信仰のまかない3
「マァ〜〜〜タシノチャンニ黙ッテ遊ビ歩コウトシタワネエェ〜〜〜!!」
「うわ」
バイトを終えて部屋に戻ると、シノちゃんがキエエ〜と奇声を上げながら襲いかかってきた。抱っこしていたテピちゃんたちがテピテピーと脱出してぽてぽてとラグに落ちる。
「シノチャントノ痛風鍋デートハ嫌ガルクセニ巨大蚊ト会ウナンテオトーサンハ絶対ユルサナインダカラネッ!!」
「シノちゃんはお父さんじゃないし痛風鍋はなんか痛そうだから」
「シノチャンハブニシタラ鼻カラアン肝ノ刑〜〜〜!!」
「それもなんか痛そう」
荒ぶるシノちゃんを見慣れているヒナたちは、黙ってケージの中に戻っていく。荷物をテーブルに置いてから、私は頭の上に張り付いてなんか白鳥のバレエ衣装の頭につけるやつみたいになってるシノちゃんを剥がして抱っこした。
「えっていうかシノちゃんは行かないつもりなの? 一緒に行ってくれると思って返事しちゃったんだけど」
「…………モ〜ユイミーちゃんハシノチャンラブダカラネー!!! シノチャンシカ勝タンカラネ!!!」
「夜だから静かにね」
急に翼をたたんで大人しくなったシノちゃんは、プェッと鳴いて頬のあたりを膨らませた。
「シカタナイカラネ〜肉巻キオニギリ10個デ一緒ニ行ッテアゲルノヨサ〜」
「よろしくね。シノちゃんいると変なの近寄ってこないし」
「シノチャンヲ蚊取線香扱イシナイデッ!!」
普通は足を踏み入れると死ぬという死の森に棲み、体全体が致死毒なシノちゃんは、物騒な迷宮内を進むのに必要不可欠な存在だ。トルコブルーやピンク色をしているトロピカルな羽根が超高価なので狙われることもあるけれど、シノちゃんはそんな奴らを追い払った上にさらに追いかけて地獄を見せるほどガッツに溢れているので支障はない。
実力は最強クラスでもどこかのんびりしているサフィさんよりは、荒ぶるけどツッコミが素早いシノちゃんの方がやっぱり頼りになる。一般人の私が迷宮に行くなら迷わず選びたいパートナーだ。
それに、ちょっと気になっていたことがある。
「シノちゃんさ、最近太った? ちょっと重くなった感じするし運動も兼ねて迷宮で散歩しよ」
「…………ウーンムニャムニャ……明日ノ朝ハフレンチトーストガイイナァ……」
「あからさまに寝たふりしないで」
目を閉じて体を預けたシノちゃんが揺すっても逆さにしても動かなくなったので、私はベッドに放置しておくことにした。
静かになったのを見計らって、ペン立ての中からスライムが出てきた。
「迷宮! ツレテケ!」
「だめ」
「ツレテケ! バカ! カエル! ツヨイ! オマエザコ!」
パールピンクの小さいスライムが、ウニョウニョと動きながらキーキー騒ぐ。
今は無害なスライムだけど、このスライムは元は私の命を狙ったこともある。ダンジョンに戻してまた悪いスライムに戻ったら面倒だ。
私は冷蔵庫の野菜室を開けてから、スライムに話しかける。
「留守番するならこのパプリカ丸ごとあげるけどどうする?」
「……パプリカ!」
「じゃあ留守番しててね」
「ヨコセ!」
キーキー騒いでいたスライムは、黒テピちゃんの鋭いレシーブによって瓶の中へと戻っていった。頭の上に眠そうなハーフテピちゃんを乗せていても佇まいが頼もしい。
「黒テピちゃんありがと。おやすみ」
「テピ!」
ピッと片手を上げた黒テピちゃんは、他のテピちゃんたちと共にヒナのケージへと戻っていったのだった。




