第3話:3種のエンジェルモード
「アリス様がァーーー!!」
天界の騎乗獣に乗っているカナリア=ソナタは思わず声を大にして叫んでしまう。アリス様がとっさに左手を前へと突き出し、そこに青白い光の盾を現出させたは良いが、その光の盾は瞬く間に溶けてしまったからだ。身を護る盾を失ったアリス=ロンドであったが、心配しなくても良いとばかりに優し気な視線をカナリア=ソナタに向けて送ってくる。
だが、次の瞬間にはアリス=ロンドは地獄の番犬が生み出した巨大すぎる火球に飲み込まれてしまう。カナリア=ソナタは、あ……あァ……としか口から音を出せなくなってしまう。しかし、そんな彼女に対して、ベル=ラプソティは毅然とした態度で地獄の番犬を睨みつけていた。そして、何かを言う前に背中に結わえてある銀色の棒を一本、右手に取り、それを光の槍と化して、地獄の番犬へと向かって、勢いよく投げつける。
地獄の番犬はニヤリと笑い、少しだけその身を捻じり、突き付けられた光の槍の柄を鋭い歯で噛み、さらには砕いてしまう。ベル=ラプソティが投げた光の槍は粉々に砕け、光の鱗粉となり宙に溶けていく。貴様たち如きが自分と戦うなどもってのほかと言いたいが如くに、地獄の番犬はワォォォン! と高笑いしてみせる。
しかし、そんな勝ち誇る地獄の番犬に対して、口の端を歪ませて、フンッと笑みを零すのがベル=ラプソティであった。
「あんたはわたくしを舐めた。いえ、アリス=ロンドを舐めたわっ!」
ベル=ラプソティがそう宣言すると同時に、未だに宙を漂っていた巨大すぎる火球が一気にその威を衰えさえさせる。地獄の番犬は勝ち誇った表情から一瞬で驚愕の色をその顔に浮かべることになる。
「ソードストライク・エンジェルモードに移行デス。さすがはベル様なのデス。ぼくの心配などこれっぽちもしてくれないので、お尻が濡れてきちゃいマス」
巨大すぎる火球が掻き消えた場所に居たのは、超一級天使装束のところどころから紅い焔が噴き出ているアリス=ロンドであった。アリス=ロンドは長さ3ミャートルほどある光と青白い焔で出来上がった大剣を両手で握っていた。そして、それを思いっ切り振りかぶり、地獄の番犬の身へと叩きつける。
さすがは地獄の番犬と言ったところである。炎耐性が高すぎるせいか、アリス=ロンドが両手で握る青白い焔で燃えることはなかったが、光刃部分で叩き伏せられることとなり、地上から上方向へ300ミャートル地点の位置から、一気に地上へ向かって叩き落とされることになる。
この一撃だけで地獄の番犬の背骨は真っ二つに折れていたのだが、アリス=ロンドは追撃の手を緩めずに光と青白い炎で出来た大剣の切っ先を地獄の番犬の腹に当てたまま、一緒に地上へと堕ちていく。そして、地獄の番犬は馬頭鬼共々、アリス=ロンドが両手で握る大剣によって串刺しになってしまうのであった。
地獄の番犬の体内に流れる溶岩のように熱い血液が、裂けた腹から飛び散り、同じく大剣によって串刺しになっている馬頭鬼の身も焼くことになる。グギャアアア! と馬頭鬼が断末魔をあげるが、アリス=ロンドは決して、両手で握っている大剣から神力を抜こうとはしなかった。
「ブモォォォッッッ!!」
地獄の番犬と馬頭鬼が同時に斃されたことで、激昂したのが牛頭鬼であった。牛頭鬼は地獄の番人であり、馬頭鬼と地獄の番犬は『兄弟』と呼んで良い間柄であった。それゆえに牛頭鬼は怒りの色を肌の色にまで映し出す。未だに自分の足元でちょこまかと動き回る虫を左の裏拳で殴り飛ばす。
そして、2本の牛角を前面に押し出しながら、長大な大剣で兄弟たちを串刺しにしつづける片翼の天使に向かって、突き刺すかのように振り回す。アリス=ロンドは猛牛の突進を身体の横側に喰らい、無理やりに天高く舞い上がらせられることとなる。
牛頭鬼はブモォォォ! と怒りの色をさらに強める。本来なら、牛角で突き刺すはずであったのに、片翼の天使は身を捻り、角と角の間に身体を差し込み、突進のみのエネルギーを喰らうだけで済ませていたのだ。錐揉み状態になりながら宙を舞う片翼の天使を今度こそはと頭から生えている牛角で串刺しにしようと、片翼の天使が落下してくる予想地点へとその巨体を動かす。
しかし、アリス=ロンドが牛頭鬼の牛角により串刺しになることはなかった。。アリス=ロンドは片翼を羽ばたかせ、放物線を描いて地上へと激突するコースを歪みに歪める。アリス=ロンドは着地地点をずらしつつ、錐揉み状態となっている身体のエネルギーを右手から牛頭鬼の右角に伝播させたのである。
牛頭鬼の自慢の牛角をねじ切っただけでなく、アリス=ロンドはさらに牛頭鬼の顔面に蹴りを入れて、一気に距離を開ける。彼我との距離は20ミャートルほど開くことになる。牛頭鬼は牛角を一本、ねじ切られたことで半狂乱になりつつ、さらには滝のようによだれを口から垂れ流す。
すでに牛頭鬼には知性も品性も感じられなかった。ただただ、馬頭鬼と地獄の番犬の仇を取ろうとする一個の怪物と化していた。それゆえに牛頭鬼はそれ以外の何も考えずに、遺された左の牛角を片翼の天使の腹に向けながら突進していく。
「ランチャーストライク・エンジェルモードへ移行シマス。射線上の味方は即刻退避をお願いシマス」
アリス=ロンドは右手に握る金筒を下方向へと投げ放つ。投げ放たれた金筒は一瞬で巨大化し、まるでアリス=ロンドがひとりで破城槌を抱えこんでいるかのようにも見えた。その太すぎる金色の破城槌の片端から、これまた太すぎる緑白い光線が勢いよく溢れ出すことになる。
その太すぎる青白い光線は伸長4ミャートルもある牛頭鬼を丸のみするだけでは事足りず、その先にある森林を真っ二つに割り、さらには大火災を起こすきっかけとなる。
「あ……。出力を間違えマシタ。これはベル様に怒られマス」
アリス=ロンドは違う意味で心に恐怖心を抱くことになる。だが、そんなアリス=ロンドに対して、アリス=ロンドがもたらした破壊の数々に聖地の生き残りだけでなく、グリーンフォレスト国に所属する面々も腰を抜かし、口から泡を吹くことになる。
「あの馬鹿ッ! 本当に馬鹿ッ! 誰よ、あの過剰すぎる戦力をわたくしの下に送りつけてきたのはっ!」
「はわわ……。これはどう取り繕っても、アリス様を弁明出来ないのですゥ……」
「星皇様の愛は重すぎるのでッチュウ。個人に持たせて良い武力じゃないんでッチュウ」




