たくらんだとり15
バイトという立場から考えると、お客様を追い払うということはしてはいけない。
けど、お金を払わないお客様はお客様といえるのだろうか。
ましてや、無駄に高価なものを押し付けて帰ったり、謎の技を使ってから高価なものを押し付けて帰ったりしている客である。
「……」
お帰りくださいって言いたい。
言いたいけれど、見方によっては実害というほどの被害でもない現状でそれを言うのはどうなんだろうか。
でもドヤ顔で胸を膨らませている財宝鳥のペアを見ていると無性に言いたい。
とりあえずカウンターを片付け手を洗ってから戻ると、カウンターの天板の上にメタリックな2羽が乗っていた。立ってじっと私を見つめている。
「……いらっしゃいませ。お買い物ですか?」
一応声を掛けてみた。価格表を並べたけれど、これまで通り金の鳥も銀の鳥もそれに見向きもしない。ただ何か言いたげにじっと私を見上げている。
「あのー、3種類集まっちゃったんですけど、羽根。何が起こるのか教えてもらってもいいですか?」
棚を指しながら訊いてみるけれど、鳥ペアはホロローと鳴いただけだった。
わかってたけれども残念な気持ちになる。せめて死の鳥さんだったら会話ができたのに。コミュニケーションが成立するかは置いておいて。
「不吉なこととか嫌なことだったら困るので羽根回収していってほしいなーって」
ホロロー。
「というかそもそもあんなに大量にいらないので、全部持って帰るのが無理なら1枚だけに減らしてほしいというか」
ホロロローウ。
「スジャークさんのはなんかすごい効果あるみたいですけど、あなた方のも何か機能付いてるんですか?」
ホロッ。
通じない。一切合切通じない。
ただ、いつもは店内を好きに歩き回ったり棚の上で居眠りしたりしている財宝鳥たちが、今日に限ってカウンターの上でジッとしているのはやっぱり何かあるのではないだろうか。
まさか財宝鳥が何かやらかすつもりなのでは。
じっと見上げる姿を警戒しながらしばらく見ていたけれど、お互いに見つめあったまま30分が過ぎたあたりで私は動くことにした。テピちゃんたちがビワの果汁を付けたまま隠れているのである。このままボーッと立って睨み合っていても何も起きそうにないので、私はとりあえず警戒はしつつ、他のことに取り組むことにした。
「テピちゃんたち、水浴びしようか」
「テピ……」
棚の一番下の段にあるカーテンをめくり、固まってプルプルしている集団を敷いていたトレーごと持ち上げてキッチンへ向かう。お互いに身を寄せていたり、トレーを持つ私の手にきゅっと掴まったりしているテピちゃんたちは、キッチンに入って鳥たちの視線が遮られたところでようやくソロソロてぴてぴと動き始めた。
水を溜めたシリコンの洗い桶に、テピちゃんたちがぺいっと跳んでぽちゃぽちゃ落ちる。水をかけつつムニムニ揉んでから乾いた布巾に載せると、テピちゃんたちはその上でコロコロと転がった。
いつもより念入りにゆっくり時間をかけて洗ったのは、カウンターにいる2羽が帰っててくれたらいいなという気持ちからだったけれども、戻ってみると少しも変わらない位置にいた。現状維持のガッカリとホッとした気分を持て余しつつ、お店の掃除をしたり、商品のお手入れをしてみたりしたけれど、それもじーっと見つめるだけだった。
何か言いたいことでもあるのだろうか。
もしそうだとしても、ホロホロと鳴く声だけでは私は永遠に理解できない。せめて通訳に水色ピンクなオウムを呼んでほしい。
あれこれ動き回ってみたけれど、そもそもこのお店はやることが少ない。掃除もすぐに終わり、動き回っていたので足がちょっと疲れた。
