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バイト先が異世界迷宮だったけどわりと楽しくやっています  作者: 夏野 夜子
本編

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ねらわれたまご4

『新着:ちょっとくらいなら連れてきて大丈夫よ〜。托卵も2週間くらいだから頑張って!』


「……いや、卵の育て方は? エサは?」


 食後のデザートに市販のマンゴープリン食べ比べをしていた最中、まじょばちゃんから届いたのは軽ーい返事だった。どこで見つけてきたんだと訊きたいくらい煽ってくる表情のスタンプ付きだ。

 色々質問を書きまくった前のメッセージへの返信が返ってこないまま送った「迷宮ダンジョンにいるちっちゃいイキモノをうちに連れて帰って手伝ってもらってもいい?」に対する返事である。


「ちょっとくらいって、人数? 行動範囲? 時間?」

「テピー?」

「あと鳥の羽根どうすればいいの?」

「テピテピ」

「あ、俺コレが一番好き。美味しい。ちっちゃいのも食べる?」

「……テーピ!」


 適当すぎるそれに素早く返信していると、サフィさんがスプーンを差し出してテピちゃんたちに嫌がられていた。警戒しているらしく、つぶらな目が心なしかキリッとなっている、ような気がする。サフィさんは気にせずマンゴープリンを頬張った。


「えーっと、それはグメルミクの出してる濃厚とろけるマンゴープリンですね。私はらたみが好みでした」

「テピ、テピー」

「テピちゃんたちも食べるの?」

「テピー!」

「えー、俺があげたら嫌がったのに」

「スプーン使い回しが苦手だったのかもですね」

「そんなことある?」


 細かく分けられないので、小皿の外周に沿ってマンゴープリンをちょっとずつ並べると、卵に乗っかっていたテピちゃんたちが少しずつ降りてきて食べ始めた。ちっちゃな手で掬って食べてはてぴてぴ歩き回っていた。

 相変わらず口の位置が謎だけど、美味しく食べてくれているようだ。今日は金平糖も食べてたけど、明日は薄いオレンジ色になるのだろうか。


「濃くて美味いのはこれ。あっさりしてて果実っぽいのはこれかなー。こっちはあんまり好きじゃなかった」

「助かりました。参考にしますね」

「何の参考になるのかよくわからないけど、ごちそうさまー」


 いくつかのマンゴープリンを合わせて載せたお皿は、綺麗に空になった。

 私だけの試食だと魔王さんのお口に合いそうなものかイマイチよくわからなかったので、サフィさんがいてくれて助かった。お礼にニンニク味噌漬けの残りを所望されたけど。


 夕食代を貰い、そろそろ帰ろうかと支度していたサフィさんがふと顔を上げる。


「何か来た」

「え? お客さんですか?」


 私はカウンターを拭いていた手を止める。

 ぽつんと呟いたサフィさんがドアの方を振り向こうとした、その横顔の青い目がなんだかいつもと違った青さだったように見えた。


 サフィさんが見つめる先にあるドアが、しばらくしてからギシ、ギシ、と音を立てる。ドアを開けようと押している音にも聞こえるけれど、それにしては、ドア全体に体重を掛けているような、不思議な軋み方だった。

 布巾を置いて、返事をしながらドアを開けに行こうとした私にサフィさんが振り返る。口を開けかけた私を制するように片手を上げて、じっと私を見つめ、それから再びドアの方へと体を向けた。


 なんか今、サフィさんの目が、青が濃くてヘビみたいになってた気がする。


 サフィさんの目の色って、元々どんな色だっけ。そう考えつつも、なんとなく私は声を出さず動くこともできないで立っていた。


 ギシ、という軋みの間に、カチ、カチャッ、とドアノブを回そうとしている音が聞こえる。

 このお店は立地上自力でドアノブを回せないタイプのお客様も多いので、また動物っぽいひとかなーと思いながら待っていたら、不意にドアが開いた。


「……!!」


 ズル、と入ってきた姿を見て連想したのは、石油タンカーの流出事故で石油を被ってしまった生き物の写真だった。そんなドロドロして暗い色を纏った奇妙に細長い手が、ズッと音を立てて伸びて、途中で曲がって床に付く。べちゃりと音がした。

 何か不快な臭いが辺りに立ち込める。

 魔王さんや死神さんとはまた違った、異様な雰囲気がドアの間からお店に入ってきている気がした。


 それから姿を現したのは、よくわからない塊だった。

 色んな手足がいっぱいある。ついでに目玉もある。体がドロドロしている。石油みたいなのがでろーっと流れるように入ってくる。

 ギロギロと見回している目玉と目が合った気がして、私はさすがにゾッとしてしまった。

 ドロドロの塊にグパァと開いた切れ目から、唸り声のようなものが聞こえた。


「人が店にいるのに無理矢理入ってきて言うことがそれ? 気分悪いから帰ってくれない?」


 冷たく、鋭く、それでいて柔らかいような声が唸り声に重なる。

 少し動きを止めたドロドロが、長い手を振り上げた瞬間、サフィさんが杖でコンと店の床を突いた。


 映像が逆再生の早送りをされているかのように、みるみるうちにドロドロの手が下げられ、ずりずりとその姿が後ずさっていき、ドアがバタンとしまった。



 姿の見えなくなったドアの向こうの存在へ、馬鹿にするように投げかけたサフィさんの言葉に、私はハッと我に返った。


「こ……、こっわ〜!! なんか怖っっ!!」

「えー、今〜? ユイミーちゃん反応遅くない?」

「いやなんか……何なんですか今のお客様?」

「客じゃないよ」


 サフィさんがいつものキラキラを振りまきながらにっこり言った。


「金払う気のない奴は客じゃないでしょ?」

「それはそうですけど」


 死神さんがヤバい死神だと誤解してた頃よりももっとイヤな感じがした。まだ臭いが漂っている感じがして、私はキッチンのドアを開けて換気扇を付ける。


「お金、払う気のないひとだったんですか?」

「え? 聞いてなかったの?」

「いや全然聞き取れませんでしたけど、むしろあの人何か喋ってたんですか」


 もーユイミーちゃんうっかりしてるーと唇を尖らせたサフィさんは、鮮やかな澄んだ目を細めて笑いながら言った。


「アレは『卵を寄越せ』って言ってたんだよ」






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