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【改稿前】Fallen Heaven  作者: 甘宮るい
第一章/前編 Inferiority of life
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第一章/31話 「アキラが命ずる、変形せよ!」





 宿の外に出ると、空はもう真っ暗になっていた。通行人も心なしか疎らになっており、灯りが消えている店まである。

 後ろで白の法典を見ながら楽しそうに話す日和さんと颯真、その周りに二人のパートナーになった妖精と蝶、その横にオーワが一匹、俺とウェスターさんについて歩いている。俺の隣で宿に置いてあったクッキーを食べるウェスターさんのその横にロズ、俺の横にはもう一匹のオーワがいる。

 なんだか、ゲームのパーティーのような絵になってきている気がする。


 追尾の魔法について何もわかっていないのにこんな暗闇の中、次の街に向かうのは不安だった。宿を出るときに、一般魔法の一種である外的察知(基本的に魔獣に対して使う魔法で、自分に敵意を持った相手の位置と方向を大体察知することができる魔法だ。しかし人間か魔獣かを確かめることはできない)を使ったが、特に何も引っ掛からなかった。下手な行動をとるのは控えるべきだが、どう伝えていいかも分からないままになっていた。

 ベレーザはとても小さな街だった、街の中間に位置する宿から最初に到着した場所まで戻るのにほとんど時間はかからなかった。


「次は大きな街に行くぞ、今度の街は朝が来ない代わりに朝日が昇る頃になると綺麗な花が咲く場所があるんだ。今夜はそこに泊まる予定だ」

「うーん、私すぐ寝ちゃいそう」


 気合いの入ったウェスターさんの言葉に、日和さんは眠そうな仕草と柔らかすぎる声でそう返した。




 オーワに乗って見る夜景は今まで見てきたどんな景色よりも、どんな観光地の写真よりも不思議だった。ヴェートの大半が、朝がやってこない地域ばかりになっている。しかし、ヴェートには1日の殆ど光に照らされている地域、夜に朝がやってくる地域や、魔獣が特殊な光を放ち続けることで夜も朝も明るい地域、そして開拓地を含む朝が訪れたことのない闇に包まれた地域がある、所々の変な明るさや一段と暗い森に眩しいほど光り輝く街、それが不自然で不思議だった。ベレーザを後にして肉食鳥類の一種(名前は聞いていないのでわからない)の小さい群れに遭遇したときは肝が冷えたが、ベレーザを少し離れたころに2匹のレデュの雄(夜は星のように見える鳥)とすれ違ったときは、一瞬だけまるで流れ星に触れたような気にさせられた。


「あと少しでロドヴェルだ。さっき話した通り、ロドヴェルは朝が来ない森の中にある。だが街の中央で毎月決まった日に光を灯す魔法を使ってお祭りをしたり、ブラックフォックスっていう可愛い魔獣がそこらに居たり、建物が特徴的で空からはわからないが下から見るとすごく綺麗だ。いい街なんだ」


 黒い狐、そのままの名前だな。


「ここって、ヴェートの都市からどれくらいの位置なんですか?」

「ろどうぇるって都市の近くみたいだったよ!」


 日和さんはロドヴェルが言い辛いらしい。もごもごとしながら、誤魔化すところを見ると可愛らしいなと思う。


「お? さっき地図を見たのか? 簡単に言うとロドヴェルはヴェートの隣町の山の少し上くらいにあるんだ。ちょっとややこしいが、都市からそう遠くはない」


 ウェスターさんの言葉の直後、急にロズが変な鳴き声を上げた。今までの聞いたことない声で、それに気を取られた瞬間、体がぐらつく。


「うぁああ!?」

「きゃぁあっ」


 颯真と日和さんの悲鳴が前方から聞こえて顔を上げるが、颯真と日和さんの乗っているオーワは視線の遥か下、森に墜落しようとしていた。それは地面に吸い込まれていくような速度で、羽の動かないのかもがくように動くオーワが視界の先へどんどん落ちていく。日和さんか颯真か、どちらのものかわからない白の法典から赤い光が一瞬、漏れる。気づけば2人の姿は眼で捉えられなくなっていた。

 そんな中、前方を飛ぶウェスターさんが白の法典を取り出し、何かを叫ぶ。ウェスターさんの白の法典から大きな光が漏れる。その光を遮るようにロズの羽がさらに大きく開いた。その直後、ウェスターさんの声が聞こえたような気がしたが、波打つような心臓の悲鳴で搔き消される。自分の乗っているオーワももう限界のようで、森が、その木々が近づいてくる。

 一体、何が起こっているのかわからなかった。

 咄嗟に早口で、追尾の魔法の有効化が自分に使われたか調べるが、そんな痕跡はない。有効化すると追尾の魔法はより細かに場所を特定することができる別の魔法へと変わる。こっちの魔法は俺が使うためにミサから聞かされていたから理屈を知っていた。基本の行動追尾の魔法については知らなかったが。それに対し二度、自分に現在継続的に行使されている完全対人魔法の探知をかけたのに引っ掛からない。追尾の魔法が原因じゃないのか。まずい、このままじゃ突っ込む。周囲で使用された魔法の感知もできない。おかしい、失敗か。いや、一般魔法は対魔獣用として使われるものがほとんどだ、故に発見できないのか。あぁ、やばいなんとかしないと。深呼吸にもならない。息を吸って、白の法典を指輪の形から戻し、下へと向ける。俺なら何とかやれるはずだ。


「アキラが命ずる! 変形せよ!」


 手綱から指が外れる寸前で、オーワを手の中に救い入れることに成功する。宙に投げ出された体に気を取られる前に、もう一度叫ぶ。頼む、通ってくれ。


「アキラが命ずる! 変形せよおおおおおおお」


 周辺の木々が、着地点を作るようにその幹や葉を組み合っていく。


「俺の言うことを聞けええええええええええ」


 木の葉に触れただけでなんとか魔法は発動している。ただ条件はさすがに厳しいか、頼む間に合ってくれ。

 感じる痛みを予想して、目を閉じた。




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