ねらわれたまご6
じゃあまた明日ー、とサフィさんが帰ったあと、私は片付けをして早々に店仕舞いをした。
「じゃ、帰ろうか」
「テピ!!」
しゅぴっと手を挙げたテピちゃんたちは、つぶらで小さい目を輝かせて私を見上げている。その集団を卵ケースごと持ち上げて、私はよっこいしょと自室へ帰った。
古めかしいドアから出てリモコンで灯りをつければ、そこにあるのは生活感溢れるフツーの部屋だ。ベッド、ローテーブルにラグ、服を入れたクローゼット。自分で組み立てたカラーボックス。カーテンのかかった窓の向こうは当然真っ暗だ。
小さなテピちゃんたちは、私に運ばれながらあちこちをキョロキョロ見回していた。あちこちを指してテピテピと言い合っているのもいる。
まあ、迷宮在住のひとからしたら珍しいかもしれない。
「えーっと、どこに置こう……テピちゃん、散らかってるから、変な隙間とかに入らないでねー」
「テピー!」
とりあえず卵とテピちゃんをローテーブルに置くことにした。見回してちょっと動かし、間取りのほぼ真ん中あたりに位置するようにしておく。手を洗って戻ってくると、テピちゃんたちの数匹はローテーブルの上に降りてそろそろてぴてぴと周囲を見ながら歩いていた。
「……数えておくか」
「テピ?」
あちこち走り回られて、家具の隙間で動けなくなって……とかあったら怖い。
私はあらかじめテピちゃんたちの数を把握しておくことにした。
プラスチックのカゴを持ってきて、うろうろしているテピちゃんたちからカウントしつつ中に入れていく。卵の上に乗っかっているテピちゃんたちは、持ち上げるとやーんと言いたげにちっちゃい手を動かしていた。私がそばにいるので数える間くらいはじっとしていてほしい。
「49、50、51、うわ潰れてるけど大丈夫?」
「テピー」
「じゃあ、52……で、終わりか」
金銀金の卵に挟まれてかなり変形していたテピちゃんを持ち上げてムニムニ戻すと、あとは居なかった。ギラギラ輝いている卵も変わりない。持ち上げると若干生温い感じがしたけれど、これはテピちゃんの体温だろうか。
「保温しなくていいなら、もうちょっとシンプルな容れ物に入れてもいいかな」
「テピ」
我が家の百均タッパーがこれほど多用途に活躍するとは。
新しいの買い足そうかな、と思いながらキッチンの棚を探していると、テピー! と騒がしい声が聞こえてきた。
「そんなに騒がなくてもすぐ戻るよー……って卵ォ!!」
「テピー!!」
ローテーブルの上、ケースの外に置いた卵が、ゴロゴロ転がって落ちそうになっている。テピちゃんたちが慌てて追いかけていたけれど、止めるより小さいローテーブルのフチに卵が追い付くのが早そうだ。
「……っぶなかったー」
狭い部屋でよかった。思ったよりもうるさい音にならなくてよかった。
身を投げ出すように手を伸ばして卵を押さえた私は、そう思いながら溜息を吐いた。
「ハンカチの上に置いてたから大丈夫と思ったけど……テピちゃんたち、押して転がした?」
「テーピッ!! テピ、テピテピー!」
「全然わからん」
わらわらと卵に近付いてきたテピちゃんたちが一生懸命手を動かしてるけれど、伝わってこない。
このローテーブル、そんなに傾斜付いてるのだろうか。
ハンカチの上に載せ直して眺めてみると、しばらくして卵がゴロ、とちょっと動いた。
「……ん?」
金色のひとつが先にゴロッと動いて、しばらくしてから残りの金銀がゴロゴロと動き始める。それをキャッチして、私は再び並べ直した。今度はハンカチなしで、卵を1列に並べる。
「……なんかこの卵、ひとりでに動いてない?」
「テピー!!」
ほぼ同じ形の卵なので、傾斜がついているなら置いてすぐ同じタイミングで転がり始めるのではないだろうか。でもこのメタリック3卵は、置いてから数秒から十数秒くらいあけて転がり始める。
卵の向きを変えても、太い方を軸にゴロリと位置を変えてまた転がる。
キッチンの方に。
「……」
ローテーブルの反対側に座って同じことをしたら、今度は反対側に転がり始めた。
もしかして、この卵、私の方に転がっているのでは。
「……テピちゃん、卵って自力で付いてくるのが普通?」
「テピ?」
フローリングに置くと、じわじわと転がって近付いてこようとする。厚みのあるラグに引っかかって動きを止めたけれど、卵同士が擦れるごりごりした音がたまに聞こえるので、動こうとしているようだ。
この卵、白とか茶色とかじゃなくてよかった。
一般的な色をしていたら、ニワトリの卵に苦手意識を持ってしまっていたかもしれない。
「まあ、迷宮の卵だもんね……変なところあるかもね……」
「テピー」
私は卵を追っていこうとするテピちゃんたちを押しとどめ、メタリックなそれを再びローテーブルの上に戻した。
卵は平坦な場所だと転がって移動するけれど、障害物があるとそれを乗り越える力はないようだ。卵ケースに入っているときは数時間異常がなかったのだからそれは確かだろう。
「最初にカウンターから落ちたのも自力で転がったからなのかな。テピちゃんたちのせいだと思ってごめんね」
「テピー」
卵をタッパーに入れつつテピちゃんたちをムニムニすると、テピちゃんたちは気持ちよさそうに身を任せていた。
一般的な鳥の卵は、抱卵している親鳥が定期的に転がして温める方向を変えるらしい。
自力で転がる卵もそういう機能があるかもしれないので、卵は深めのタッパーに入れ、その中で転がりやすいように中には二つ折りにしたティッシュくらいしか敷かないことにした。
ローテーブルにタッパーを置くと、乗っかったテピちゃんたちが若干動く。タッパーを反対に向けると、またテピちゃんたちの盛り上がっている位置が移動するように動いた。
「テピちゃんが乗ってても転がる障害にはならないんだね……」
卵に力で負けるテピちゃんたちの軽さはどうなのだろうと思うけれど、テピちゃんたちは気にしていなさそうなのでよしとした。




