新学期、新生活9
今日のバイトはお昼過ぎからである。
「ネー納豆ノコリ1パック食ベチャダメ〜?」
「食べ過ぎじゃない? 大丈夫?」
「マメハ野菜ダカラッ!!!」
納豆がヘルシーそうな感じがするのは同意するけれど、キムチとかつお節とマヨネーズをたっぷりのせたらそんなにヘルシーではないと思う。
モットノセテと騒がしいシノちゃんをなだめつつ、キムマヨちょっとのせ納豆をかき混ぜているとインターホンが鳴った。
「あ、宅配きた」
「シノチャンノ納豆混ゼテカラニシテッ!!」
「いや不在になるでしょ」
プェー!! と文句を言うシノちゃんのクチバシを握ってから応対する。
「お荷物お届けに来ましたー」
「はーい」
開けると、大きめなダンボールを持った配達員のお兄さんが立っていた。
いつものお兄さんだ。
「ハンコでいいですか?」
「あっハイ、ここによろしくお願いしまーす。お荷物中に置きましょうか?」
「あ、えーっと、大丈夫です、受け取ります」
重い荷物を入れてもらうことが多いためについお願いしそうになったけれど、今日は部屋の中が騒がしい。ハンコを押してから、直接ダンボールを受け取った。
「ありがとうございましたー」
爽やかに去っていくお兄さんを見守る。
時間帯なのかエリアの関係なのか、いつも配達してくれるお兄さんは、いつぞやユウがうちまで来て困っていたときに助けてくれた人だ。
あのときはとても助かったので改めてお礼を言いたい気持ちもあるけれど、お兄さんは忘れているかもしれないし、いつも忙しそうなのでなんとなく言いそびれてしまっている。いつか言えたらいいなと思いつつドアを閉めると「納豆ハヤクッ!!!」とシノちゃんが叫んだ。静かにしてほしい。
「ネ〜何頼ンダノ〜? オヤツ? 大好キナシノチャンノタメノオヤツ?」
「服だよ」
「シノチャン服キナイッ!!」
「いや私の服だよ。そもそも鳥用の服ってある?」
モッチャモッチャと納豆を食べているシノちゃんのクチバシを拭きつつツッコミを入れる。犬が服着てるのはよく見るけど、鳥は見たことない。そもそも鳥って散歩とかしてるとこみたことない。
そもそも羽毛なので、重ね着したら暑そうだ。シノちゃんをワシャワシャと撫でると、指先が羽毛に埋まって結構体温を感じるのである。冬はあったかそうなので寒くなったら積極的に撫でさせてもらおう。
シノちゃんの納豆を片付けてから、通販した服を軽く試着してみる。サイズもちょうどいいし、重ね着のものは夏まで着られそうだ。
「無難ナカンジダヨネ〜。ユイミーちゃん、同ジブランドデ揃エテオケバ問題ナイッテタイプ?」
「いいでしょ別に! 知らないブランドとかってサイズとか丈感わかりにくいから試着しにいかないとだし!」
「モット明ルメノ服着ヨウヨ〜若インダカラ〜」
「シノちゃん何? 日本の服事情にも詳しいの?」
鳥にファッションチェックされた人間は、地球上では私が初めてではないだろうか。通販だからと冒険せずに買い物をしたのを見抜かれていた私は、バイトが始まる時間までシノちゃんと通販サイトを眺めることになった。いつもははしゃぎ回っているはずのヒナたちが、ペキペキと殻を食べながら私をじっと見ていて、なんだか鼻で笑われそうな感じがしていたたまれなかった。鳥にアドバイスもらってすみません。
「コレ!! コレ着テ!!」
「それパーティー用だよシノちゃん」
「大丈夫ダカラ! アウターデカジュアルダウンスレバ普段着オーケーダシ! サマーニットノベストデキャンパスルックニナルカラッ!!」
「シノちゃん服屋の店員とかやってた?」
専門用語的な呪文を唱え出したので引いていると、シノちゃんが突然ピタリと動きを止める。
「ん? シノちゃんどうしたの?」
「アノネ〜ナンカ来テルッポイ」
「え、何? やばいやつ?」
あっち、と片足をワキワキさせた先は玄関である。
慌てて神社でもらったお守りを探していると、シノちゃんが翼を背中に寄せて伸びをした。
「チョットウザソウダカラ〜シノチャンガボコボコニシテクルヨネ〜」
「ボコボコなの? 大丈夫?」
「シノチャンハ天才ダカラ〜窓シメテバイト行ッテネ〜」
バササと狭い部屋の中で羽ばたいたシノちゃんが、玄関ドア横の小窓に飛び付いたかと思うとガラッと窓を開けて出て行ってしまう。ちょっと高い位置なので見えにくいけれど、シノちゃんはそのまま飛んで行ったようだ。
「テピ?」
「行っちゃった。大丈夫かな」
「ピッ!」
この辺りは神社が近いので大丈夫的なことをへびくんが言っていたけれど、シノちゃんがあんなに素早く反応していたということはやっぱりそうでもないんだろうか。
飛んでいったということは、家の近くにはいないのかもしれない。それは安心だけれど、じゃあどの辺にならいるのかというのも問題だ。大学の行き帰りとかキャンパス内でこの前の変な靄を出す変なひとみたいなのが出たら困る。色んな意味で。
とりあえず、お守りは肌身離さず持っておこう。あとなんか強そうだしスジャークさんの羽根も持ち歩こう。シノちゃんの羽根も、まあ、持っていこうかな。
私は前に貰った羽根を色んなカバンやらお財布やらに忍ばせることにした。托卵されたときにやたらともらった羽根を、こんな風に頼るときがくるとは。
ついてきていたテピちゃんやヒナたちを抱っこしつつ、私は部屋の方へと戻った。そろそろバイトの時間である。




