アシスタント・テピテピ4
見知らぬ場所で見知らぬバイトを始めたら、仕事を見てくれる先輩が小さな謎の生き物だった。
誰かに話しても信じてもらえないというか「あなた疲れてるのよ」的な反応を貰いそうな出来事だ。
小さな白いものたちは、その姿からすると巨大なマニュアル本によじ登っていたり、カウンターをてぴてぴ歩いていたり、こちらを見上げていたりと好きなように動いている。じっと見ていると「テピテピ」とマニュアルの手伝いという字をアピールされた。
なんだろう。自分たちはあくまで手伝いなのだから、まずは自分で考えて動いてみろ、というアレだろうか。
「えっと、じゃあとりあえず掃除をしようと思うんですけど、いいですかね」
「テピ!」
元気な返事をもらったので、私は彼らが来る前にやろうとしていたことを続けることにした。ホウキを持って床を軽く掃くと、白い埃が動くのが見える。足の裏を見ると、靴下がかなり汚れていた。
あとで靴持ってこよう。今はまず裸足で掃除することにする。
「あ、棚からやったほうがいいのかな……これ時間かかりそうだなー」
部屋の左右の壁を覆う棚は、上から下まで様々なものが置かれている。そしてそれら全部が埃をかぶっているのだ。品物と棚の両方を綺麗にしなくてはいけない。
これ、いつから掃除してないんだろうか。まじょばちゃんに文句言いたい。
棚に近寄り、青い砂みたいなのが入った埃まみれの瓶を眺めていると、カウンターの上が騒がしくなっていた。こちら側の端に白いもの集団が集まって何やらテピテピ言っている。
「なんですか?」
「テピー!」
全然わからないけれど、手伝おうとしてくれている、のかもしれない。私がいた棚の方に手を伸ばし、ついでに体も伸ばしていた。カウンターから落ちそう。
「手伝ってくれる、でいいですか?」
「テピ」
1匹あたりピンポン球サイズな白いものたちだけれど、集団を合わせればバケツに入れたら山盛りくらいにはなる。私ひとりでやるよりは捗るかもしれないなと思って、私は手に白いものを乗せて棚へと運ぶことにした。
「テピッ!」
「テピー」
「あの、慌てなくてもみんな運ぶので」
すし詰めに乗られると落としそうで怖い。そろそろ歩きながら埃まみれの棚に乗せ、次の集団を迎えに行った。
最初はちょっと、いやかなりびっくりしたけど、よく考えたら初心者バイトの様子を見に来てくれた人たち(?)である。こう見えて意外に仕事ができるのかもしれない。ついつい見た目からなんかかわいいだけなのかと偏見を持ってしまっていたけれど、ここは日本ではなく迷宮なのだ。この白いもの集団が敏腕バイトリーダーということだってあるのかもしれなかった。
白いものたちを運びながら、私はちょっと反省する。
「じゃあ、ここの棚はお願いしちゃってもいいですか? たぶんこれ雑巾なので、軽く埃取ってくれたら嬉しいです。バケツ見つかったら水汲んで来ますね」
「テピ!」
ホウキの近くで見つけた雑巾らしき布を棚に置き、代わりに重くて動かせなさそうなブロンズ製っぽい置物をカウンターに移動させた。空いた場所があれば、物を移動させながら掃除できるだろう。
白いもの集団に棚を任せて私は床を大まかに掃いておくことにした。やっぱり床がザリザリしているのは辛い。簡単にでも埃を取っておいて、棚掃除が終わったらまた改めて掃除しよう。
さかさかとホウキを動かして、部屋の端から順番に埃を掃いていく。時折ちりとりでゴミを回収しながら掃除をしていて気付いた。
この部屋には虫がいない。埃は溜まっているけれど、棚の隅や天井の角を見ても蜘蛛の巣はひとつもなかった。ちりとりに溜めた埃を見ても、虫の気配らしきものはひとつもない。
ありがたいけれど、ここまで埃をかぶっているのに1匹もいないのは不思議だ。これも迷宮だからなのだろうか。
「あ、バケツ発見」
棚の一番下に木製のバケツがあった。ホウキとちりとりを置いて水を汲みにいく。埃まみれの姿でキッチンのシンクを使うのは気が引けたけれど、あとでこっちも掃除しようと思い直した。
「あのー、バケツがあったんで雑巾洗うなら……」
部屋に戻って棚に目をやると、白い集団が黒い集団に変わっていた。




