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【改稿前】Fallen Heaven  作者: 甘宮るい
第一章/前編 Inferiority of life
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第一章/24話 「俺の気配に気づくとはな」





「おっと、驚かせたかな?」


 日和さんと颯真は眼を真ん丸にして、その人を見ている。ウェスターさんは小さくため息を着くと自分の髪をわしわし、として困惑したような表情を浮かべて視線を()らせた。


「いらっしゃい、クレインの村長じゃ。クレ爺と呼ばれてる」


 爺と呼ぶには若い見た目をした男は、そう言うと平然と手を差し出した。


「あ、この見た目だとやっぱり村長っぽくないか?」

「はぁ、この村のやつらはいつも変わらないなあ」


 さっきのことはあまり気に留めてない様子のクレ爺と名乗った男の手を取ったウェスターさんは呆れたように、でも嬉しそうに笑った。


「お前が来るといつも本当に愉快な気持ちになるよ」

「連れまで驚かせるのは勘弁願いたいね」

「そうですよ! いっぱいびっくりして心臓の数が足りなくなります!」

「おうおう、すまんなぁついつい」


 誤魔化すように照れ笑いする村長に、またウェスタ―さんは呆れたように笑う。

 それどころではなかった二人に手を差し出すと、村長は頭を下げた。その流れで俺も村長と握手を交わす。

 その瞬間、耳打ちをされる。

 普通は聞き取れないような声だった。若干感じた空気の揺れ、雑音に混ざる音。

 その村長は俺に“俺の気配に気づくとはな、お前グリーズの役員か”と言った。

 目の前のその男は、明らかに敵意を(はら)んだ目で問い詰めるように俺を睨んでいる。

 焦って様子を(うかが)うが、ウェスターさんや颯真、日和さんは気づいていない。ただ、目の前の男の口は確実に動いて俺に次の言葉を投げる。

 “ほう、これも聞こえるのか”と、そう言うと一段と掌に力を込めた後、そっと離した。解放された右手がじんとする。

 グリーズの役員……。ラズトのあの恨むような視線ではない、あくまで何かへの疑い。ただグリーズの役員は一体、この人たちにとって害があるという認識なのだろうか。そもそも、俺は村長の気配に確信を持っていたわけではなかった。軽く周りを見回したくらいで、他に反応した訳ではない。何故。疑問を思考の(おり)でぐちゃぐちゃにかき回している。ふと、昨日のミサの言葉を思い出す。“まぁ都合悪くなりすぎない程度のおまけはしておいたけど”とそんなことを言っていた。特に気に留めるような言葉には聞こえなかったが、意図はわからないままだった。血の眼であることに触れてこないということは、ミサの計らいは俺の目の色に関することだったのか。いや、オリバーさんやあの新聞屋の女の子だって俺の目を見て過剰な反応はしていなかった。今までこの眼の色に異常な反応を見せたのは、ラズトくらいじゃなかったか。

 ともかく、何故グリーズの役員だと疑われることになるのだろう。見当がつかない。思い当たる節もない。オーベロンやリシュリューさんの言っていた行方不明の血の眼のことでもないだろう。おかしい。

 何拍かもわからないほどの速さで心臓が脈を打った。

 落ち着いて、俺は違いますと小さな声で返答した。




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