カウンターのところに置いてあるイスを、キッチンに運んで座るというのは流石に嫌味っぽ過ぎる気がしてやりにくい。覚悟を決めて、私は鳥たちのいるカウンターのところへ座ることにした。
サフィさんがくれたイスは、カウンターに合わせて座れるスツールタイプだ。背もたれはないけれど、座面の木材が良い具合に曲面を描いているので後ろに凭れたくなることもなく姿勢良く座れる。足を引っ掛けるところもちょうど良く、長い間座っていても疲れないので、ここのところは最初に置いてあったイスよりサフィさんにもらった方をつかうことが多かった。密かにお気に入りなので部屋にほしいけど、うちはローテーブルにラグ直座りでベッドのフチを背凭れ代わりにしているごく一般的な女子大生の一人暮らしなので、スツールとかあると浮く気もする。
魔術で出していたイスだしやっぱり買うと高いだろうか、と考えていると、カウンターに軽く載せていた手になにかフワッとしたものが触れた。
鳥胸である。
黒縁の鱗のような模様をした金の鳥胸が、フカッと私の手の甲に触れていた。
「……」
わずかに開いた小さいクチバシからホロローと音が漏れる。
「……」
反対側の手にもフカッとした鳥胸が触れた。こっちは銀色である。
ギラギラとメタリックな見た目とは反対に、ふっくらした曲線を描く財宝鳥の羽根は非常に柔らかく気持ちいい感触をしていた。ふわふわで毛の流れに沿ってすべすべしていて、そしてわずかに温かい。
撫でたいなとちょっと思ったけれど、しかし、手を移動させる。
テクテクと鳥の足が動いて、またフカッと私の手に触れる。移動させる。今度は手首のところに遠慮なく乗っかってきた。
左右に鳥を乗せた状態で戸惑う。カウンターに移動させようとしても、しっかりと手首に掴まって降りる気はなさそうだった。
「いやいや……あの、降りてほしいんですけど」
私がそう言うと、鳥たちは確かにお互いに目配せをした。
そして同時に、ホロローウ、と鳴く。ホロロローウ、ホロローと声が響く。
あ、これヤバいやつでは。
デジャヴを感じて慌てて逃げ出そうとするけれど、足が立ち上がらない。手も振り払えない。ホロローホロローという声がサラウンドで聞こえてくる状態で、やめろと言いたいのに口を開いて出てきたのはアクビだった。大きく息を吸って、その拍子に目を細めてしまい、そのまままぶたの重さに耐えられなくなる。
こいつら、また人に謎の技をかけようとしている。
そう思ってもどうにも抗うことができず、私は眠りについた。
どれくらい経っただろうか。
テピテピテピテピと小さな囁きのような、動いているような音が聞こえる。
目を開けると、世界が横向きだった。カウンターに乗せた両腕に顔を乗せる形で、うつ伏せになって寝ていたようだ。かなり熟睡した後のようなスッキリ感と、体の軋みを感じる。
「テピー!」
「……テピちゃんたち、あの鳥は?」
「テピテピー!!」
体を起こすと、何匹かのテピちゃんがコロコロとカウンターに転がった。見ると私の腕の上や、腕で囲った空間のあたりにテピちゃんたちがぎゅっと集まっていた。
私は鳥に眠らされていたというのに、テピちゃんたちは一緒に昼寝としけこんでいたらしい。
財宝鳥の姿はない。今回はありがたいことに、無駄に散らばるメタリックな羽根もなかった。
結局何がしたかったんだ、と思いながら体の凝りをほぐそうと腕を上げると、積み重なっていたテピちゃんたちが崩れた。
その体の間に何かキラッと光ったものがある。
「……」
テピちゃんたちを持ち上げて横へのけていくと、ギラギラにメタリックな色をしたものが3つ現れた。
金色、銀色、そして金色。卵形である。
というか、卵である。どう見ても。
「……托卵すんなー!!!」
遠くでホロローと鳴く声が聞こえた気がした。




