第一章/28話 「よかったら力にならせてください」
オーワは大きくて店内には連れて入れないので、店の外で預けて入店する。元々、この店ではそういうシステムになっているようで特に手間取らず、すんなり入店できた。
店内はオリバーさんの店(料理屋と比べるのは間違っているかもしれないが)と比べ物にならないくらい広々としていた。前世のペットショップとの違いは、魔獣の展示がないこと、魔獣の卵の交換や情報交換をする場所、交流をするためなのかカフェが併設されていること、そして魔獣を遊ばせられる広場のような場所があることだ。割といくつも違いがある。
「いらっしゃい! ここはベレーザ魔獣館、はじめてかな? 旅人君旅人ちゃん、ようこそ。あら? そちらのお兄さんは珍しいの連れてるね」
ウェスターさんの後ろからひょっこりと顔を出したロズを見て、気さくな態度の店員はそう言った。その店員は、魔法で見た目を変えているのか少し大人びている。ここまでの道のりですれ違った人は全員緑色もしくは深緑色の目だったが、目の前の店員は黄色だった。魔獣を扱う店で働くにはある程度、魔法への適性がいるのだろうか。
「ランを手懐けられる人間に悪い人はいないよ、お前さんいい人に出会えたね」
その人はロズの頭をよしよしと撫でると、軽く店の説明をしてごゆっくりどうぞと言ってすぐにカウンターの奥に戻ってしまった。
店の説明の内容としては、まずこの店はショップというではないが店で育てている魔獣が何種類か暮らしているので物々交換で譲り受けることができるということとそれらの魔獣が広間で写真と説明のみだが見られること、店内に居る首に水色の名札をかけている人と卵の交換や魔獣の譲り受けなどの交渉ができること、店内に居る首に緑色の名札をかけている人は魔獣の飼い主、パートナーとして他の人と交流する目的で店に来ているため魔獣のことをいくつか聞くことができるかもしれないということ、店内では楽しく会話を弾ませる空間作りのため情報交換より物々交換を推薦しており気軽に助け合ってほしいこと、入店時に加え退店時は一度、カウンターにて店員に一言伝えてほしいと言われた。
「さて、ゆっくり見て周るか」
「私いちばんかわいい子をパートナーにするの」
見た目で決めるのもいいだろう、もちろん魔獣が使える魔法やそもそも移動に利用できるかどうかも条件になるだろう。
「僕に合う魔獣なんているのかな」
「ヴェートにはそれはもうすごい数の魔獣がいるからな、颯真も平気さ」
「動物、好きなんじゃなかったか? 心配しすぎだよ」
やってみればできることだろう、と思いながら俺もそう口を挟んだ。
「いやいや前世の犬とか猫と魔獣は違うじゃないですか! 魔法とか使うってなったらもっと難しそうだし、僕はあんまり自信がないですよ」
今の颯真には魔獣が扱い辛く見えるらしい。
「きっと大丈夫だよ!」
日和さんがいつものように返す。物事に対して、いつもいつもポジティブに解釈していく。
「ねぇよかったら、私のパートナーちょっと見てみる?」
2人のやり取りをなんとなく聞いていた時、近くのテーブルに座っていた少女がそう声をかけてくれた。焦げ茶色の髪に黄色の瞳をしている。
「初めまして、私このお店の常連でね。いろんなお客さんと話をしたり、そのパートナーの魔獣さんと触れ合うのがちょっとした趣味なの。何でも聞いて」
彼女はすっと席を立つと、俺たちの傍に歩み寄って軽く会釈をする。
「ウェスター・ヴェティストさんですよね。素敵なパンをいつもありがとうございます。私がお店にお邪魔したことはないんですけど、よく都市に住んでる友人からパンを届けてもらうんですよ」
「あぁ! そうだったんですね。こちらこそありがとうございます」
「お礼になるかわかりませんが、よかったら力にならせてください」
彼女はそう言って、颯真の方へ視線を投げるとにこりと笑った。
「フラン! この子たちにも見えるように出てきて! 可愛い姿を見せてあげてほしいの」
ぱちぱちと小さな光が弾けるように空中を舞う、その隙間を縫うように小さな紫色の羽が特徴的な妖精が姿を現した。
“ハジメマシテ”
一瞬、気のせいかと思ってしまうような声だった。音になっていないのに脳に響くようなその声の後、妖精は間を開けずお辞儀をした。
「すごい!」
「私の相棒なの。フランって名付けてる、かわいいでしょ? この子はヴァイオレットピクシーっていう妖精。魔獣の一種で訓練をしなくても簡単な意思疎通ができる。だからきっと君も見つかるよ。すぐそこでたくさんの魔獣に出会えるし、今すぐにパートナーを見つけることも難しくない。その子と二人で見ておいでよ」
まだ困惑したままの颯真に、その妖精がそっと近づく。
“ワタシ、リョウカトクラスノタノシイノ”
その言葉を聞いた日和さんが、颯真の手を取った。
「ちょっと行ってみよう!」
そのまま颯真の手を引いて、広間の方へ走っていく。その後ろをロズを引き連れ焦りつつ追いかけるウェスターさんの姿はもう見慣れてしまった。
「急に割って入って、迷惑じゃなかった?」
「え、いや、大丈夫だと思います。むしろ、有難いです」
「そっか。魔獣見なくていいの? 一緒に」
何だかついていく気になり切れないせいで、返答に困る。
「ちょっと、疲れちゃって」
下手な言い訳だ。
「じゃあ私と話でもする? よかったら」
「はい、是非」
まぁついていくよりはいいかと思い、そう返答した。




