第4.5話 戦国時代の軍隊について
大田勇介と藤田吉郎の対話コーナーの第5弾です。
今回は、戦国時代の軍隊についてです。
結構攻めたことを書いてます。
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ナレーション
さぁ、始まりました!親友ふたりによる、夢のひととき。今回のお題は・・・「戦国時代の軍隊について」です!!では、おふたり、お願いします。
藤田吉郎
第5話読んでたら、ならず者の群れみたいなヤツらばっかりが出てきたんやけど、ホンマにあんな軍隊やったんか?
大田勇介
今作で初めて戦争について書くからかなり詰め込んだ感じやけど、ああいう風景は普通にあったらしい。当時の軍隊は略奪・放火は当たり前やし、殺伐とした戦いの合間の「飲む・打つ・買う」は、兵たちにとって唯一の楽しみやった。
ヨシロー
酒も自分で作ってたんか?
マタスケ
うん。当時は基本的に食料は自分で用意させてたんやけど、戦いが長引く場合などに大名が兵粮米を支給することがあった。そのとき、担当者は一気にたくさん米をあげないようにしていたらしい。渡した直後に酒を作り出して、じきに飢えるやつが多かったからやって。米さえあれば、自分のツバで発酵させて酒作れるからな。
ヨシロー
軍隊の後ろに商人がくっついて来るってのも想像できへんな・・・。
マタスケ
いつの時代にも、ビジネスチャンスを嗅ぎつけて危険な場所にやって来る商人はいるもんや。飢えてるやつが多いから粗悪な食べ物でも高値で売りつけてボロ儲けできるし、博打や戦の分捕品を安値で買い取ってよそに売りつけて儲ける商人もいた。博打は必ず負けるやつが出るし、戦で分捕った物は持ってたら荷物になるから、すぐに現金化したいっていう意識が働くからな。
ヨシロー
時代劇ではなかなかお目にかかれん闇やな。あと、軍隊の半分が荷物持ちとかの裏方ってのもホンマなんか?
マタスケ
これも戦国時代だけに限らへんけど、そういう縁の下の力持ちがいないと、軍隊は成り立たへんよ。例えば、戦闘員が全部の荷物背負って戦場まで行くとする。そしたら、彼らは戦場に着いたころには疲れ切って動けんようになるのがオチやな。戦おうにも身体がついてけーへん。もちろん、戦場までの距離にもよるけどな。
ヨシロー
なんか、村から選ばれてやって来てたって書いてあったけど?
マタスケ
当時は村がまとまって自衛したり、領主と交渉したりしてた。ホンマの「自治」ってやつやな。軍隊の雑用係も領主から割り当ての人数が決て、村が誰を出すか決めた。そういう場合は、農家の次男以下か、よそから住み着いた者がなることが多かった。
ヨシロー
何で次男坊以下とかよそから来た人間が選ばれるんや?
マタスケ
土地を持ってる農民が戦に行って、もし帰りが遅くなったり死んでしまったら、田畑が荒れ果ててしまう。それに比べて土地を持っていない人間は失うものが少ない。村全体で考えたら、そういう人に行ってもらうのが一番都合がいい。
ヨシロー
なるほどな。けど、次男坊以下はわかるけど、よそから来た人間なんてそんなにたくさんいたんか?
マタスケ
当時は今と違って気温が低くて飢饉が多かったし、戦いに巻き込まれて土地を捨てて移り住むこともあったから、結構いたはずや。彼らは当然土地を持っていなかったから、職人とかを除いたら日雇労働や季節労働をしている者が多かったやろうな。
ヨシロー
せやけど、雑用係ってやる方はメリットあったんか?危険なだけちゃうんかな。
マタスケ
雑用係になる者も、嫌々駆り出された者ばかりではなかった。彼らはそのまま村にいても土地が手に入る可能性が低い。それならいっそ、「出稼ぎ」に出たほうが将来が開けるかもしれん。貯めた金で将来土地を手に入れられるかもしれんし、軍隊暮らしが性に合ってたら、そこから武士への道を進む者も大勢いたやろうし。
ヨシロー
あと、戦うやつは馬に乗ってるのと歩いてるのとが混じってるみたいな書き方やったけど、あんな感じやったん?
