罰ゲーム?
相撲大会でガイルに負けてしまったクラウン。周りに見直してもらおうと、優勝を目指したものの、子供たちを泣かせるような闘いぶりやガイルの純情を弄んだ?疑惑もあって、町の人々の評価は上がるどころか、だだ下がりになっていた。
すぐに退院したクラウンとマサ、そしてガイルの3人はアパートで揃って朝食をとっている。
ガイルと同居してからは料理は基本、ガイルの担当だ。
今日は、クラウンが退院してから初めての出勤日なのだが…
「納得いかないっ!私がやることなすこと、ことごとく裏目に出てしまった…」
「身から出たサビだろ」
「うるさい!私はやるべきことをやったまでだ!」
「箸で人を指すな。何をやったって?」
「勝利に向けて全力を尽くした!それが勇者というものだ!」
「お前がやったのはただの弱い者いじめだし、それにもう勇者じゃねぇだろ」
「ハイハイ。喧嘩はその位にして、ご飯食べちゃいましょ。冷めちゃうわよ」
「「………」」
台詞だけ聞いたら、料理上手な可愛い若妻とでも勘違いしそうだが、その正体はでっかいハートが描かれたピンクのフリル付きエプロンを着た、ただのゴリマッチョ。
このゴリマッチョ、もといガイルは、クラウンとのキスが『町内相撲大会史上、一番の純愛』『ヘプバーンの再来』などと町民から絶賛され、超絶人気者になっていた。
…大丈夫か、この町…
そりゃ相撲大会での純愛物語なんて、過去もこれからも金輪際、起きないだろう。
ただし、ガイル的にはあの行為でクラウンを愛する気持ちに、いったんピリオドを打ったらしく、今はクラウンへの好意はほぼないらしい。
「あぁ…仕事に行くのが怖い。負けたから罰ゲームという奴をやらないといけないらしいんだ」
「知らねぇ」
「冷たい奴だな!元はといえばお前がガイルを連れてきたから、こんなことになったんだぞ!」
「責任転嫁すんな。俺はガイルの希望を叶えただけだぞ」
「ちょっと考えれば解るだろう!こんな脳筋ゴリラに私が勝てると思うか?」
ピキッ!
「…こんなゴリラ?…誰のことを言ってるの?」
ゆらり、とガイルが立ち上がる。
「ひぃっ! いやっ、そんなつもりじゃ… 私は決してガイルのことを言ったわけじゃない!信じてくれ!」
いっつも思うのだが、コイツは喋るときに思いついたことをすぐ口に出してしまう悪い癖がある。頭にフィルター付いてねぇのかな。ちょっと考えれば分かりそうなものだが……
「クラウン、見苦しいぞ。散るなら男らしく、華々しく散れ…」
マサは、スッとちゃぶ台に両肘をついて、どこかで見たことある司令官のようなポーズで言う。
ガイルは指をバキバキ鳴らしている。どんな骨してたらそんなに鳴るんだってくらい。
ズキッ! …治ってきたはずの肋骨が鈍く痛む。
「クラウン。レディ相手に言っていいことと悪いことがあるのよ…」
ガイルが、クラウンに じわり と近づく。
「まて!誤解だ!話せば分かる!……!そうだ、マ、マサも言っていたぞ」
「へぇ。何て言ってたの?」
「『オーガよりゴツい』とか『もはやサイクロプス』とか『BL級モンスター』とか言っていたんだ!ヒドいと思わないか?!」
…フッ!
マサは俯きながら、鼻で笑う。
「何がおかしい?!」
「クラウン、あなた…私のことそんな風に思ってたのね…ショックだわ」
「? …マサが言ってたんだぞ? 私は…言ってない」
ガイルはフルフルと首を振る。
「マサはね…優しいのよ。同居して気付いたけど、私をちゃんと女性として扱ってくれる。ご飯美味かったぞ、洗濯や掃除ありがとう、とか自然に感謝の言葉をくれる…」
「………」
「肌や髪をキレイだ、と褒めてくれた。そんな優しいマサが、そんなヒドいこと言うわけないでしょう?」
コイツ…… 心にもないことを…
こっそり自分の株を上げておくとは、卑怯な!
クラウンがマサを見やると、表情は見えないが笑いを堪えきれない、といった様子で肩が震えている。
だが、このままではマズイ!と打開策を練ろうとしたとき、
「クラウン、1ついいか?」
マサが口を開いた。
「何だ? そ、そうか!言い訳したいと言うのだな!聞いてやるから、さぁ、言ってみろ!」
「お前がさっき言ってた、オーガとかサイクロプス?って何だ?教えてくれ」
しまった!つい、ものの例え異世界の魔物の名前を出してしまった。マサが知るはずもないものを……。
袋小路に追い詰められてしまったクラウンは、力なく崩れ落ちる。
見上げれば、眼前には何故か筋肉がこれでもかとパンプアップしたガイルの姿…。
「覚悟はいいわね?」
クラウンの記憶はそこで途絶えている……。
マサは言った。
「罰ゲームはもうやらなくていいと思うぞ」
クラウン、再入院決定!
驚異の回復力により全治1週間で帰宅!