第一章/15話 「ここまで来て、逃げるのは違うと思うぞ」
眼を開けると、見渡すと青く光る透けた壁に囲まれて、俺は体を何かで固定されていた。
「意識戻ったよ!」
「気は抜くなよ、リシュリュー! 峠は越えたがまだ収まってない」
ウェスターさんのこんなに焦った声は初めて聴いた。また迷惑をかけたんだろうな。セカンドヘヴンにいる俺は、支えられている。
息を深く吸おうとして焦る。吐き出せない。吸っても吸っても、押し込まれてふさがれているように吐き出せない。体が熱くなる、心拍がきっと早くなって、音が遠ざかっていく。
徐々に意識さえ遠のいていく。
「ははったく、世話が焼ける」
「せ、先輩! 8個できました!」
「トトくん魔力抑制陣できた!?」
「なんとか! なんとかいけました先輩!」
「よし、なんとか残り繋ぐよウェスター」
「世話焼きだなぁ、っほんとによぉ」
「ウェスターこそいつもいつもぉ!」
「ラズトさんの時が懐かしいね、ウェスター。まさか僕までって、手伝うことになるとは」
「もう規約違反はやめてよ、ね!」
「はっはっは、あきら次第だなぁ」
彼女を救うのだと言いながら、俺は救われてばかりだ。きっと俺は自分を救いたいだけだ、きっとそれだけだ。
心に宛がわれたソレの隙間を、今俺はこんな場所で誰かに頼って埋めてもらっている。
「ここまで来て、逃げるのは違うと思うぞ」
低い声だった。諭すような音だった。
覚えがないのにそれはとても懐かしいようで寂しい。前世、聞いたことがない種類のものだった。
ゆっくりと覚醒していく意識。
再び浮き上がるような思考。
開けた視界の先で輝いた青い破片が散らばっていく。
それはあまりにも鮮やかに、指すようで。
明るい火花が散る。そして、砕ける。
「早めに対処できて、よかったですね。ウェスター、僕は先に戻りますよ」
「確かにな、出来上がってたらどうなってたかわからんが、よかった本当に」
「私が知ってる魔力暴走の範囲でよかったぁ、ほんっとツイてる最近」
俺が魔力を暴走、させたのか。
「気が付いたか? 今は声も出ないだろう。だが、もう大丈夫さ」
「まぁ当分力は入らないと思うけど……ね」
「すぐ起き上がられたら俺の腰が抜けちまうなぁ、はっはっは」
「これでけろっとされたら私たちがびっくり! 18人で暴走状態の魔獣に使うような魔力生成抑制陣を八陣重ねて敷いてやっと……私はもう動きたくない」
「しゃべれる俺たちは慣れてるほうだろうな」
「とにかく! あきらが無事でよかった」
俺の体のすぐそばにしゃがみこんだウェスターさんはそう言って、またいつもように笑った。




