たくらんだとり8
その後、カレーにルーを入れて肉じゃがを食べる頃には飽きたらしい鳥ペアも帰った。
派手鳥さんが怖かったのか、エプロンのポケットにみっしり詰まって離れないテピちゃんたちをそのままに、レシピ本の作りやすそうなページのところにメモを挟んでいく。
夕方にポヌポヌ犬さんが久しぶりにお店へ来て、またオオグマの腱ジャーキーを買ってポヌポヌ帰っていったあとはサフィさんしか来なかった。
「……にんにく……」
「うわびっくり」
キィ〜……、と静かに入ってきたので亡霊かと思ったけれど、それにしては顔がキラキラ過ぎた。しかしいつもよりはキラキラしていないというか、やつれている。服装もどことなくヨレヨレで、ふらふら歩いてきたかと思うとすぐに椅子を出してカウンターに突っ伏した。
「お、お帰りなさいませー。早かったですね」
「……ニンニクは……?」
「ご飯が炊き上がるまでもう少し掛かるんですけど、今から準備しますね」
「ニンニク……」
まだ6時を少し過ぎたところ。ごはんが出来上がるまでは30分ほどある。
ニンニク発言繰り返し機と化してしまったおつかれヴァンパイアなサフィさんに、とりあえず出せるものを出していくことにした。
しかし、本当にニンニクが好きなんだな。
地球で聖職者がニンニクで作った輪っかとか投げつけられ逆に喜んでいるサフィさんを思い浮かべつつ、私は冷蔵庫を開けた。
透明なプラスチックに入っているのは、ニンニクのお漬物。しそでピンク色に漬かったニンニクにかつお節が和えられている。スーパーでニンニク要素を探していて偶然見つけたものだ。お漬物とかあるの知らなかったけど、すぐ出せるものを買ってきて正解だった。
小鉢にちょっと盛って、爪楊枝をぷすっと一本刺す。
「とりあえずこれを……」
カウンターの方へ持っていくと、サフィさんが片腕に頭を乗せるようにして目を瞑っていた。
この短時間で寝てしまったのだろうか。相当お疲れだったのでは。
今日来ると手紙を送ったので無理してきたのかな、とちょっと心配になった。木のカウンターだし毛布もないので寝心地は悪いけれど、ご飯も炊けてないししばらく休んでいてほしい。
小鉢は起きてから食べてもらおうと思い、サフィさんから少し離れた場所へ音を立てないようにそっと置くと、枕にしていない方の手がピクッと動いた。目を瞑っているサフィさんが何度か息を吸って、手がペタペタと動く。だんだん伸びたその手が小鉢に触れると、それを掴んで顔の方へと持っていった。
まぶたが細く開いて、青とも緑ともつかない綺麗な目がぼんやり動いた。それが小鉢をとらえ、手が爪楊枝に伸びてピンク色のニンニクがひとつ口の中に入っていく。
ゆっくりシャクシャク食べたサフィさんは「うまい」と言ってまた目を閉じた。爪楊枝は握ったままである。やつれた顔がちょっとだけほころんで安らかに息をしている。
サフィさんのニンニク愛、すごいな。
邪魔をしないようにそっとキッチンに戻り、他に買ってきていたニンニクの皮を剥いたりニンニクの底を持って遊んでいたテピちゃんを洗ってニンニク臭を取ったりしてしばらく過ごす。
ご飯が炊けた音を合図にカウンターの方へそっと戻ってみると、サフィさんは同じ体勢でいたけれど、小鉢がいつのまにか空になっていた。お腹が鳴る音も聞こえている。作り始めて大丈夫そうだなと判断して、カレーを弱火で温め隣にフライパンを置いた。
「なんかいい匂いするー……ユイミーちゃんまだー……?」
「もうすぐできます」
カレー皿に盛り付け、持っていくとサフィさんが体を起こして待っていた。
「おおお……!! これなに?!」
「ガーリックライスとカレー、ニンニクの素揚げ添えです」
「ニンニクの香りがすごい!」
剥いたニンニクを丸ごと、ひたひたのオリーブオイルでじっくり揚げた後、オイルを大方瓶に移す。残ったオイルでスライスしたニンニクを揚げて一旦取り出し、ご飯を炒めて胡椒と醤油を入れてスライスしたニンニクを戻してガーリックライスは完成だ。
お皿に盛ってカレールーを掛け、ルーの上には解凍したブロッコリー、ガーリックライスには素揚げしたニンニクを添えて完成である。
疲れてるなら濃い味がいいかなと思ってカレーにしたけれど、カレーにニンニク要素を入れていいものか迷ったので外付けしてみた。ニンニクまみれ過ぎるかなと思ったけれどサフィさんはすごく喜んでくれたのでこれで良かったようだ。
「美味しそう! 食べていい?」
「どうぞ召し上がれ」
「あとこれおかわりある? 何が入ってたか覚えてないけど美味しかった気がする」
小鉢のニンニクは寝ぼけながら食べていたらしい。おかわりを持って戻ると、スプーンを握ったサフィさんが天を向いていた。
上に何か汚れでも見つけたのか、と思って見上げていると「美味い……」としみじみした言葉がサフィさんから聞こえてきた。
「おかわり……」
「まだ一口しか食べてないじゃないですか」
「おかわりすることは決まってるから……」
素揚げのニンニクを掬い、ルーとガーリックライスもスプーンに載せてもう一口食べたサフィさんは、とてもキラキラした笑顔をしていた。
しかたない。
私は今後の分も含めて買ってきたニンニクを、おかわりの要望がある限り出すことにした。




