たくらんだとり12
美味しい果物と優しい魔王さんで癒されたのも束の間、その日はかつてないほどお店が賑わった。
鳥で。
上等なクルミ(赤)を袋入りで買っていく緑色の鳥、大勢で詰めかけて穀物を共同購入し、食べた殻を店内に散らかして去っていったスズメサイズの赤い鳥。カラスの尻尾を少し長くして体に白色の部分を入れたような鳥は、鳥肉のレンジ調理品をムシャァと食べて帰った。他にも金貨相当の怪しげな仮面を足で掴んで帰っていく猛禽類や、出しっぱなしにしていた深皿の水だけグビグビ飲んで帰ったふわっふわなニワトリっぽい鳥に、さらにそこで水浴びをして床をびちゃびちゃにしたのち、小銀貨を置いて帰った中型インコほか色々。
掃除やら片付けやらでお昼ごはんタイムもろくに取れないほどだったし、コンコンと軽く硬いノックの音が聞こえるたびに身構えてしまった。
あと一種類、死の鳥と呼ばれる鳥の羽根が手元に集まると何かが起きる、らしい。
入ってくる鳥がそれっぽい種類ではないかと戦々恐々としつつ接客をこなすのは、前のバイトでお客の行列が途切れない時間帯よりもずっと大変だった。
テピちゃんたちは基本動き回っている私の周囲でアワアワテピテピしているだけだったけれど、隙間に入った穀物の殻を回収したり、拭き忘れた水滴を見つけたりと活躍も見せてくれた。来客に緊張している私をテピテピと労ってくれる存在がいなかったら、もっと大変な1日になっていただろう。
「ありがとうございましたー」
オオグマのモモ肉燻製を口の中に入れた大きなペリカンがのしのしと出ていくのを見送り、扉を閉めてから溜息を吐く。
今のお客様も羽根を抜かずに帰っていったという安堵と、それから疲れに混ざって感じる空腹。カウンターの内側に戻って椅子に座ると、足の裏がジンジンした。
「テピちゃんたち、晩ご飯にしようか」
「テピー!」
今日はいつになく動き回ったので、テピちゃんたちもお腹が空いたようだ。ヨッコラセと立ち上がり、冷凍庫からごはんを取り出してレンジに放り込む。レンジが鳴ったらホカホカになったごはんの代わりに冷凍ブロッコリーを入れ、ごはんの上に卵を割った。醤油と七味を振り、ブロッコリーにちょっとポン酢をかける。
「テーピッ」
「あ、ちくわの賞味期限が切れそうだそういえば」
「テピ?」
テピちゃんたちがウロウロするなかを通って部屋に戻り、うちの冷蔵庫から残った竹輪を持ってきてブロッコリーの横に置いた。
「よし完璧」
「テピ」
完璧に手抜きの夕食が完成した。
下準備する時間もなかったし、サフィさんもいないし、いつお客さんが来るかわからないわけだし、これくらい手抜きでもバチはあたらないはずだ。テピちゃんたちには卵がかかっていない白ごはんとブロッコリーの欠片をあげて、私たちは黙々と食べ始めた。
白いムニムニした生き物が、ちっちゃい両手でごはん粒だのブロッコリーを抱えてもくもくと食べているところを見ていると癒される。口がどこでどう食べているのかわからないけど。
ちくわを齧りながら存分にテピちゃんたちを眺めると、ちょっと気力が回復した気がした。
「よし、あとちょっと頑張るかー」
「テピー」
「もうお客さん来ないかもだしね」
「テピー!」
「テピちゃんたちも頑張ったし、金平糖食べる?」
「テピー!!!」
元気に返事された。小さい金平糖、よほど気に入っているらしい。
ビニールの袋を開けて一粒ずつ、パステルカラーの金平糖を渡していく。受け取ったテピちゃんは嬉しそうに私に抱きついてから、小さなトゲトゲをうやうやしく掲げ持っていた。
「みんな取った?」
「テピー!!」
「じゃあかんぱーい。テピー」
「テピーッ!!」
残った中から黄色い金平糖を摘んで言うと、熱い返事が返ってきた。
金平糖は食後のデザートとしては小さい一粒だけれど、小さく齧るとしっかり甘かった。
コンコン。
わいわい楽しんでいた私とテピちゃんは、その音に同時に動きを止める。
コンコンコンコンコンガチャリ。
ノックをする音が聞こえていたかと思うと、レバー式のドアノブが動いた。ギィと軋みながら開くドアの隙間から、とても明るい色が見える。
曲がった大きなクチバシは黒。顔の羽根が生えていない部分は白。水色の体に濃いピンクが混ざった、大きなオウムっぽい鳥が、ドアノブに乗って中へと入ってきた。
片足でしっかりとドアノブを掴み、片方の足はゆっくりと持ち上げられた。黒っぽい足の指が、首元のあたりでモシャモシャと動く。
「コンニチワ〜」
変に甲高い声が聞こえた。
「キタヨ〜」
テピちゃんたちと顔を見合わせる。なんだか嫌な予感がした。