マタスケ
そう。馬に乗れる身分っていうのは限られてて、残りはその従者やった。戦国時代の途中まで、主人と家臣から成る小さなひとかたまりになって戦う部隊が多かった。
ヨシロー
途中までってどういうこと?
マタスケ
実は、応仁の乱あたりから「足軽」という新しいスタイルの兵隊が出てきたことと、戦国時代の後半に関東などの東国で軍隊編成の革命が起きたらしいという説がある。今作の時代は、ちょうど変化が進んでいる途中の時期に当たるんやわ。
ヨシロー
足軽ってのはどんな連中なん?
マタスケ
一言で言えば、金で雇われた兵隊やな。さっきも言ったように、戦国時代は土地を捨てて移住する人間や次男以下に生まれて土地を持てない者がかなりいたから、足軽のなり手もまた需要があった。それに、雇う側にもメリットはあった。
ヨシロー
雇う側のメリットって何やろ!?
マタスケ
今までの軍隊と違って、動かしやすい。今までの軍隊は、家臣に声をかけて集めるんやけど、その家臣たちが普段は大名から離れたところで生活していることが多い。集めて軍隊にするのにどうしても時間がかかる。その点、足軽は金さえあればずっと雇っておけるから、必要になったらすぐ動かすことができる。
ヨシロー
それやったら、使い勝手がぜんぜん違うな。
マタスケ
もちろん、欠点もある。ずっと雇うとなったら、とんでもなく金がかかる。この頃、関東に北条家っていう大大名がいるんやけど、そこの記録に見える常備の足軽部隊は数百人から千人の規模らしい。大きな大名家でそんな感じやったとしたら、他も似たようなもんやろうな。
ヨシロー
そう言えば、軍隊編成の革命がどうのこうのと言ってたのはどういう意味?
マタスケ
これも関東の北条家の資料からの説なんやけど、戦国時代の後半から大名が「検地」と言って土地の収穫高を調べ、それに基づいて家臣に対して連れてくる兵隊の数や武器の数なんかを細かく指定していくようになるんや。その注文内容があまりにも細かいから、そうやって色んなとこから集められた兵隊を大名が武器の種類ごとに部隊分けしてたんじゃないかって説がある。で、馬に乗れる身分の土地持ちの家臣たちもひとつにまとめ、重装備の部隊にしてたんじゃないかと。
ヨシロー
それがホンマやったら、使う方からしたらもっと使い勝手がよくなるな!
マタスケ
これまでは織田信長以外の大名は戦のたびに農民を駆り出して戦ってたから、農繁期には戦ができなかった、信長だけは「兵農分離」をして武士だけの最新式の軍隊をつくったから、他の遅れた大名より強かったんやって説が主流やった。でも、実際は農繁期に戦をしてた記録はたくさんあるし、そもそも農民をいきなり戦場に連れて行っても役にたたない可能性が高い。本当はそうじゃなかった、って視点で今作は書こうとしてる。
ヨシロー
そうなんや。信長の凄さがひとつ減ってしまうんやな。
マタスケ
「兵農分離」が信長の専売特許じゃなくなっても、信長の凄さは変わらんよ。今作で等身大の信長の凄さを描けたら、言うことないな。
ヨシロー
筆者の野望は等身大どころやないな。
ナレーション
お後がよろしいようで。
織田信長が革命的な「兵農分離」をしたから天下統一に突き進めたという説が根強いですが、本文を見ていただければわかるように、筆者はその説をとっておりません。
筆者なりに当時の戦国の戦とはこんなものだったのではないか、と思う描写を今後も行っていく予定でおります。
今回のお話は、西股総生さんが書かれた『戦国の軍隊』という本などをもとにしています。
西股さんは城郭研究を専門にされている方ですが、やや専門外のこの本の内容は深く、大変面白いです。
兵農分離について興味をお持ちの方は、一度手にとって見ることをオススメします。