勇者と相撲大会 その4
暇なら読んでみて下さい。
( ^-^)_旦~
まさか異世界の、しかも土俵の上で再会を果たすなど誰が思うだろうか。
かつてのクラウンのパーティーメンバーの一員である戦士ガイルが目の前にいる。異世界の町内相撲大会の決勝の相手としてだ。
まだ頭の中は整理できていないが、クラウンが口を開いた。
「ガイル。君はガイルで間違いないんだよな?」
「久しぶりだな、クラウン。戦士ガイル、異世界に参上したぞ」
「いつ?どうやってこの世界に来たんだ?」
「今朝、魔導師に転移魔方陣を作ってもらった。そして、君を連れて戻るためにやってきた」
「なるほど。まさかこんなところで会うなんてな。私が大会に出てると知ってたのか?」
「いや。今日、たまたま最初に出逢ったのがマサでね。マサに聞いた」
私と同じ境遇か。アイツは異世界人ホイホイか?
「しかし、流石だね。強者揃いのブロックを勝ち上がってくるなんて。相手にとって不足はない」とほくそ笑むクラウン。
「ほぉ。私に勝つつもりか?」
「私は、昔とは違う!甘く見ると痛い目にあうぞ。特訓に特訓を重ねているからな。なぁ師匠!」
クラウンは振り返って社長を見た。…一升瓶を抱えて鼻ちょうちんで爆睡している。一体、何しに来たんだ。
「…まぁいい。すぐに分かる。ガイル、君に見せよう!相撲の天辺、ヨコヅナというやつを!話はその後でゆっくり聞こうか」
「面白い!こちらも、いつでもいいぞ」
二人の話が長すぎて、下でお茶を飲んでいた行司が面倒くさそうに土俵に上がる。
「ひがぁしぃ~ 蔵~雲~」
「にぃしぃ~ 我~井~留~」
今、異世界勇者パーティーの二人が激突する!
「見合って見合って~ ハッケヨーイ、 のこった!!」
激突!!と見せかけてクラウンが奇襲!
秘技、猫だまし!
これは社長との稽古で学んだ。線が細いクラウンはまず相手の動揺を誘うことが必要だ。
パン!といい音をさせたクラウンはガイルの目の前で合わせた諸手をそのまま素早くマワシにスライドさせ、前褌をしっかりと摑んだ。
そして寄り切ろうとするが、……びくともしない。大木、いや世界樹かコイツ。
「どうした、クラウン。今のはまさか私を押したのか?いや、まさかな」
「フッ!まだまだ!これからが本気だ!くらえぃ!」
クラウンは全身全霊でガイルを押す…のだが顔が真っ赤になろうと、額に青筋が浮き上がろうとほんの少しも動く気配がない。
「のこった!のこったぁ!」
「ざわ…… ざわ…… ざわ…」
「ねぇお母さん!どっちも動かないね。つまんない!」
「あの金髪さんは、噂通り見た目以外はお爺ちゃんなのかしら?」
「大きい人は、凄い筋肉ね!スポーツできる感じでカッコイイわ!」
「あのデカいのは儂の若い頃にそっくりじゃ!」
観客も段々退屈し始めていた。行司ももう掛け声も掛けない。
「クラウン……お前にはがっかりだ。特訓したというから、ちょっとは強くなってるのかと思ったのに…」
「くぉぉぉ~!の筋肉ダルマめ!なぜ動かないぃぃぃ!」
「もう諦めろ」
「私は…負けるわけにはいかない!私は、勝って皆の誤解を解かねばならないんだ!」
「…そんなにウメさんに告白したいのか?」
「? 何を言ってるんだ?」
「爺さんに見られたくないんだろう?しかも、子供たちを容赦なく投げ飛ばしてまで」
「それの何が悪い!私は…相手が誰であれ全力でを尽くす!子供でも同じだ」
「俺は、優しいお前を尊敬してたんだが」
「いい加減にしろ!何が言いたい!お前は…昔からそうだ」
「何だと?」
「戦闘以外に料理や家事もできて、器用ぶって女にモテたいんだろうが、そういうところが気に食わないんだ!」
ピシッ!と音が聞こえた気がした。
「ガイル」
マサが土俵下から声を掛けた。
「ひと思いにやってやれ」
