たくらんだとり2
レシート片手に帳簿をつける。
マンゴー2個税抜き12800円。
普段なら購入するかどうかの選択肢が浮かぶどころか視界にも入らないレベルのお高いマンゴーである。ものすごく色鮮やかでデカかった。
魔王さんの希望によりお店で仕入れることになったマンゴー、もとい「幸せ南国果実」2個銀貨10枚(日本円で50万円。異世界の食べ物とはいえぼったくり過ぎではないか疑惑が私の中で湧き上がっている)は、当然魔王さんが毎日購入している。
しかし魔王さんはそれだけでは飽き足らず「マンゴーお店で売ってたらお金渡すから買ってきて」というのを難しい言葉に変換して私に依頼していた。依頼料として金貨を握らされそうになったので、代行料は小銀貨で支払うことを条件としてちょいちょいお遣いをしているのである。
開店早々マンゴーを買いに行くというのを繰り返したせいか、高級果物店のおじさんが私の顔を覚えてしまった。あれこれと国産高級果物を紹介してくれるようになり、魔王さんを毎日唸らせている。そのおじさんがツテで「この季節にしてはかなり良質で貴重なマンゴー」を手に入れてくれたので、迷わず買ってきたのである。
いつもより大きく赤く見事なマンゴーに私は感心し、テピちゃんたちもテピーと崇め、魔王さんも感動の眼差しで見つめていた(たぶん)。2個のうちひとつをお店で切って出したけれど、それを食べた魔王さんは美味しさで感動のあまり5分ほど震え、残りの1個は果物かごに入れず手でそっと持って帰っていた。
「テピー」
「食べてみたいね。高いけど……」
「テピ……」
ロイヤルカスタマーである魔王さんから意図せずぼったくったお金は、今はとりあえず金貨1枚分だけが私の口座の中で眠っている。それを使えば超高級マンゴーなんて何個でも買えるけど、いざ買おうと思うとなんか抵抗感がある。気軽に手を付けてしまうと破滅しそうでむしろ手が出せないのが現状だ。
春休みが明けて講義が始まってからの生活費にしようと思っているけれど、それも度が過ぎないように去年の生活費を参考にして必要な分だけ別の口座に移す予定である。
超高級マンゴーを罪悪感なく食べるようにバイト代から捻出するかと考えていると、お店のドアがカチャッと鳴った。
「ん?」
レバータイプのドアノブが、カチャッと僅かに下がってはそこで止まり、また元の位置に戻る。弱い力で開けようとしているように、カチャ……カチャ……と何度か鳴った。
「テピちゃん……たちはいるよね」
朝、出勤してくるテピちゃんたちが入ってこようと頑張っている音に似ているけれど、白い集団は今、私の隣でまじょばちゃんのお土産であるマカダミアチョコの空き箱にみっしり詰まっていた。見ると、箱からわらわらと脱出してカウンターから私の膝の上にポトポト落ち、さらに床にポトポトと落ちていつもの棚へと逃げ出している。
カチャ、とまた鳴ったので私はテピちゃんを踏まないよう気を付けながら立ち上がった。
「はーい」
内開きのドアと同時に店内に入ってきたのは鳥だった。
「いらっしゃいませ」
赤い脚が、反対側のレバーのところを掴んでいる。クチバシも赤。その他はほとんど黒で、頬のところだけ金色の羽根が生えている。鳩をちょっと小さくしてスリムにしたようなサイズで、たまに見かけるギャーギャー鳴く野鳥に似た大きさだった。
その鳥がドアノブの上で向きを変えるとカチャッと音が鳴る。小さいので、ドアノブに乗って開けようとしても開かなかったようだ。
その鳥は、クチバシに紙を咥えていた。周囲を見ているかのように、小刻みに顔の向きを変えている。それから私をじっと見上げたかと思うと、バッと羽ばたいてカウンターの上に着地した。キョロキョロしている鳥は、私がカウンターの内側に戻るとポトリと紙を落とす。
手紙のようだった。
「えーっと、触ってもいいですか?」
尋ねると、ギロローと小さく鳴いた鳥はもう一度手紙を咥え、ちょっと羽ばたきながら苦労してそれを裏返した。宛名が見える。
「私宛てだ」
白い封筒には「ユイミーちゃんへ」と書かれていた。
異世界で手紙をもらってしまった。
受け取ったのを見て満足したのか、黒い鳥はチョイチョイと自分の羽を繕ってから、両足を揃えてテンテンとジャンプしてカウンターの上を移動し始める。じっと棚を見上げ、カウンターの下を覗き込み、ジャンプして羽ばたくととそこに置いてあった水入りの深皿のフチに止まった。私を見上げてギロローと鳴く。
「あ、テピちゃんのお水ですけど、欲しかったらどうぞ」
ギロッと鳴いた鳥は、赤いクチバシを水に付け、やや上向きに喉を動かしていた。それから羽ばたいて雑貨で溢れる棚の上の方の段に乗り、ギロロローと鳴いた。
それに呼応するようにホロローウと聞こえ、モゾモゾと金色の鳥が出てくる。
「あっ忘れてた」
そういえば今日は開店早々にいつもの派手ペア鳥が来ていたんだった。
いつも通り好きに見回っているので気にせずにいて、魔王さんにマンゴーを渡したりしているうちにすっかり忘れていた。棚の上で大人しくしていたらしいペアは、ギロローという鳴き声につられるようにモゾモゾと出てきて床に降りた。
黒い鳥が再び飛んでドアノブに留まると、それを追いかけるように金銀の鳥も出口へと歩いていく。
「ホロッ」
「あ、ありがとうございましたー」
ドアを開けると、黒い鳥はギロロッと鳴きながら飛び立っていき、金銀ペアは歩いて出て行った。残されたのは私とテピちゃんと手紙である。




