゃねえよ。でも、そんだけ可哀そうな状態の動物殺して、何もありませんでしたって笑えねえ」

「……ホルン・エングレイシャルの変異個体の状況を改善しないと有害なガスが出るのは事実なんだろ? 可哀そうな状態って言ったって習性だ、リョウマがさっき俺に言った通り俺たちがそれを根本的に解決できる可能性はきっと限りなくゼロに近い」

「だから、俺は試してみてえんだ。例えば、あの角の色を変えられたらどうだ? もしかしたら群れの奴らの対応も変わるかもしれねえ」

「そんな簡単な問題なのか?」

「何も試してねえんだ、そっちは本当に。動物の習性は仕方ねぇことだ。ハムスターだって弱った子供が居りゃ食うんだ」


 子食いというものだろう。前世、聞き覚えがある内容だった。


「俺は前世、こう見えても動物病院で働いてたんだ。見えねえだろ?」

「確かに、見えないな」

「スタッフだけどな」

「スタッフか……、医者かと思った」

「そんなに賢くねぇよ、受付スタッフだ。遠い親戚の獣医のおっさんに、親が出て行ったときに引き取ってもらってな。捻くれた愛想のねえガキに獣医のおっさんはすごくよくしてくれた。動物にも人にも、優しい人だった。俺はあの人にはなれないけど、せめて真似でもいい。そういう人間で居たいんだ」

「尊敬、してるんだな」

「もちろん、尊敬してる。俺はこんな世界に来なくてもいいくらい恵まれてたはずなんだけどな、自分の未練が何なのかわかんねぇ」

「恵まれていたとしても人ってまだ生きたいって思うもんだろ? そういうこともあるだろ」


 俺らしくないことの一つでも言ってみる。出会ったばかりの他人に今回だけは見せたい自分が浮かんだ。本当に、らしくない。


「……お前、思ったより明るいヤツなんだな」

「明るいなんて言われたことないけどな」


 普段の俺はそうでもないんだけどな、とは言わなかった。


「そりゃ……周りが見てねえんだろ。俺は馬鹿だから明るいって言葉でしか言えねえけど、ありがとな」

「あ、あぁ」


 まっすぐに礼を言われて、少し戸惑った。照れくさい。


「とにかく! 俺は何も試さないままホルン・エングレイシャルの変異個体を殺すのは嫌だ。なんか、違う気がすんだ」

「俺もそこに関しては納得だ」


 正直、ホルン・エングレイシャルの習性は自分の中に薄っすら残る“普通”とかけ離れている。残酷に感じて、仕方ない。この習性は人間が成長過程で何か普通とは違う変化を遂げた誰かを疎み、迫害するアレと重なって仕方ない。

 俺はいじめられたことはない。友達は数えるほどしかいなかったが、日常のすべてから逃げたしたくなるようなことは一度もなかった。


「にしても、胸糞悪い習性だよな」

「いじめだろ……」

「俺たちの常識で考えればそうなっちまうよな、どうすっかなぁ。いっそ捕獲でもしてみるか?」

「人型の魔獣か……」


 なんとかウェスターさんのロズのように意思疎通は図れないだろうか。そう口を開こうとしたとき、アーロンが戻ってきてしまった。


「この話はまた後だな」


 それに気づいたリョウマが小声でそう言う。俺はそれに頷きを返した。それを見たリョウマが、またホルン・エングレイシャルの群れや行動パターンについて話し始める。

 耳を傾けながら、彼女のことを思い出していた。


更新が開いてしまい申し訳ないです。私情でペースは落ちますが、今後とも投稿してまいりますのでもしよければ応援のほどよろしくお願いいたします。

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