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バイト先が異世界迷宮だったけどわりと楽しくやっています  作者: 夏野 夜子
本編

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繁忙期とお休み26

「こりゃまたヤバイもん持ってるね〜」


 またニンニクを食べにきたサフィさんに開口一番そう言われたので、私はついビクッとしてしまった。

 やっぱアレ骨なの。ヤバイ骨なの。


「その後ろに持ってるやつちょっと見せて」

「あ、お守りの方か」

「そっちの方。向こうの方はちょっと触れたくないし」

「え……?」


 さらっと不穏な発言をされてビビりつつ、サフィさんの手にボロボロ神社でもらったお守りを渡す。サフィさんは自分で手を出したくせに1回それを避け、うーわーと言いながら人差し指で紐を引っ掛けるようにして持ち上げた。


「なんだこれウケる。ユイミーちゃんかなりフツーなのによくこんなの貰えたね〜」

「シノちゃんが頼んでくれたみたいですよ」

「死の鳥異界の神関係もコネあんの?! くっそー、やっぱ翼持ってる奴らはいいよなー」


 翼のせいだろうか。フリーダムなシノちゃんを思うとそうじゃない気がした。

 まあでも、スジャークさんも日本あっち迷宮こっち両方にいたし、なんか異世界って飛んで移動できるのかもしれない。


「あの、それ3千円……小銀貨3枚くらい払ったんですけど、やっぱり安すぎですかね」

「何それ破格。俺も頼みたい。100個くらい」

「それはちょっとどうかわからないですけども……」


 サフィさんの目がマジだった。やっぱりお守りには何らかの効力があって、それは3千円くらいでホイっと手に入るレベルじゃないことがわかった。ありがたいやら恐れ多いやらなんか不安やらの気持ちがじわじわ湧いてくる。

 また今度ちょっとお金入れに行ったほうがよさそう。


「ちなみにこれ、シノちゃんは投げて使うって言ってたんですけど、そんなことしていいんですか」

「うーん、まあいいんじゃない? 効くと思うよ」


 指に引っ掛けたお守りをじろじろ見ながら言ったサフィさんは、それが最適解ではないと言いたげだった。


「でもやっぱりあんまり投げないほうがいい……とか? ちゃんと持ってるだけでも効果がありますよね?」

「いや、本気で滅したいなら、これ握って拳繰り出して敵のはらわたの中にブチ込んだほうが確実だよ」

「どういうこと?!」


 怖っ。何急にバトル漫画みたいなこと言い出すのこの人。怖っ!!


「どうって、こう……利き手じゃないほうがいいかな。一応ね」

「なんの一応?! てかそんなことしたらお守りじゃなくて石でも死ぬでしょ相手は!!」

「俺はブチ抜かれても腑の中に石置かれても死なないよ〜」

「そういえばそうだった!!」


 何かを握るフリをして、どーん、とパンチを繰り出す真似をしたサフィさんは、こう見えてただのひとではない。ニンニクを愛する不老不死ヴァンパイアだ。お腹をブチ抜かれているサフィさんを想像しそうになって慌てて頭を振った。


「これ強いから、ユイミーちゃんの腕力でもたぶん大丈夫」

「どの角度から検討しても大丈夫じゃないんですけど」

「心臓だと一瞬で消せると思うけど、ヒト型でも内臓の位置って結構違うしなー」

「そんなマジシャン感覚で消そうとしないでいただきたいんですけど」


 迷宮ダンジョンって、怖いところだなー。

 私はなんだかピュアな気持ちでそう思ってしまった。


「滅さないし、相手のハラワタに拳入れた時点でかなり重めの犯罪になりますし、あの、そういう方向はなしで。一切なしで」

「これ使えば確実なのにー。まあ、だったら投げるのがいいんじゃない?」


 異世界のお守り事情どうなってんだ。

 シノちゃんはああ見えて、現代日本に対応した、かなり穏便な使用方法を教えてくれてたんだな、と思った。フリーダムすぎて信用なかった。あとでお菓子あげとこう。


「てかユイミーちゃん、これの効力そんな使いたくないんだったら、やっぱ自分の拳で戦ったほうがいいんじゃない?」

「いや戦うとかそういうのじゃ」

「前から思ってたけど、戦闘手段が全然ないよね。拳の握り方はこうだよ。小指に力入れて握るの。わかる?」

「いやわからないです」

「ほらやってみて。パンチ一発打てたら逃げる隙もできるから。ユイミーちゃんだっていざというときに備えとくべき」


 サフィさんがキラキラした顔でプンプンしながら「弱すぎて心配」とか言いつつ基本のパンチについて教えてくれる。

 顔きらめいてるし魔道士だし筋肉もそんなになさそうなのに、サフィさんは一応武術の心得もあるようだ。

 あまりにも熱心に教えてくるので、私は中指を意識するとパンチの軌道が安定するなどというこれからの人生で一度も使いたくない知識を得てしまった。


「うんうん形になってきたね。ほんとはこのすごいの握って攻撃するといいんだけどなー」

「そろそろこの辺にしましょう。ニンニクの素揚げを作る時間がなくなってしまいます」

「じゃあごはんにしよう。素揚げにニンニク醤油かけて食べよー」


 サフィさんがニンニク大好き芸人でよかった。

 基本的なパンチの打ち方講座が中断され、私はほっと息をついた。料理のためにサフィさんに背を向けると、キッチンの入り口の隣にある椅子の上でテピちゃんたちがテピテピと騒いでいる。


 て、て、ぴっ。


 ピコピコ動いているちっちゃい手が、ジャブ、ジャブ、ストレートに見える。


「いやしないから。しないからね」


 つぶらな目をキリッとさせているテピちゃんたちをムニムニ揉みまくってから金平糖をあげた。キリッとしたテピちゃんたちはあっという間に目をウルウルキラキラさせて喜んでいた。


「ユイミーちゃん素揚げまだー?」

「まだに決まってるでしょ」






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