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【改稿前】Fallen Heaven  作者: 甘宮るい
第一章/前編 Inferiority of life
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第一章/10話 「ブルーノーティフィケイション」




 宿舎の玄関から聞こえた物音に酷く反応した俺の予想をその音の主は大きく裏切った。


「こーんにちわー! ヴェートの森新聞のみよです!」


 甲高く勢いのある声、玄関のドアを開けると茶髪ショートで緑色の眼にシンプルな深緑色に黒のチェックのワンピースという姿の少女が立っていた。


「ヴェートにやってきたばかりの方にヴェートの森や地域について、私たちの眼で見て書いた最新の情報をお届けできればと思って新聞を発行しています! 本日は、そのご案内に参りました!」


 その声に反応してリビングの2人は玄関に駆け出した。





「はい、ヴェートの役員じゃないんですけど……一応、役所にも公認で活動させてもらってます!」

「ほんとにすごいです!」

「えへへ、新聞とか記事とかブログとかするのが前世の夢だったもので」

「難しくない、かなぁ。使えるかなぁ」

「はい! どんな方でも読んでいただけるよう、白の法典に取り込んで画像として見ることもできますので!」


 みよと名乗った彼女はうんうんと頷く。

 大きめのソファー、向かい合った俺たちのテーブルの上には彼女が持ってきたセカンドヘヴン版クッキーと手作りジュースが並んでいた。(とにかくまぁはっきりとした色の食べ物だった。食欲はそそらないが味は悪くない。)

 餌付けされたらしい颯真と日和さんは新聞の購読(こうどく)を悩んでいる。


「ヴェートでは物々交換が常です! ここでの生活が落ち着いてから、拠点にする地域の果物だったり周辺の森の情報をいただければ、ずっとヴェートの森新聞をご利用いただけます! 定期的にヴェートの各地域を周っているので、お尋ねしたときに情報をお聞きしたり、食べ物を譲っていただきたいのです」

「情報でもいいんですか!?」

「はい! 十分です! もちろんです!」

「地域が決まってからの方がいいのかなぁ、今は何もできないし……」


 腕を組んで首をかしげる日和さんの首には、さっき見たものがある。


「そうしたほうがいいかもしれないな」


 抑え込むようにそう言った。違和感を押し付けるのは違う。頭の(すみ)にミサさんの忠告もあった。これも、思考混乱の魔法のせいかもしれない。


「よかったぁ、ちゃんと話を聞いてもらえて」


 少し俯いたみよさんを心配するように、日和さんが口を開いた。


「何かあったんですか?」

「んー……、ヴェートの役員の人にも新聞を白の法典に入れてもらってるんですけど、最近ヴェートに来た役員さんのうちの1人の人が」


 ヴェートに来た役員のうちの1人、あと何人かいるのか。ヴェートに来た役員という言い方はラズトのようなグリーズからやってくる役員を連想させる。ヴェートにまだグリーズの関係者がいるのか。まぁ、新聞を入れていないのはラズトだろうが。


「えー、どんな人だったんですか? 怖い感じの人?」

「うーん、女の子で綺麗な髪色の人だったんです」


 性別が違う、確実にラズトではない。


「外から来てくれる人にも、新聞は今まで好評だったんだけどなぁ」

「お、落ち込まないで! 僕らはみよさんの新聞、白の法典に入れます! えっと、今はお返しできるものがないけど!」

「問題ないです! ここでの生活が落ち着いたら伺うので、ぜひ今日からでも活用してください! お願いします!」

「わたしも、新聞入れます! これからよろしくね!」

「ほ、本当ですか!? ありがとうございます」


 うまく乗せられているように感じなくもないが、実際そういうコンテンツは役に立つだろう。


「あきらさんも入れますよね!」


 なんとも言えない表情でじっと見られて、席を外したくなる。


「わかったよ」


 仕方なく、流されておくことにした。



 新聞の白の法典への追加は簡単だった。七夕の時の短冊(たんざく)のような大きさの紙を白の法典が飲み込む。


「新聞は不定期なんですが、とにかくこまめに発行しています。ヴェートの役所が発信している情報は街灯の近くで拾えますが、ヴェートの森新聞は魔法で飛ばすので基本どこでも拾えます! みなさんの現在地も確認することができるので、迷ったときや情報がある時は知らせてください!」

「知らせる?」

「あ、まだセカンドヘヴンに来たばかりだから知らないかも! 一般的な魔法の中に一度接触したり契約をしている人にメッセージや合図が送れるものがあるんです! 練習しなくても、その人の白の法典を光らせて合図することはできると思います!」

「す、すごい! 便利だね」

「うん、すごく心強いね」

「慣れるまでは、私に危険なときは赤、何かの用事なら青で飛ばしてもらえればいいですよ」


 今から教えますね、とみよさんは立ち上がる。


「まず白の法典を開いてください、そして最初に知らせたい人の名前です。私ならミヨ・ヴェティストと言ってから、次に青の通告ブルーノーティフィケイションと言ってください」

「ミヨ・ヴェティスト! |青の通告そのページには地図が出て、日和さんの名前と場所が表示されていた。


「これ元々ある一般的な魔法の応用で作ったシステムなんです! こうやって地図が出るの! なので、いつでもこれで呼んでください! もし危険なときは、ブルーをレッドに置き換えてくださいね! あとこれ私のだけ特別で……えっと皆さんの場合、地図は出ないんですけど……あ、誰からかはわかります! 覚えておくと便利かも!」

「魔法だあああ! 魔法覚えちゃった! ありがとうございます!」


 颯真が今にも天井に突き刺さりそうなテンションの高さでそう言う。俺はもう魔法を目にしているが、颯真と日和さんはまだ魔法を目にしたことは少ない。

 普段があの調子なのだからはしゃぐのも目に見えていたが、あまりの騒がしさにどっと疲れを感じる。


「礼にも及びません! これくらいならだれでも教えられると思うし……」


 彼女は謙遜している様子だが先に知っておいてよかった。そう思って、日和さんと一緒に俺も頭を下げる。


「助かった」

「勉強になりました、ほんとに。これで迷子も怖くないですね!」


 迷子にはならないでほしい。


「迷った時には、いつでもこのみよが馳せ参じます!」





 それから一頻、説明を終えた彼女は颯爽(さっそう)と帰っていった。嵐のような少女だった。


「すごい人に魔法教えてもらっちゃったぁ……」


 2人はお互いにさっきの魔法を使いあっては、余韻に浸っている。

 便利な一般魔法だ。だが、これで追跡もできるのではとふと思った。




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