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【改稿前】Fallen Heaven  作者: 甘宮るい
第一章/前編 Inferiority of life
27/52

第一章/21話 「今度、一緒にお願い事しようね」





「さて、準備はいいか!」

「はーい!」

「僕も大丈夫です」


 甲高く明るい日和さんの声に対して、颯真は消え入りそうな声だ。

 結局、予定通りウェスタ―さんはロズに乗り、日和さんと颯真が一緒に一羽目のオーワに、俺は一人でもう一羽のオーワに乗ることになった。


「俺も大丈夫です」

「よし! 出発だ! オーワにはロズに続いて飛ぶように指示してある。オーワに捕まっていればすぐだ。目的地まで景色を眺めるのもいいかもな!」

「そんな余裕ないです」

「日暮れには慣れるさ」


 ウェスタ―さんはそういうとロズの耳元に口を近づけ何かを囁いた。直後ロズから綺麗な羽が伸び、ロズがふわりと舞い上がる。それを目で追っていると、すぐに俺たちのオーワも羽を広げる。オーワについている紐(首ではないようだが、どこに結んであるのかはわからない)に捕まる。

 すぐに飛び上がった。

 風圧に一瞬、目を(つむ)る。開いた時には役所が真下にあった。


「……ぁぁ、やばい」

「すごおおおおい!」

「上から見るとヴェート都市も随分、様になってるよなぁ」


 一瞬でここまで上昇するとは思っていなかった。颯真は意気消沈(いきしょうちん)しているようだが、正直オーワは思ったよりも揺れなかった。


「オーワは本当に賢くてな、俺たちを乗せるときには俺たちが受ける風圧や空に生息する魔獣の影響なんかを最小限に抑えてくれるのさ」


 ウェスタ―さんはそう言いながらロズの頭を撫でる。ロズが耳をぱたぱたと動かす。

魔獣は嫉妬するのだろうか。


「あれなにー?」

「ひよちゃん! 急に動かないで!」

「そうくん、あれあの建物」

「えっと、どれ?」

「あれ!」


 指を刺し騒ぐ日和さんになんとか応答しようとする颯真、なんだか少し微笑ましい。ちょっと(しゃく)だが。


「病院じゃないかなぁ」

「上から見るとこうなってるんだ!」


 ふと、日和さんの首元にあったあの数字のような羅列を思い出す。ウェスターさんの首元にもミサの首元にも同じようなものはなかった。

 この時点で確実に一般人であるはずの日和さんにだけそんなものがあるのは不自然だ。

 この前、ミサに軽く聞いたがミサはわからないと言っていた。特に変な様子もなかった。加えて、基本的にIDは手首に刻まれるもので魔力指数が右手の小指の根元に浮かび上がるものだと白の法典で確認した。ミサは冷たい口調と面倒そうに遠ざける態度をとるが、必要のない嘘をつくとは思えない。病院での処置についてもミサは管轄外(かんかつがい)なので知らないらしい。利用したこともないが悪いうわさも聞かないから俺の気にしすぎだと、ミサは言った。ミサには思い当たる節が一切ないのだろう。

だが、本当に気にしすぎだろうか。

 一方、ウェスターさんに聞くのはリスクが伴う。ミサから秘匿の魔法は教えてもらったが、グリーズにとって本当はそんな簡単な魔法を(こうむ)るのは簡単だったなんてことがあるかもしれない。あの場さえ、オーベロンの協力があってこそ成り立っているような気がしてならなかった。いや、それはミサに失礼か……。けれど、俺がグリーズに目を付けられている状態は変わらない。

 もう失敗はできない。何もわからない以上、何もしないほうがいいのはわかっている。結局、何も起こっていない。

 これ以上、不要に考えるな。




 ヴェート都市部から随分離れ、山のような地形になっている国土のその頂上付近にある村(一つ目の目的地らしい)が近づく。ウェスターさんはいろんな街や村、ヴェートの内情に関する話をしてくれた。きっともっと早く移動することもできるのだろう。俺たちに説明するためにゆっくり少し迂回しながら向かってくれていた気がする。ウェスターさんの話は正直、とても役に立った。白の法典や新聞で読むよりも、実際に話を聞きながら見るほうがイメージしやすい。


「さっきすれ違ったのも基本的に害のない一般魔獣の二翼鳥類の一種だな」


 ウェスターさんは俺たちを先導しながら、魔獣の説明を始める。魔獣が見えれば魔獣の説明を、街や村や施設などが見えればその場所の説明をする。どこにどんな魔獣が居るか、どこにどんなものがあって、どこにどんな人が暮らしているか。俺たちが興味を持てるように、あえて順序立てず補足するように話してくれる。


「オーワと一緒?」

「そうだな、さっきのはレデュの雄だ。特殊な魔獣で雄と雌でかなり見た目が違う。そして、固有してる魔法も個体数すら大幅に違う」


 基本的に魔獣は魔法を固有している個体がほとんどらしい。そういえばロズにはいくつか魔法が使えると言っていたが、あの場で日和さんに使っていたコール・オブ・ラン以外にどんなことができるのだろうか。飛ぶことは魔法に含まれるのだろうか。


「ねぇウェスターさん、レデュは雌のほうが少ないの?」

「そうだ、レデュは雌の方が少ない。雄の半分も居ないかもしれないな」

「そうなんだ……」

「レデュの雌の生む無精卵で作る卵料理は格別なうまさだぞ。レデュは生息地を時期によって変える。定期的に群れになって移動するんだ、そのころには雛も歩けるようになる。だから移動した後の巣に残された無精卵を採取しにいくのさ」

「いつか食べてみたい!」


 前世で言うところの孔雀(くじゃく)の無精卵のようなものだろうか。それとももっと、貴重なものだろうか。


「もちろん都市の隣町、メリアの卵もうまいんだけどなぁ」

「メリアで食べられる野菜とか、鳥さんやウサギさんを育ててるんだっけ?」

「あぁ、そうだよ。死んだ今でも自然にいろんなものをもらう。感謝しないとな」


 颯真や日和さんにはもう自分は生きていない自覚があるのだろうか。案外、俺だけが持っていないだけで2人ももう自覚しているのかもしれない。


「それからレデュの雄は夜になると羽が光るんだよ。この世界には星はないが、ヴェートでだけは星が見られる。そう言っても過言じゃないくらい綺麗だぞ。もし見られたら願い事をするといい」

「いいな! 私もいつかみたいな」

「今度、一緒にお願い事しようね」


 落ち着いてきた様子の颯真を見て一安心する。都市の上空からもう一段階オーワが上昇したときの騒ぎ様は、このまま颯真が振り落とされるかもしれないと本気で考えさせられる程だった。


「よぉし! もうすぐ到着だ。オーワはちょっと降りるのが下手だが、爪がしっかりしてるからちゃんと止まる、とりあえず落とされないように気をつけてな!」

「ええええ、振り落とされるかもしれないってことですか」

「過去に2人いるかいないかだ、大丈夫さ」


 颯真がその3人目になるかもしれない。


「そこの平原に降りる、さあいくぞ!」


 ウェスタ―さんが合図をするとロズもオーワも一斉に急降下を始める。目に優しい緑の色が視界に飛び込んでくるような勢いにまた目を閉じる。

 大きな羽音、爪を引きずる音、前世の飛行機を思い出す若干の体の揺れ、背中に走る衝撃。


「よし到着だ! みんな落ちてないか?」


 冗談交じりにそう言いながら笑うウェスタ―さんの声と一緒に視界に飛び込んできたのは、あまりに綺麗な花畑だった。


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