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バイト先が異世界迷宮だったけどわりと楽しくやっています  作者: 夏野 夜子
本編

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はじめてのお客様1

 翌日。アラームで起きたのは8時だった。

 結局死神はこなかったらしい。静かな春休みの朝だった。


 魔女おばちゃんからの返信によると「朝は遅くても大丈夫、逆に夜はお客さんが来やすいかもだからちょっと遅くまで出てもらえると嬉しいな〜。割増するから」ということだったので、迷宮バイトに行くのは10時からにすることにした。


 朝起きて朝ごはんを作りつつ、ついでに昼食も作る。それから出かける支度をして買い物に行くことにした。


 食事は迷宮ダンジョンのキッチンにあるものを食べてもいいし、買っていったものを食べてもいいらしい。買って持っていくなら、レシートを取っておいたらあとで振り込んでくれるそうだ。上限なしといわれると怪しげなバイトではないかと疑ってしまうけれど、よく考えたら疑うまでもなく怪しいバイトだった。


 スーパーに寄る前に掃除用具を買うことにする。これも経費で落としてくれるらしいので、使い勝手の良いものを探して買っていくことにした。

 まず百均に寄ってから、近くのビルに入っている大きめのドラッグストアも覗く。昨日の掃除でぞうきんが随分汚れてしまったのと、なんだかベトベトした汚れが落ちなかったものがあったので、その対策を中心にあれこれと。

 自分の家計からの出費じゃないと思うと、心置きなく選べて楽しかった。かさばったビニール袋を手にドラッグストアを出ると、ふと雑貨屋が目に入る。

 怪しげで埃をかぶったものではなく、新品が綺麗に陳列された棚が眩しい。店内をなんとなく歩いていて、ふと目に付いたものを買ってしまった。


「あ、もうこんな時間か」


 慌ててスーパーへと急いで食べ物を買う。

 調子に乗って買いすぎたせいで帰りは腕がもげそうだった。


「おはよーございまーす……」


 買ってきたものを手に、10時5分前にドアを開ける。誰もいないので特に返事はない。

 軽くカウンターの向こう側を覗いて誰もいないか確かめてから、キッチンで食べ物をしまった。

 大きな冷蔵庫は、両開きの扉を開けると3分の2くらい物が入っていた。ベーコンっぽいものもあれば、よくわからない球体もある。ラップに包まれているものや葉っぱに包まれているものには紙の札が付いていた。雑然としているけれど、冷蔵庫自体は綺麗だ。匂いも特にない。冷凍室も野菜室も大体同じ割合で物が入っていた。


 ちょっと迷ってから、作ってきた昼食が入ったタッパーを冷蔵庫に入れる。

 変な匂いもしていないから、入っているものも古すぎて腐ったりはしていないようだ。あとで賞味期限や原材料を調べておかないと。


 掃除道具を取り出して腕まくりをしていると、昨日と同じようにカウンターの向こうからレバー式のドアノブがかちゃかちゃいう音が聞こえてきた。ドアを開けると、テピテピと白いもののタワーが倒れるように入ってくる。ノブに手を掛けていた1匹は、また落ちそうになったので手でキャッチした。


