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【改稿前】Fallen Heaven  作者: 甘宮るい
第一章/前編 Inferiority of life
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第一章/5話 「わしらは采配を振る、契約は整った」





 俺の予感は的中した。

 役所に入った瞬間に、俺より身長が高い女性に体を抑え込まれる。咄嗟(とっさ)に後ろのドアを開けようとしたが、それは叶わなかった。圧倒的な力の差で手すら抑え込まれ、すぐそこのドアにさえ手が届かなかった。身動きが取れない。脈拍が早くなっているのを感じた。

 その時、俺を抑え込む力が少し緩む。床に落ちていた視界を上げた。

 そこにあったのは昨日と同じ役所、ではなかった。


「やめいやめい。血の眼とはいえ、この世界に来たばかり。ただの赤子じゃて」

「ですが! 王に危害を加えないとは限りません!」

「ミサ! わしはここに招くよう言うただけで、そない雑に扱えとは言うとらん。みなまで言わんとわからんか」

「……失礼しました」


 抵抗する力まで抑え込んでいたその力が急に消えて、俺の体は崩れ落ちた。


「酷く扱ってすまんのお……どうか部下の無礼を許してくれ。わしはヴェートの前国王オーベロンじゃ、今は国王補佐代理をしとる」


 年齢がない世界であるはずなのに、容姿が自由に変えられる世界であるはずなのに、何故か俺には目の前の男が酷く年老いて見えた。彼が俺に差し出した手には皺が多く、腰も曲がっている。

俺のことを捕まえていた女性が小声で文句を言っているのを聞きながら、口を開く。


「初めまして、あきらです」


 オーベロンと名乗った彼は、俺の言葉を聞いて口角をあげる。手を取った俺を軽々と引っ張り上げた。




 俺を抑え込んだお世辞にも小柄とは言えない女性は不満そうにしていたが、想像以上にきちんと持て成された。珈琲とギモーヴのようなお菓子が出され、前置きとしてグリーズからの連絡はもう少し待ってほしいということ、ヴェートへの滞在許可が下りたこと、それから今いる場所は役所の奥にある部屋であり、俺が役所の扉を開けると転移するようになっていたとオーベロンさんは教えてくれた。


「わしは訳あってヴェートの王ではなくなったが、お主と話がしたくての。ちと、無理やりこの役を引き受けたんじゃ」

「話って、なんですか」

「わしの興味が1つ、あとの理由がもう2つ。片方はいつか機会があればお主に話そう、もう片方はさっきお主が受けた扱いの理由じゃ」

「俺が何かしましたか」


 ラズトに危害を加えた件かもしれない。ラズトがオーベロンさんに伝えていれば、俺はどうされるかわからない。


「おっと、うちの役員に何かしたんか? わしの耳には届いとらんから知らんことにしとかの」


 読まれている。まさか、そんなことは。


「お主の心を読んどる。すまんのお、これがわしの王を辞めた理由の1つでのぉ。まぁ1つやないんやが……。それはそうとさきの続きや、お主はこの世界の魔力指数が異常に高い、最高ランクである赤い目をしとる。それが5人目なのは知っとるか?」

「……知っています」

「そりゃ、話が早うて助かる。他の4人の中の1人がここ1週間ほど確認が取れとらん。グリーズには各国民の場所を探知する能力が備わっとる。グリーズの監視を抜けるのは至難(しなん)(わざ)じゃ。ちょっとやそっと誤魔化せても、1週間もとなれば大問題じゃ」


 グリーズに目を付けられることになれば、具体的な監視もされそうだな。厄介な便利さだ。


「そうじゃのお、お主が思うようにグリーズは敵に回すと厄介じゃ。赤い目のことを一部では血の眼と呼ぶんじゃが、そうともなればなおさらグリーズは手加減せん。血の眼のそやつが失踪(しっそう)、グリーズから各国に使いが来るやしれんの。わしにはお主が本当にお主かどうか確かめる義務があった。失踪したそやつが何かしらの理由でお主に成り代わった可能性も確認せねばならんほど、事態は深刻に(とら)えられよる」

「そこまで危険な人物なんですか」

「もう一人、失踪したその男と一緒に随分前からこの世界に留まっている女が失踪しとる。そやつらのこの世界での経歴の記録に少し不可解な点が多くての。内容が内容じゃ、ここで話せんことも多い。ゆうても、理解はしてほしい」

「事情はわかりました」

「物分かりがよくて助かる。ただ、お主の申し出についてグリーズでの会議で多数の異議が上がったと聞いた。お主には酷な話やのぉ……」


 グリーズで会議までされたのか。赤い目をしているからこその扱いか、それとも申し出に前例がないからなのか。

 前者だろうな。


「わしからはここまでじゃ! ここからはちょいと、娯楽に付きおうてもらおうかのお」


 オーベロンはそう言うと、指を鳴らす。一瞬、眩暈(めまい)を感じる。途端にテーブルの上の物が消えた。


「ここでの話は誰にも漏らさぬ、わしは誓おう。この契約をもって、お主にわしが問いたい」

「……答えられるものなら答えます」

「よしきた、それじゃあわしはお主の問いにも答えられる限り答えよう」


 部下と呼ばれていた例の女性がオーベロンの前に蝋燭(ろうそく)を置く。オーベロンはその火を手に取るとテーブルクロスに(ろう)で円を描く。白い蝋で描いたはずのその円がゆっくりと赤黒く変色して、テーブルクロスに浮かび上がっていく。


「どちらかが答えられないとすればこの契約はそこまで。最も、それはわしもお主も望まぬこと。より、簡単なことから質問するとしようかの。異はないか?」

「わかりました、異議もないです」


 俺の返事を聞くと、赤黒い円のその線がずっと濃くなっていく。


「わしらは采配(さいはい)を振る、契約は整った。これよりわしら以外にこの声は一切、聞こえぬ。さあ、わしから問うとしよう」



 この時、俺はまだオーベロンの質問もこの遊びがどのようなものかも全く理解できていなかった。



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