ガイルはゆっくり頷いて、マワシを摑んでいた手をクラウンの頬に当てる。
「にゃにをしゅるきだ?」
ガイルはそのまま顔を近づけて、クラウンの唇を奪った。
「ん~!んん~!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉー!」」」」」
今日一番の歓声があがった。
唇を離したガイルは、手をクラウンの背中に廻す。そして、思いっ切り自分に引きつけた。いわゆるサバ折りである。
「ぐはぁぁぁっ!」
クラウンは泡を吹いて、土俵に膝から崩れ落ち、失神してしまった。
それを見ていたマサは、肋骨が痛んだ。
「最後に貴方を抱きしめられてよかった。サヨナラ……私の初恋……」
乙女なガイルの目から、涙が流れた。
会場からは、スタンディングオベーションが起こっていた。
★ ★ ★ ★
目が覚めたクラウンは病室にいた。
ガイルとの取組のあと、気を失って救急車で運ばれたのだ。お得意の回復力で怪我の方は大事に至らなかったのだが、なかなか意識が戻らないので念のため入院することになっていた。
「私は…負けたのか」
「目が覚めたか」
何故か隣のベッドにはマサがいた。
「なぜマサが?」
「…気にするな。ちょっと肋骨が何本かイカレちまったから、安静にしてるだけだ」
「? …!! ガイルはどこに行った?まさか、独りであっちに戻ったのか!」
「落ち着け。戻ってない。お前に怪我させて合わせる顔がないって落ち込んでる」
「そうか。あいつ…とんでもない強さだった…それにあのキスは何だったんだ…?」
「だろうな。アイツは怪物だ。怪物乙女だ」
「何だって?乙女?」
「アイツはお前のことが好きなんだってよ」
クラウンが目を丸くする。
「ガイルが……私を?……」
「そうだ。だから、追いかけてきたんじゃねぇか?」
「考えたこともなかった…」
「俺はすぐ分かったぞ。お前、鈍感野郎だな」
「うるさいな!普通、思わないだろ!ガイルは男なんだぞ。それに、お前ならまだしも私が好かれる要素はないだろう」
「俺なら?どういう意味だ?」
「お前は、髭、オッサン、ガチムチの三拍子揃ったハイスペック、いやハゲもだから四……ほげぇえー!!」
「こっちも痛ぇんだから、手間かけさすな」
また、マサの十八番ヤクザキックが顔面に炸裂して、クラウンが気絶したところでガイルが部屋に入ってきた。
「ごめんね、マサ」
もう隠すことはないと思ってるのか、ガイルは女言葉で話す。
「気にするな。俺がお前に嘘をついたのが……」
「マサは好みじゃないの!アタシは線が細いのが好きなの!」
「…そっちか。全っ然、問題ないぞ」
「あともう一つ謝らないと…」
「何だ?」
「アタシは、クラウンを連れ戻しにきたけど、すぐに戻れないの」
「どういうことだ?」
「転移魔方陣って作ってもらうの凄く高額で。私の蓄えじゃ片道分しかできなかったの…でも早くクラウンに逢いたくて、そう思ったら帰るときのことを考えずに来てしまったの」
「そうか…」
「それで、ほんとに図々しいんだけど、帰る手立てが見つかるまで、アタシもマサの家でお世話になれないかと思って。仕事の手伝いと家事くらいしかできないけど…」
「別にいいぞ。1人増えても大して変わらんし」
「いいの?」
「仕事と家事はやってもらうけどな。それに、
オマエこそ大丈夫か?コイツも一緒だぞ」
親指でノビているクラウンを指差す。
「大丈夫!アタシはもう吹っ切れた!これからは良い仲間としてやっていける!…はず…」
「ならいい」
こうして、同居人が増えたマサの部屋はさらに賑やかさを増す。
「コイツら… 本当にそのうち帰るんだろうな?」
少しの不安を抱えてマサは溜息をついた。
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(≧◇≦)