表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/25

勇者、異世界で歓迎される その1

 クラウンがこの世界に転移してきて数日が過ぎた。少しずつだがこの世界のルールを覚えて今はマサの部屋で暮らしている。

 マサの住居はかなり古いアパートだが、部屋数も多く気に入っていて長年住んでいる。


 トラック野郎であるマサの朝は早い。長距離もこなすベテランドライバーゆえに、朝から晩まで仕事をしている日も多い。今日も朝から配達しまくる予定だ。


「おい。起きろクラウン」


「うぅっ!。僧侶さん!やめてくれ!その杖で殴られたら流石の私でも死んでしまう」


「何の夢見てるんだ?コイツ」


「ちょっと触っただけじゃないか…そこまで怒らなくても…」


「夢でセクハラか。今の内に息の根を止めといた方が世のためか…」


「わかった!私の奴隷のマサを好きにしていいから!」


 ーズムッ!ー

 

「ほげぇ~!!」


「誰が奴隷だ、バカ勇者」


 思いっきり腹を踏んづけてやった。


「寝ている者に何てことするんだ!君のような乱暴者とは一緒にいられない!私は出て行く!」


「どうぞご自由に」


「……私は寛大だから、些細なことはすぐに忘れてしまうのさ。マサも気にするな」


「お前の頭は、沸いてんのか?まぁいいや。とりあえず仕事に行くからお前も来い」


 働かざる者食うべからず、ということでマサは毎日仕事を手伝わせていた。


「なっ!?今日も働くのか?!昨日も働いたんだぞ!」


「当たり前だ。仕事しなくてどうやって金を稼ぐんだ?」


「私は、王国から支援された討伐資金で旅をしていた。仕事などしていたこと無いのだ」


「知らん。早く着替えろ」


「仕事着もダサいし、なんで私が肉体労働なんか……」


「何か言ったか?」


「何でもない……」


 素早く着替えさせ、マイカーで出勤する。会社は15分ほど走ったところにある。小さな運送会社だ。


「おはようございます」


「おぉ。マサおはよう」


「今日の荷物はどこに?」


「倉庫に並べてあるから積んでいってくれ」


 マサが社長と会話をしている間に、クラウンは事務の女子社員に話し掛けている。


「レディ!今日の仕事終わりに私と食事でもどうだい?」


「アハハ…結構です」


「照れなくてもいいんだよ。きっと楽しい夜が待っているはずさ」


「いや、私結婚してるんで…」


「あぁ楽しみだ!どんな格好で行こうか?君の美しさに負けないような…」


 ーゴンッ!ー


 脳天にゲンコツを落としてやった。


「ほげぇー!」


「相手の話を聞け。嫌がってるだろうが」


「そんな訳あるか!私のようなイケメンに誘われて嫌がるもんか!」


「マサさん……この人、顔はいいけどオツムが残念ですね……心中お察しします」


「…ありがとう。嫌なことをされそうになったら容赦しないでくれ」


「わかりました」


 その後、人に迷惑を掛けた罰として地獄の荷物運びを一人でやらせた。


『コイツ、何だかんだやれって言われたことはちゃんとやるんだよな。勇者も王国とやらの社畜だったってことか』


 外回りの仕事を片付けた二人は、会社に戻ってきた。今日は荷物も多くて、クラウンも力石のノーガードみたいにして腕をブラブラさせている。


「今日の分は配達終わりました」


「おぉ。お疲れさん。ところでマサ、今日クラウンの歓迎会をやろうと思うんだがどうだ?」


「シャチョーさん!さすがは人の上に立つ者だ!どこぞのブラック上司とは訳が違う!」


「お前……まぁいいか。是非お願いします」


「よしっ!時間は19時から、いつものとこでな。じゃあ皆お疲れさん」


 皆、足早に帰宅していく。マサもクラウンを連れて帰って行った。


 自宅でシャワーを浴びて今日の汗を流したマサは、一通りの準備を終えたあとクラウンの格好を見て目を細めた。


「その格好で行くつもりか?」


「当然だ!今日は私のための宴席。であればキッチリした衣装で望まねばなるまい」


「でも、それはちょっとどうかと思うぞ」


「!! 何故だ!これは私の世界では正装だぞ。オーダーメイドの逸品だ」


「こっちの世界じゃ、そんな格好してるやつは頭のおかしな奴くらいだ」


 クラウンは、まるで物語に出てくる貴族みたいな豪華な衣装を着ていた。ジャラジャラと金銀の装飾品が飾られている。時代錯誤もいいところだ。


 ベルばらか。


 っていうかどこに隠し持ってたんだそれ。


「ハッキリ言おう。その格好では女にモテない」


「なにぃ!! …嘘だろう!!」


 クラウンは動揺している。


「本当だ。引かれる確率は200パーセントだ」


「私が、一人で女性の注目を集めるのが嫌で言っているのか?そうなら見苦しいぞマサ!」


「そう思うのは勝手だ。忠告はしたからな。後はどうなっても知らんぞ」


「それが本当だとしても、私には他の服がない……どうすればいいんだ……」


 マサは畳に両手と膝を突いて、うつむいているクラウンの肩に優しく手を置いて告げた。


「とりあえず俺の服を着ていけ。その服よりはマシだ」


 クラウンは顔を上げてマサに言う。


「君の服は加齢臭が凄いし、超絶ダサいから嫌だ」


 その後、マサにボコボコにされたクラウンは、泣きながら手渡された衣装に着替えて部屋を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