第一章/22話 「歓迎の花園」
「なにこれ! すごい綺麗だね! 上から見たときは普通の原っぱだったのに!」
「ここはヴェートで一番、俺が気に入っている場所、歓迎の花園だ。誰もいないとただの野原だが魔獣や人が立ち入るとこうして一面に花が咲く」
日和さんはウェスターさんに手伝ってもらってオーワから降りると、勢いよく花々に飛び込む。
「ここは毎日、朝が訪れる街だ。ヴェートでこういう町は珍しいんだぞ」
地面に足を下すと、その場を花々が避けていく。だが、靴の中の足にほんの少し伝わる地面の感覚はやさしい。シトラスに似たいい匂いが香る。
酔ったらしい颯真が落ち着くまで、俺たちはその花園で過ごした。ウェスターさんが用意してくれた果物たっぷりのジュースを飲み、一息つく(その間、颯真はひたすらに水を飲んでいた)。ウェスターさんはロズとオーワに餌と水を与え、俺は日和さんと花冠を作って遊んだ。
ロズとオーワを歓迎の花園すぐ傍の大きな木の下で休ませ、本日一番の目的地らしい小さな村へ向かって、他愛ない話を弾ませながら進む。
「あきらは器用なんだなあ、俺は素手じゃうまくいかない。よくリシュリューに不器用だって笑われるよ、この間も一緒に料理をしたらな、俺が魔法で済ませる工程をアイツは素手で一つ一つやるもんだから」
ウェスターさんがあまりに幸せそうにそう話すせいで、俺まで恥ずかしくなってくる。嬉しそうにしている日和さんの頭の花冠(日和さんはどうしてもうまく作れなかったので、俺が作って渡した)を覗き込むと、またウェスターさんは本当にすごいと肯いた。
「リシュリューさんは器用なんですね」
マシなほうに話を流す。自分が褒められるのにはどうしても慣れない。惚気を聞くのも慣れないが、こっちのほうが幾分かいい。
「性格は荒っぽいけどな」
「僕、リシュリューさんはもっと怖い人なのかなって思ってました」
「役員だからって仕事中は気を張ってるんだ。あれは背伸びだな」
リシュリューさんの話をしている時のウェスターさんはどんな時よりも、嬉しそうに笑う。
「そこまで気を張らなくてもいいと思うんだがなぁ」
「確かに、ちょっとだけ普段の方が話しやすいです」
「そうだよなぁ」
日和さんも颯真もリシュリューさんもウェスターさんも、いつかは成仏する。どんなにそれが死とは違っていてもどんなにいいものように語らっても、終わりを告げるものには違いない。
俺はグリーズから許可が出ればすぐにヴェートを出るつもりだ。ここでずっと暮らしていくわけじゃない癖に、そんな変なことが脳裏を過った。
「この先にあるのがヴェート頂上付近で一番小さな村、クレインだ」
その言葉に返事をしようとした直後、背後に雑音がした気がして振り返る。草木がこすれるようなとても小さな音だった。
「うわぁっ」
その声に日和さん、颯真、ウェスターさんも振り返る。
そこには目を丸くして尻もちをついた小柄な女性が居た。




