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【改稿前】Fallen Heaven  作者: 甘宮るい
第一章/前編 Inferiority of life
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第一章/19話 「アキラが命ずる、変形せよ」




 その日、俺は朝早く颯真と日和さんに起こされた。意識がまだ朦朧(もうろう)としている俺から無理やりに布団を奪われ狼狽(うろた)えていたところに腹の上にダイブされ、二度寝という選択はできなかった。

 昨日の日中、俺が留守にしていた時にウェスターさんが一緒にヴェートの都市から離れた景色が綺麗な村に行ってみないかと誘いに来てくれたらしい。颯真と日和さんはこれから生活の基盤にする場所を決めなければいけない。ヴェートには様々な特徴を持つ村や街がいくつもある。せっかくだから見て周って2人に合う場所を一緒に探していこう、そうウェスターさんが言ってくれたらしい。


「昨日はほかにもウェスターさんからいろいろお話し聞いたよね」

「ヴェートにある街の説明とか魔獣の話とか」

「面白かったね!」


 2人の話を聞きながら、ウェスターさんが玄関に届けておいてくれたらしいハンバーガーのセットを食べる。


「本当に俺もついていっていいのか?」

「大丈夫ですよ、3人でってウェスターさんに言われましたし」

「置いて行ったりしないよ!」

「そうか、ありがとう」

「どういたしまして!」

「お礼をされることでもないかなぁって思うけど、お礼されておきます!」


 この2人と行動を共にし始めて今日で5日目か。しかし5日でこんなに懐かれるなんて思っていなかった。あっという間だった気がする。

 存外、悪くないな。


「楽しみだね~、友達ができたり魔獣と出会ったりするかなぁ。他の街も都市みたいな感じなのかなぁ」

「どんなところなんだろう」

「楽しみだな」

「鳥に乗っていくらしいですよ、高いところ平気ですか?」

「颯真はどうなんだ?」

「苦手です!」

「私は移動も楽しみ!」


 こういうのも最初は煩わしかったはずなのに、俺らしくない。





 朝食を済ませ、風呂に入り、宿舎に備え付けてあるシャツと深緑の長ズボン(いつもいつの間にか用意してある)に着替える。とりあえずローブと下着を(たた)んでおいておく。洗濯や掃除を行ってくれているのはヴェートの役員の方らしい。この間、食事の片づけや用意、掃除や洗濯は勝手に行われていた。まるでホテルのサービスのようだと、そんなことを考えながら髪を軽くセットした。

 そういえば、颯真がこうして支度をしているところはあまり見なくなった気がする。疑問に思うが、気に留めることでもないかと思い直した。


 リビングに戻ると、2人があの新聞を活用しながら魔獣の話で盛り上がっていた。


「ウェスターさんは?」

「まだです!」

「も、もしかしたら私たちちょっと早く準備終わっちゃったかも」


 日和さんのその言葉に、まだ眠れたじゃないかと言いかけて言葉を飲み込む。まぁ、こういうのも悪くないかと思った。

 颯真の横に座る、風呂の後だからかなんとなくいつもよりソファーに体が沈む気がする。今まで余裕がなくて、そんな当たり前の感覚さえ遮断(しゃだん)していたのかもしれない。


「うわああ! なんですか、なんで詰めてくるんですか」

「別にいいだろ」

「なんか楽しそう! 私も混ぜて!」


 こうやって颯真をいじるのも案外、息抜きになる。



 ウェスターさんを待ちながらソファーの占領戦争(せんりょうせんそう)をしていた俺たちは、ついにそれにも満足してしまった。


「ウェスターさんまだかなぁ」


 もう待ちくたびれたらしい日和さんがソファーで寝そべりながらそう言った。


「魔法使ってみる?」

「ウェスター・ヴェティストでいいのかな」

「あってると思う! でも急にやったらびっくりするかな?」

「確かに、あんまり街でも他の人の白の法典が光ってるところ、見ないよね」

「カバンにいれてるのかなぁ」

「でもなんにも持ってない人、たまにいない?」


 その言葉に、昨日のことを思い出す。

 昨日、教わった基礎魔法の中には日常生活に役立つものがいくつかあった。ミサは日常生活を便利にする用途でしか使えない魔法は実践することなく適当に説明してそのまま流していたが、覚えずとも呪文と用途を確認できるようにメモを渡してくれていた。俺も基本的には対魔獣魔法や人に対しても使える魔法を重点的に覚えていったが、帰ったら試そうと1つだけ覚えていたものがあった。


「昨日、聞いた話だが白の法典はサイズや形を自由に変えられるらしい」


 日和さんと颯真が勢いよく顔を上げ俺の方を見る。


「え! ほんとですか」

「あぁ」

「ちょっと持ち歩くには不便だよね……」

「やってみるか?」


 ミサは教わろうと思えば他の人にも聞けるでしょ、と面倒そうにしていたがこういうものを用意してくれた辺り優しい。言葉にトゲしかないが、まぁあれも許容範囲(きょようはんい)だ。

 ミサのそういう態度はあの時もその時もきっと心地よかった。



 一応と思い部屋でメモを確認して、リビングに戻る。

 目を輝かせた2人がじっと、俺の方を見ている。


「まずは白の法典を開く」

「はい!」


 入学したての小学1年生を受け持つ先生はこんな気持ちなのだろうか。緊張とは言い難いが、慣れはしない。


「今から使うのは基礎魔法の一種、変形の呪文だ。白の法典を開いたら、その上に変形させたいものを置く。白の法典を変形させたい時のみ、何も置かない。ちなみに元の物体……物の大きさが開いた白の法典の範囲に収まらない物はこの呪文で変形させられない」


 2人はうんうん、と頷きながら話を聞いてくれている。


「逆に、それを白の法典よりも大きなものへ変化させることはできるらしい。変形させたいイメージを浮かべて呪文を唱える。魔法がかかるその瞬間まで、イメージを続けるのが大事だ。じゃあ、まず俺がやってみる」

「はい!」


 俺ならこの程度、すぐ使えるだろうが2人は大丈夫だろうか。


「アキラが命ずる、変形せよ」


 俺の白の法典が指輪に変形したのを見て、2人が歓声をあげる。


「指輪になった!」

「こんな風に、イメージできれば変形させられる」

「どうしよう……うぅん」

「何にしようかなぁ」


 イメージが(ふく)らんだらしい2人は唸って、首を傾げる。


「ピンにしようかなあ、でも失くしたらどうしよう! 戻せなくなったらどうしよう!」

「探しものに役立つ魔法も変形させた物の戻し方も教わったから、その時は俺がなんとかするよ」

「ホント?!」

「あぁ、だから好きなものに変形させるといい。問題ない」

「小さくしたら落としそうかなって思ったけど、あきらさんが居れば大丈夫なら私ピンがいいな!」


 それから結局、日和さんは白の法典をピンクのリボンの髪留めに変えた。颯真は、日和さんの提案でアンクレットに変えた。日和さんは4回で成功、颯真は中々変形の魔法がうまくいかず、6回目で成功した。

 変形させた状態でも魔法が行使できることを伝えると、2人は白の法典を身に着けてお互いに合図を送りあっては、決めポーズや決め台詞を言うという遊びを始めた。俺は参加しなかったが、昔のアニメであったようなポーズや台詞を言いながら楽し気に魔法を使う2人を眺めていた。

 本当に楽しそうだった。



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