「大丈夫? おはよう」

「テピ!」

「あ、テピー」

「テピー!!!」


 口々にテピテピと手を挙げて挨拶しているところを見ると、今日も元気らしい。

 そして今日も手伝いに来たらしい。


「テピ」

「あ、ちょっと待って」


 カウンターに載せてほしそうな白いもの集団を見て、私はカウンターに置いてあったビニール袋をあさった。


「はい、どうぞ」


 持ってきたのはお盆である。楕円形のそれは、一番長いところが48センチ。竹を貼り合わせた素材で持ってみると見た目よりも軽い。

 雑貨屋で見かけた時に、ピンポン球サイズの白いものたちが頑張れば全員乗れそうだなと思って買ってみたのだ。


「これに乗ったら一回で運べるし、ちょっとフチがついてるから落ちにくそうだし」


 柔らかくて軽いので、手で運んでいると落としそうで心配だったのだ。お盆だと一気に運べる上に、当然だけど普通のお盆としても使える。

 新品のお盆を床に置いてさあどうぞと言うと、白いものたちはしばらくじっと見てからテピ……! と何やら体を震わせていた。


「フチ超えられる?」

「テピ!」

「詰めて乗ってね」

「テピ……」


 乗りやすいようにお盆をちょっと傾けている私の手に、白いものが手を伸ばしてきゅっ……と抱きつくようにくっついた。それからお盆の上に乗っていく。順番にみんな抱きついてきているのは、お盆移動が嬉しいからだと思っていいだろうか。つぶらな目もキラキラしている。

 きゅっと抱きついてからお盆に乗る列がようやく待機ゼロになると、白いものたちはいい感じにお盆の上に乗った。真ん中の辺りはちょっと上に乗っているのがいるけれど、体が軽いからか乗られている方もあまり気にしていない。


「じゃあ持ち上げるね」


 テピーという合唱を聞きながらお盆をカウンターの上に乗せる。楽しかったのか、白いものの半分くらいはキラキラした目でお盆から降りようとしなかった。フチをそっと触っていたり、お盆の上で転がってみたりとエンジョイしている。

 今日も掃除だし、特に手伝って貰うこともないので自由にしててもらう。


「えーっと、脚立脚立」


 今日は残りの棚を掃除することからだ。昨日と同じ要領で埃のかぶった品物を取り出してカウンターに置き、空になった棚を掃除する。部屋にあった汚れた雑巾でまず拭いて、そこそこ綺麗になったら買ってきた雑巾で拭くことにした。

 マイクロファイバーの雑巾は、品物を拭くのにかなり役に立った。濡らして拭くのもいいけれど、乾拭きに使うとガラス瓶なんかがピカピカになる。白いものたちにもその輝きがわかるのか、集まってはピカピカになった瓶を見上げていた。埃まみれの品物を触った手で触れようとしている白いものがいたのでそっと隔離しておいた。


「この小さい石っぽいの、洗ってきたから拭いてくれるかな? ここに載せるから、この小さい雑巾で拭いてね」

「テピッ!!」


 白いものたちにそうお願いすると、3匹ほどの白いものがしゃきっと手を挙げて元気な返事をしてくれた。手伝いと自ら申告していただけあって、見ているだけよりは何かしていたいらしい。他の白いものたちも嬉しそうに集まってきた。

 新品の雑巾をお盆の上に広げ、洗ってきた石を並べる。3センチ四方くらいに切った雑巾を渡すと、1枚を2、3匹で持ちながらぎこちなく水滴を拭き始めた。相変わらずコロンと転がったりもしているけれど、お盆の上なら落ちる心配もない。きゅっきゅっと小さな雑巾で一生懸命石を磨いている白いものもいて、眺めていると非常に可愛くて癒された。


 白いものたちが手伝えそうなサイズと質感のものを先に見付けて洗い、お盆に乗せて作業してもらっている間に棚の掃除を片付けていく。ブラシや洗剤を導入したこともあって、お昼になる頃には棚の掃除をあらかたやっつけることができた。


「よし、おわり」

「テピー!!」

「手伝ってくれてありがとう」


 わーいわーいと喜んでいる白いものに声を掛けると、テピテピと照れたようにもじもじしていた。昨日よりも役立てたのが嬉しかったようだ。


「私はご飯食べるけど、白……テピちゃん? たちはどうする?」


 テピテピと動く白いもの集団、ごはんは何食べるのだろうか。

 というかごはん食べるのだろうか。






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― 新着の感想 ―
[良い点] テピさんたちが大変いいです。 癒されます。 私も側にいて欲しいです。 [一言] テピさん頑張って!
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