新学期、新生活4
シラバスを眺めると、いよいよ新学期が始まるんだなという実感が湧いてくる。
「去年かなりギリギリだったし、今年はフル単したくないなー」
「テピー」
「でも来年再来年は余裕持ちたいし、なるべく曜日で偏りないように……あ、これ面白そう」
「テピ?」
「二外は去年と同じ先生がいいし……」
「テピテピ」
朝ごはんを食べ終わってからテピちゃんたちとノートパソコンを眺めながらあれこれ言っていると、ピーッとメタリックな卵が乱入してきた。
卵といっても、頭のふわふわが露出している。けれどふわピーちゃんではなく、最初に孵化したピーちゃんである。
「ピッ!」
「結構食べたねー。えらいえらい。天才。将来は立派な鳥になるだろうなーすごいなー」
「ピー!」
褒めに褒めていると、銀色の卵もピィピィと近寄ってきた。もちろんふわふわ頭が見えている。
改心したのかそういう時期なのか、財宝鳥のヒナたちは殻を食べて姿を見せ始めた。なぜか夜に食べることが多いので毎晩パキペキと音が響くのがアレだし、殻を食べていることを大袈裟に褒めないと怒るというところもアレだけど、無事に育っていて何よりである。
褒める語彙がパターン化してきているけれど、白くてポワポワした頭とつぶらな目が見えると格段にかわいさがアップしたため、ヒナたちの面倒を見るのも楽しくなってきた。クチバシの端がゴムパッキンみたいなところもかわいい。
「かわいいのはいいんだけど……大学始まったらどうしよう」
新学期までもうカウントダウンが始まっている。ヒナたちはやっと殻を食べ始めたとはいえ、サイズ的にも大人になるのはまだまだ先のようである。構内にペット禁止と書いているのは見たことないけれどそれは常識だからであって、堂々と連れていくのはさすがに怒られそうだ。
うーん、と悩んでいると、手の上から飛び降りたヒナがキャンパストートのポケットに入り込んでピッと言った。
「いや、それ教科書入れるから潰れるよ」
「ピーッ!」
去年もそこそこ重たいカバンだったけど、今年からは学科の授業も本格化する。演習でかなり分厚いテキストを使うらしいというのは、既に去年の前期には噂になっていた。
硬い要塞だった卵があるならまだしも、ふわふわ頭がテキストに挟まれるところなど見たくない。それに育ち盛りなヒナたちは殻だけでなくジュンキンアワホもよく食べるので、定期的にエサをあげる必要がある。テキストを開いたらアワホがポロポロ落ちてくるようになるのは避けたい。
「テピ!」
テピちゃんのうち5匹ほどが、ヒナの入っているキャンパストートの中に入って手を挙げていた。
ヒナと比べるとテピちゃんたちは圧倒的に安心だ。静かにもしていられるし走り回らないし、食べ物も私が食べるタイミングで食べるし、ご飯粒や金平糖でいいからわざわざ用意する必要もない。おまけにムニッとした体は私のお尻に潰されても復活するということが証明されてしまっている。
「……いやいや」
だからって、大学に連れていくかといわれると別問題である。
「ニンニクはお留守番してて。浮くのはマジでアウトだから。あとニンニクカバンに入れて大学行くのも色々とアウトだから」
台所のカフェオレボウルからそっとヒゲ根を振ってアピールしていたニンニクにも声を掛けると、白いヒゲ根がしおしおと陶器の縁に垂れた。
ニンニクは留守番してもらうとしても、ヒナたちを家に置いていくのはそれはそれで心配だ。でももしヒナを連れていくなら自動的にお世話係なテピちゃんたちも連れていくことになる。
「うーん……」
悩んでいたら、テピちゃんたちがテピテピと私の膝によじ登ってきた。ムニムニするととても気持ちいい。癒されていると、ピーちゃんがたたーっと戻ってきて手のひらに割り込んできた。怒るテピちゃんたちをもう片方の手でムニムニしつつ、ピーちゃんのポワポワ頭も堪能する。
うちの生き物たちどうしよう問題は解決していないけれど、それでも新学期は楽しみだった。
春休みをバイトに費やしていたので、講義が始まる前に新しい服を買っておきたい。靴も見たいし、カバンも気になる。バイト代がガッツリ入ったので、ちょっとしたアクセサリーとかも欲しい。
久しぶりにスーパー以外の買い物行きたいなーとテピちゃんたちに話しかけていると、ベッドの掛け布団がバサァと捲れた。
「シノチャンノオシャレノタメニ買イ物行クト聞イテ!!」
「誰もそんなこと言ってないんだけど」
「シノチャンノオヤツヲ買イ物行クト聞イテ!!!」
「だから何を聞いてるのシノちゃん。あと今日はスーパー行くだけだからね。バイトあるし」
ウキウキと体を上下させているシノちゃんをなだめる。ピーちゃんが「……ピッ」とまた
余計なことを言ったので、買い物に出かける時間さえちょっと減ってしまった。
ヒナに留守番させるにしても、シノちゃんにお守りしてもらうのはせいぜい1時間以内だろう。ていうか、シノちゃんも大学付いてきそうな気もする。
肩にド派手なオウムを乗せて出席し、先生と同じ学科の子たちにドン引きされている姿がいとも簡単に頭に思い浮かんでしまった。
色々な意味でキャンパスライフが終わりそう。
解決の糸口が見えない問題を前に、私は静かにパソコンを閉じた。




