第4話:錯乱するクォール王子
「いだい、いだいでデス!」
「もう、本当にこんな無茶をしないって約束してっ!」
地獄の番人と番犬を倒したアリス=ロンドの下に駆け付けたベル=ラプソティがアリス=ロンドの活躍を褒める前に、まずは彼女の剥き出しの両の乳首を両手の指でつねってみせる。アリス=ロンドは涙目になりながら、ベル=ラプソティに抗議をし続けるために、なかなかベル=ラプソティはアリス=ロンドの乳首から指を離そうとはしなかった。
「いやあ。麗しいお嬢さん。貴女のおかげで俺たちは難を逃れました」
ベル=ラプソティの動きを止めたのは、彼女の後ろ側から近づいてきたクォール=コンチェルト第1王子であった。彼はうやうやしく貴族たちがよく行う礼儀正しいお辞儀をして、アリス=ロンドの功績を讃えることを止めないでいた。
ベル=ラプソティは、はぁああん!? と、つい脅し文句に近い言葉を口から吐いてしまう。本来なら、畏れ敬うどころか、異様な神力を見せたアリス=ロンドに対して、腰を抜かすことのほうがよっぽどまともな対応のはずなのにだ。それなのに、恋する男のように瞳を潤し、まるで最愛の恋人を見つめるようなまなざしをクォール=コンチェルト第1王子はアリス=ロンドに向けている。
「あの。この婆娑羅男は誰デス? ベル様にちょっかいをかけるような優男なら、眼から光線で焼却しますケド……」
ベル=ラプソティのお仕置きから解放されたアリス=ロンドが首級を傾げつつ、キョトンした顔つきで物騒なことを言い出す。ベル=ラプソティは面倒くさいことになったわねと思いつつも、クォール=コンチェルト第1王子をアリス=ロンドに紹介し始める。
「アリス……。こちらはグリーンフォレスト国の第1王子であらせられるクォール=コンチェルト様よ。わたくしたちをグリーンフォレスト国まで案内してくださる予定なの」
「なるほどなのデス。それを種に、ベル様のお腹に子宝種を仕込むつもりの優男なんデスネ。眼から光線なのデス!」
ベル=ラプソティがちょっと待ちなさいっ! と言う前にアリス=ロンドが頭に被るオープン型フルフェイス・ヘルメットの前面に怪しい光点が宿る。しかしながら、優男と断じられているクォール=コンチェルト第1王子はまったく怯むこともなく、さらにはどうぞ、自分に罰を与えてくださいと言った感じに両腕を大きく左右に広げてみせる。
その彼の堂々とした態度にアリス=ロンドは思っていた人物とは違うように感じたため、眼から光線での焼却を止めてしまう。怪しい光がアリス=ロンドのオープン型フルフェイス・ヘルメットから消え失せると、クォール=コンチェルト第1王子はなんだか寂しい雰囲気を醸し出す。
「ああ……。貴女の力強い視線で焼かれるなら本望だと思ったのだが。俺はまだまだ男磨きが足りないようだ」
「ベル様。このひと、何なんデス? 星皇様の1万倍、気持ち悪いことを言っていマス」
「ちょっと、アリス。指差しちゃダメでしょ! でも、クォール様、どうされたんです? 戦闘中に強く頭を打ってしまいました?」
星皇の歯が浮きそうな台詞は、確かに彼に想いを寄せてない女性にとっては、この上無く気持ち悪さを醸し出している。そして、その遥か上を行くレベルでクォール=コンチェルト第1王子がアリス=ロンドに示す優し気な態度は吐き気を催すレベルだ。小1時間前に、自分の身を抱き寄せたあのクォール=コンチェルトらしさが、今はまったく感じられないベル=ラプソティである。
それゆえに今のうちにクォール=コンチェルト様の幻想を打ち砕くために、ベル=ラプソティはアリス=ロンドのスカートの前面を右手でめくり上げ、さらには左手でアリス=ロンドの履いている革製のショーツをずり降ろす。そうすることで、アリス=ロンドは女の子ではなく、男の娘であることを証明してみせる。
「うぐぉぉぉ!? こんなに可愛いのにおちんこさんがついてるだとぉぉぉ!?」
クォール=コンチェルト第1王子は頭を両手で抱え込みながら、身体をグネグネと捻じらせる。さらには頭を抱えつつ、その場で崩れ落ち、四つん這いになってしまう。
「あっ。やりすぎたわ。いくら現実を教えようとしても、こればっかりは刺激が強すぎたわね」
「ベル様。ボクのおちんこさんを見せて良い相手は、星皇様とベル様だけなのデス。出会ったばかりのヒトに見せないでくだサイ」
アリス=ロンドの抗議に対して、ベル=ラプソティはごめんね。と彼女らしくもなく、素直に謝ってみせる。誰だって、恋焦がれる相手以外に、自分のデリケートゾーンを見せたくは無いものだ。そして、やむをえぬ事情があったからといって、アリス=ロンドの可愛いおちんこさんを人目に触れさせる行為は、さすがのベル=ラプソティでも負い目を感じた。
しかしながら、そんなやり取りをしている2人を無視するかのように、クォール=コンチェルトがさらに気持ち悪さを発揮する。地面の上で四つん這いになりながらも、その姿勢のままでグフ、グフ、ドムゥ! と気持ちの悪い笑い声をあげ始めたのだ。
「ああっ! 俺の心にザクッ! と来たよ。こんな可愛い子におちんこさんが付いているわけが無いとばかり思いこんでいたところを不意打ちしてくれたっ! 俺はなんて幸せ者なんだっ!」
この台詞にはさすがの傍若無人ぶりを発揮しているアリス=ロンドの顔にも怪訝な表情をさせてしまうことになる。アリス=ロンドはやっぱりこの男は眼から光線で焼却してしまったほうが良いと考えを改める。しかし、アリス=ロンドがオープン型フルフェイス・ヘルメットの前面の一点に怪しげな光点を作るや否や、それを発射させないように止めたのが、ベル=ラプソティの軍師であるカナリア=ソナタであった。
「お、落ち着いてくださィ! クォール様がこんなことになったのは、何か事情があってこそだと思うのですゥ」
「そこをどいてくだサイ、カナリアさん。貴女がベル様の付き人だとしても、貴女ごと焼却シマス」
アリス=ロンドとしては本当に珍しいことに怒りの感情を身体から噴き出していた。ベル=ラプソティは彼女を見ていて、そんなこともあるのねと呑気に構えている。しかし、カナリア=ソナタがベル様もアリス様を止めてくださいとの一言を受けて、気乗りはしないが、アリス=ロンドを落ち着けさせる方向で動くことになる。
「さてと。カナリア。貴女の予想だと、クォール様はどうなっているわけ?」
とりあえあず、クォール=コンチェルト第1王子をその辺に転がっていた縄で縛り上げ、さらには樽の中へ放り込み、物理的に気持ちの悪いクォール=コンチェルト第1王子がアリス=ロンドの視界から消えた後にベル=ラプソティは自分の軍師に彼の容態について質問する。
カナリア=ソナタは推測に過ぎませんがと前置きした後
「これはハイヨル混沌により、聖地が破壊されてしまった悪影響をモロにクォール様が喰らってしまったせいだと思いますゥ」




