たくらんだとり6
ホロローウ、とたまに鳴く声を遠くに聞き、テピテピと小さく何かを言っている声を近くに聞きながら、私は野菜を切っていた。
人参、玉ねぎ、ジャガイモ。それにお肉はサフィさんから貰って冷凍していた迷宮産牛肉。昼食の用意は、夕食の下準備も兼ねて作ることにした。なので多めの材料を切っており、キッチンに山盛りのボウルが並んでしまっている。テピちゃんたちは、アルミのボウルに歪んで映る自分たちの姿をしげしげと眺めていた。
サフィさんが来るのは大体7時前だ。今日もおそらく同じような時間に来るだろう。
そう見当をつけて、ちょうど来る頃に炊き上がるように炊飯器の予約を入れた。
今日の夕食はカレーである。カレーはやっぱり炊きたてごはんで食べたい。白米を気に入っているサフィさんもきっとそう思うだろう。
お昼は同じ食材を使って肉じゃがにすることにした。途中まで行程がおなじなので、具材をフライパンで順番に全部炒めてから、水分を入れる段階で少しだけ小鍋に分けてだし汁を入れた。醤油やみりんも適当に入れる。残りは大きい鍋に入れて水だけで煮込んだ。焦げたら嫌なので、カレールーは昼食後くらいに入れる予定である。
3口コンロ、便利だなあ。うちのキッチンよりも広いので、こっちで料理する方が楽しい。
「はいテピちゃん、人参の皮あげる」
「テピー!」
煮込んでいる間はヒマなので、キッチンに椅子を持ってきた。人参の皮を千切りにしてテピちゃんたちに配ってみる。細長くカットした人参の皮を持っているテピちゃんたちは、なんか杖を持っている魔法使いのオバケみたいなマスコットみたいで可愛かった。またオレンジ色になりそうだな。
お鍋の様子を見つつ、パラパラとレシピ本を眺めていると、コンコンガチャ、という音が聞こえてきた。軽いノックと、特に返事を聞かずに自力でドアノブを開ける音。
「あれ? サフィさん来たのかな」
人参の杖を持ちながらアワアワ、ならぬテピテピしている集団を置いて立ち上がる。
手紙によると仕事でなんか忙しかったらしいサフィさんだけど、早めに終わったのだろうか。疲れているなら食事の用意を店に任せてお昼も食べに来る、ということもあるかもしれない。
肉じゃが多めに作っとくべきだったかと思いながら、私はお店のほうを覗いた。
「サフィさん……じゃない」
はじめに思ったのは、デカい、ということだった。
デカい鳥がいる。
その鳥の身長は、私より少し小さいくらいのサイズだった。クチバシと頭は小さく、それに対して大きめの目には長い睫毛が生えている。すらりと伸びた長い首と優雅な曲線でつながっている胴体。その姿を支える長い脚は、しゃなりしゃなりと上品な足取りでお店へと入ってきた。
全体的に赤い。頭の上には飾りっぽい羽根が何本か生えているし、翼のところには何色か複雑に色が混ざっているけれど、そのどれもが派手だった。そして一番派手なのが、引きずるほどに長い尾羽である。
ツルとクジャクとフラミンゴとなんか南国のオウムを掛け合わせたらこんな感じになるのかな、みたいなビジュアルの鳥が、しゃなりしゃなりと大きな足で床を踏み締めてカウンターへと近付いてきた。
随分と大きな姿だからか、それとも派手な色合いをしている姿だからか、はたまた長い睫毛に縁取られた目がじーっと私を見ているからなのか、その鳥は、鳥らしからぬ迫力を持っているように感じた。なんか芸能人はオーラがすごいとかいうけど、それってこんな感じだろうか。
その姿は、しゃなり、と足を止めると、そこからじっと動かなくなる。
私と派手派手な鳥は、カウンターを挟んでしばらく見つめ合うことになった。
なんか圧がすごい。
金銀うずらペアとかカモ親子とか、なんか強いらしいこのエリアで生きていけるのか全く謎な鳥のお客さんは多かったけれど、この鳥なら、魔王さんとも堂々と渡り合うことができるのではないか、とすら思える威圧感である。
「……いらっしゃいませー」
圧を感じながらも私は店員としての使命をなんとか思い出して口を開く。
すると、派手な鳥がますます私をじっと見た。
眼力が強すぎる。
「……」
沈黙が続く。
この頃鳥系のお客さん多いなあと思っていたけれど、この鳥がダントツでインパクトが強い。まさか金銀メタリックなビジュアルを超えた派手さの鳥がやってくるとは思わなかった。迷宮、結構鳥が生息しているのかな。あとでサフィさんに聞いてみよう。
そんなことを思いながら見つめ返していると、徐に鳥が首の角度を変えてやや上を向いた。そしてクチバシが開く。
「ヨキッッッカナァ————!!」
思わずうわっと声を出しながら飛び上がってしまった。
びっくりした。
思わず構えた姿勢のままでじっと見ていると、同じくじっと見返してきた鳥が再び鳴く。
派手派手な鳥は、姿だけでなく声も大きかった。




