ねらわれたまご3
「で、ユイミーちゃん。俺のごはんは?」
「アッ!!」
忘れてた。
「えーっと、お腹空いてますよね。簡単なのでいいですか?」
「ニンニク揚げてくれるなら他はなんでもいいよ!」
揚げ物自体面倒くさいことこの上ないけれど、托卵で準備をすっかり忘れていたので文句は言えない。
カウンターの上に持ってきた卵とテピちゃんを持って、私は再びキッチンに戻った。冷蔵庫を眺めて、先に出せそうなものを出しておく。
「はいどうぞ、ニンニクの味噌漬けです」
「何これ美味しそう! ユイミーちゃんが考えたの?」
「買ってきたやつです」
前に出したお漬物と一緒に味噌漬けを出すと、サフィさんが早速食べ始めていた。一旦戻って、玉ねぎと薄切りしておいた牛肉を取り出す。
「サフィさん、一瞬ちょっと戻りますね」
そう声を掛けてから、私は自分の部屋に戻った。冷凍庫からうどんを2玉と刻んで冷凍しておいたネギを取り出して戻ってきた。
お店に戻ってくると、テピーテピーと呼んでいる声がする。キッチンに入ると静かになった。テピちゃんたちの方が鳥の雛っぽい。もしくはアラームだろうか。
ニンニクの皮を剥いて揚げる合間に、玉ねぎと牛肉を切る。濃い目の味で煮込みながら揚げニンニクをサフィさんに出して、テピちゃんたちには金平糖を配る。うどんを作って煮込んだ玉ねぎと牛肉を載せてネギを散らせば完成だ。
「おまたせしましたー」
「ユイミーちゃんこの塩美味しいんだけど! これも買ってきたの?」
「それは私が適当に作ったカレー塩です」
既に揚げニンニクを食べ終わっていたサフィさんが、爪楊枝でカレー塩をつついてそのまま舐めていた。しょっぱそう。
あとで分けてと言われたので頷きながら、適当肉うどんを一緒に食べ始める。
「すみません、急いでて生姜入れ忘れました」
「美味しいから大丈夫だよー。ユイミーちゃん、薄く切った肉の料理上手いよね」
「ありがとうございます」
初めて見る異世界の料理、というフィルターが掛かっているので、サフィさんは手抜きメニューでも優しくてありがたい。あとニンニクがあれば大体文句がないのもいい。
つるつるとうどんを啜ると、お腹が空いてた実感が湧いた。いきなり卵を任されたプレッシャーを感じていたんだな、と思って、それからキッチンに置きっぱなしだった卵とテピちゃんたちもカウンターに持ってきた。半分くらい減った金平糖を抱えながら、テピちゃんたちは相変わらず卵の上に集まっている。私もテピちゃんたちもサフィさんも、みんなもくもくと食事をした。
「ユイミーちゃん、これおかわりある?」
「ありますよ。お肉だけでいいですか? 麺もありますけど」
「どっちも!」
「じゃあうどん取ってきておきますね。すぐできるんで食べ終わったら作ります」
もう一度自分の部屋に戻って、冷凍うどんを手に取る。
料理がめんどくさいとき用のうどんがあって助かった。私だけだと卵を入れて完成だけど、サフィさんからもらった牛肉を小分け保存していたので肉うどんも簡単にできた。
冷凍食品のありがたみを噛みしめながら戻ると、サフィさんがじっとこっちを見ていた。
「ねえ、そっちのドアの向こうユイミーちゃんの部屋だよね」
「そうですよ」
「入ってみていい?」
「さすがにダメです」
興味本位な顔で言われても、さすがにそれは肯けない。
「エー、ちょっとくらい見せてよー」
「私一人暮らしなので、男性を入れるのはちょっと」
「それは反論できない理由だね……覗くだけもダメ?」
「散らかってるのでダメです」
「こいつらはいいのに?」
こいつら、と指されたのはテピちゃんたちだ。サフィさんに人差し指でムニムニ押されて、テピーッと嫌がりながらも卵の上から動かないよう頑張っている。ブルブル震えているので、サフィさんの指はやんわり遠ざけておいた。
「テピちゃんたちですか?」
「そう。夜は自分の部屋で寝てるんでしょ? 卵持っていくならこいつらも一緒に連れて行くのかと思ったけど、違うの?」
「部屋に……」
そうだ。卵を私と近い距離に置いておく必要があるなら、夜は持って帰らないといけない。トイレやお風呂の中にまで卵を持って歩くのはさすがに面倒だしうっかり割ったりしそうだけど、部屋に置いて何かをするならテピちゃんたちに手伝ってもらった方がいいだろう。
しかし、迷宮のイキモノを持って帰ってもいいものか。
悩んでいると、圧を感じた。
小さなテピちゃんたちのつぶらな目から、キラキラと期待の圧が私の方に投げかけられている。キラキラウルウルした目が、じーっと私を見上げている。
どうやらテピちゃんたちはその気のようだ。
「……勝手にあちこち歩き回らないでいてくれるひとー」
「テピー!」
「変なことせずに大人しく卵を見守ってくれるひとー」
「テピー!!」
「本当に外とか行かないように気を付けてね。他の誰かに見られたら捕まって研究所に持っていかれたりしそうだから」
「テーピー!!」
「じゃあ、夜はうちに泊まってくれる? よろしくねテピちゃん」
「テピーッ!!!」
元気なお返事だ。
カウンターを挟んだ向こう側で「はーい」と手を上げているキラキラしたヴァンパイアはスルーした。




