繁忙期とお休み23
「カ〜ワイイシノチャン〜飛〜ブトトッテモ美シイ〜デモオ茶目ダカラ〜愛サ〜レ系ダヨネ〜」
「シノちゃん、街中だから静かにして。ていうか飛んでないじゃん」
プェッと機嫌よく鳴くシノちゃんに、私はまたツッコミを入れてしまった。
ピンクの羽根が混ざったトルコブルーの翼を大きく広げているのはまあ綺麗だけども、そのシノちゃんの足は私の右肩にガッツリ掴まっているのである。地味に後頭部に翼が当たってるし。
ただでさえ派手なのに翼を広げるともっと目立つのでやめてほしい。説得の結果、私が小脇に抱えて歩くことにした。今日はトートバッグの気分じゃないそうだ。朝食に生クリームではなく小松菜をあげたことを根に持っているらしい。
「大丈夫? 来てない?」
「大丈夫ダヨ〜ネェ〜チョットカラオケシテク?」
「してかないよ。シノちゃんカラオケ行くの?」
「シノチャン鳥ダカラ歌ウマダヨネ〜トキドキポテチ食べ放題ノトコイクヨ〜」
「そういえばそっか、鳥だもんね。太っ腹なカラオケ屋だけどおやつは程々にね」
ポテチハ野菜ッ!!! とアウトな発言をするシノちゃんを撫でて黙らせつつ、スマホを見ながら道を歩く。
一度通ったことのある道だけど、あの時は焦っていたので記憶が曖昧だ。
「あ、ここのコンビニであの揚げてないポテチ買ったんだよ。また買っていく?」
「シノチャンハネ〜揚ゲタホウガスキッ揚ゲタヤツ買ッテ」
「じゃあまた今度ね」
「ユイミーちゃんノイケズッ!!」
「静かに静かに」
クワッと開けた黒いクチバシを指で挟んで揉むと、シノちゃんはプェッと大人しくなった。
鳥って、獣医さんに連れていったら血圧とか腹囲とか測ってもらえるんだろうか。シノちゃんのおねだりする食べ物が毎回ハイカロリー過ぎるので、一回健康診断してみてほしい。でも獣医さんだとシノちゃんが地球上にいない種類だとバレそう。
迷宮に獣医がいるのか、今度サフィさんに聞いてみよう。
「えっと……こっちだっけ? シノちゃんわかる?」
入り組んだ小道の途中で立ち止まって訊くと、シノちゃんが胸を膨らませた。
「シノチャンネ〜ワカンナイ!!」
「えっ、シノちゃんが神社行こうって言ったのに? 道わかんないの?」
「シノチャンハ鳥ダカラ飛ベバイイダヨネ〜」
「確かに。いや困るんだけど」
少し前、出かける支度を終えた私にシノちゃんが言ったのだ。
お守りを買いに行く、と。
どうやら、穴からワープしたあのボロボロ神社に行くつもりらしい。かなりボロボロだし社務所もなかったのでお守りなんか売ってなかったよ、と言ってもシノちゃんは行くと言ってきかなかった。相変わらずなマイペース鳥である。
どう考えてもお守りは売ってないけど、シノちゃんが一緒にいてくれるなら心強いので外に出ることについては嫌じゃない。それに、あの神社ならもしまた追いかけられても、謎の穴から部屋まで直行で帰れるかもしれない。
むしろ、あの穴が一度きりの現象なのか、それとも何度も使えるものなのかどうか気になっていたので、ボロボロ神社には私ももう一度行ってみたかった。
周囲を見回しながらどうやっても目立つシノちゃんと共に歩いてきたけれど、一度来ただけ、しかも前回は案内されただけという状態ではたどり着くのがちょっと難しいようだ。
案内してくれたのがスジャークさんだったので、派手な尾羽に意識がいって周囲の情報が頭に入ってこなかったというのもある。
そしてこの辺り、電波の関係なのか地図アプリがなんかズレている。なぜか現在位置がコンビニの近くになってるし。
「えー、こっちかな。いやこっちの路地に覚えが……どっちもないな」
「ネ〜ソロソロオヤツタイムスル?」
「まだ家出て30分も経ってないよ。それよりどっちだと思う? シノちゃん一回飛んで道確かめてきてくれない?」
「シノチャンハネ〜飛ブヨリ歩クホウガスキダカラ〜」
「鳥としてどうなの」
曲がり角を曲がるべきか、頼りにならないシノちゃんと悩んでいると、ちゅん! と鳴き声が聞こえてきた。
いつの間にか住宅の塀にスズメがとまっている。
チュンチュンと何度か鳴いたスズメが、そのまま塀の上をてんてんとジャンプするように移動する。端まで行くと、こちらを向くように動きを止めてまたちゅんと鳴いた。
「シノちゃん、あのスズメ、もしかして案内してくれてたりする?」
「シノチャンワカンナイ〜」
適当鳥をわしわし揉みつつ、私はスズメについていくことにした。
てんてんと歩いたり、パッと飛び立っては3メートルほど先で止まったり、スズメは付かず離れずの距離を保ったままで進んでいる。
ちょっと疑い半分でついていったけれど、それから間もなくして本当に神社に到着してしまった。
「神社のスズメなのかな。すごいね」
「シノチャンノホウガスゴイッ!」
「ハイハイ」
パタパタと飛んで暗い敷地の中に入っていったスズメは、お賽銭箱のところにとまってふくっと羽を膨らませた。かわいい。
「ほらシノちゃん、ここはお守りとか売ってないよ」
「売ッテルヨ〜頼ンドイタカラ〜」
「えっ、か、神様的な人に……?」
「ポチットイタヨ〜」
「ポチったの? 通販?」
ホラソコ〜とシノちゃんがクチバシで示したのは、スズメが座っているお賽銭箱の後ろ。
お社の格子になった扉の手前に、真新しい小さな紙袋がひとつ置かれていた。




