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第7話:メロンとスイカ

 福音の塔が半ばから崩れ去ったために、天界から聖地に降り注ぐ神力(ちから)が眼に見えて失われていく。地上界で一番に輝く聖地は暗闇に閉ざされていく中、それとは対照的に東の空から太陽が昇る。4月中頃に差し掛かるお日様の光が今や廃墟に等しい聖地とその宮殿を照らし出すことで、ますますベル=ラプソティの心に沈痛な影を落とすことになる。


「福音の塔が崩れた今、この地に踏みとどまる意味はありませんわ……。ハイヨル混沌は他の地にある福音の塔も狙うはず。ディート=コンチェルト様。わたしたちのことは放っておいて、グリーンフォレスト国へと戻ってください」


「いや、そうは言うが、其方たちはどうするのじゃ? この地が闇の領域(テリトリー)に堕ちた以上、ここに踏みとどまることも出来ぬだろう。どうじゃ? わしの国に避難するというのは?」


 ディート=コンチェルト国主の提案はベル=ラプソティにとってありがたい話であった。しかし、自分たちがグリーンフォレスト国のお世話になるということは、同時に厄介事を抱えることと同義であった。聖地に住まう住人はこの戦いで1000人余りまで目減りしていたが、難民と化した聖地の住人を国で受け入れれば、軋轢が生じることは自明の理である。


 そして何よりもだ。ハイヨル混沌はベル=ラプソティ自身を狙っている。星皇がアリス=ロンドを聖地へ派遣したのも、ベル=ラプソティをハイヨル混沌の魔の手から救うという大義があってこそである。天界の防衛力を削いでまで、アリス=ロンドを派遣したという事実がある以上、ベル=ラプソティはディート=コンチェルトの提案を快く受けることは、なかなかに難しい。


「ベル=ラプソティ様。そんな憂い顔では、せっかくの美人が台無しだぜ? あんた自身に事情があることは、その雰囲気から察するが、俺はともかくとして、凱旋王の実力を甘く見てもらっちゃ困るぜ?」


「クォール殿下。そこは貴方自身の腕をどうとか言う場面では?」


「ハーハハッ! こいつはこいつで謙遜しているつもりなのじゃろうてっ! しかし、意外なことに、口説き文句を言っておるところを見ると、腹を括ったようじゃな?」


 ディート=コンチェルト国主が虎髭を右手でさすりながら、人妻に向かって、少しは良い所を見せようとしている息子に対して、ニヤニヤとした顔つきになる。しかしながら、もっと直接的に口説いてみせたら良いと思うディート=コンチェルト国主である。対してクォール=コンチェルト第1王子はバツの悪そうな顔で右手でボリボリと自分の後頭部を掻いてみせる。


 そんな2人に対して、ベル=ラプソティはペコリと礼儀正しく頭を下げて、グリーンフォレスト国へ聖地で生き残った住民たちを避難させてもらえることに関して、感謝の弁を述べる。ディート=コンチェルト国主は任せておけぃ! と豪胆さながらの返事を返してくれる。


(話が早いヒトで助かるわ。でも、グリーンフォレスト国へ向かう途上で、わたくしは別行動を取らねばならないのでしょうけど)


 ベル=ラプソティはグリーンフォレスト国からの援軍を今や廃墟となりつつある聖地の奥へと案内する。グリーンフォレスト国の一団は案内の最中、クォール=コンチェルト第1王子の指示に従い、傷つき倒れている者たちの救護を買って出る。ベル=ラプソティはそんなクォール=コンチェルトに対して、礼を述べようとしたが、ディート=コンチェルト国主に待ったをかけられる。


「あやつは槍働きこそ、わしに劣るが、こういうサポートに関しての才に長けておる。あいつにとっては、これは当然の行為であり、礼を言われるほどの仕事ではないのじゃ」


「貴方にとってはそうかもしれませんけど、わたくしにとっては気持ちが良いことではありませんわ」


 ベル=ラプソティは自分を静止するディート=コンチェルト国主を振り切り、クォール=コンチェルト第1王子の下へと駆け寄り、深々と頭を下げている。その様子を見ているディート=コンチェルト国主はさらにニヤニヤとした顔つきになってしまう。ベル=ラプソティが頭を深々と下げてしまったために、戦乙女(ヴァルキリー)・天使装束の胸部分の隙間から谷間がくっきりと浮き出てしまう。その胸の谷間をゲフンゲフンとわざとらしい咳をしながら、横目でちらちらと見ている馬鹿息子の様子がとてつもなく面白く感じてしまうディート=コンチェルト国主である。


(あのおっぱいは凶器そのものじゃ。わしがもう10年若けりゃ、馬鹿息子に譲らずに、わしが直々にベル殿を口説くのだがなぁ?)


 ディート=コンチェルト国主は『凱旋王』と呼ばれるだけはあり、アッチのほうも未だに現役である。武に長ける(おとこ)は誰しも性欲と我が強い。しかし、さすがの『凱旋王』も50歳を目前にしているため、自重しようとここ数年は思うようになってきた。そして、良い歳となったのに、彼女のひとりも作らない馬鹿息子に対して、お鉢を回そうと気遣うのであった。


 そんなディート=コンチェルト国主はベル=ラプソティと共に聖地の奥へと足を踏み入れたと同時に、顎が外れそうなほどに口をぽかーーーんと開けて、間抜け面となってしまう。


「ベル様ァ。アリス様を治療するために神の蒼き血(エリクシオール)・地獄に放り込んでおきましたのですゥ。って、あれ? ベル様の後ろに居る方はどなたですゥ?」


 ベル=ラプソティが聖地の奥にある宮殿へとディート=コンチェルト国主を案内すると、そこで待っていたのはベル=ラプソティの軍師であるカナリア=ソナタと、彼女たちの騎乗獣であるケルビムのコッシロー=ネヅであった。ディート=コンチェルト国主は蒼いタテガミを持ち、黒く勇ましい馬を愛馬としていたが、未だに戦闘形態であるコッシロー=ネヅの姿に驚いてしまう。そして、そんな驚くディート=コンチェルトをさらに驚かせたのがカナリア=ソナタの胸に実るふたつのスイカであった。


(待て待て……。ベル殿が推定Fカップとするとじゃ……。この見るからに頭のネジが足りなそうな女子(おなご)のは、推定Hカップ? いや、違う。Iカップだとぉぉぉ!?)


 ディート=コンチェルト国主はカナリア=ソナタの推定Iカップあるおっぱいを布越しから凝視し、ぽかーーーんと開いた口を閉じる際に、ごくりっ! と唾を喉の奥へ押下してしまう。カナリア=ソナタのこのでかすぎるおっぱいを見た後では、ベル=ラプソティのそれなぞ、所詮『そこそこFカップ』という感想しか抱けなくなってしまう。


「カナリア。こちらはグリーンフォレスト国から援軍を送ってくださったディート=コンチェルト国主様よ」


「おォ! あの『凱旋王』様ですかァ! これはこれは御足労痛み入りますゥ!!」


 カナリア=ソナタはディート=コンチェルト国主に向かって元気よく頭を下げる。そして、跳ね上げるように背筋を元の形へと戻す。そうすることでカナリア=ソナタのおっぱいは焼きマシュマロをブンブン振り回したかのようにブルンブルンと上下へと跳ね回る。


(凱旋王と呼ばれるわしが(いくさ)の中で(いくさ)を忘れてしまいそうになるのじゃっ! クゥゥゥ! 現役に復帰したくなってしまうのじゃぁぁぁ!)

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