小さいヒナと大きなお客49
その男の子は、小学校高学年くらいの年頃に見えた。
柔らかそうな黒い髪はまあ普通、丈の短い着物を着てるのもまあ、まあ、そういう方針の家もあるかもしれない。しかしインドア派ってレベルじゃないほど肌の色が白いところはちょっとひっかかるし、私をじっと見上げてきている目が金色で、しかも瞳孔が縦なのはもうどう頑張っても普通とは言えなかった。
目が合っていた男の子が、ぺこりと丁寧に頭を下げる。
「とつぜんおじゃましてもうしわけありません。へびです」
「へびです?!」
初めて人じゃないっぽい人から自己申告された。
ていうかへび。
へびってあれか。ヘビか。
なるほど瞳孔が縦なのはヘビだからか。
そもそも自己紹介で「へびです」はアリなのだろうか。私が「こんにちは、人間です」って言っているようなものでは。へび的にはオーケーなのか。
「あるじさまにおせわになっています」
「あるじさまとは」
「このまちをおまもりくださっているあるじさまです」
「おまもり……あっ、神社の?」
そうですと頷いた自称へびな男の子に、なるほどと合点が入った。
ヘビって、なんか昔から神社とかで祀られてたりする気がする。肌が白いのはもしかして白蛇だからなのだろうか。着物を着ているのも、神社で暮らしているからならかなり普通に思えてきた。
へびがいるということは、あのボロボロ神社の神様は貧乏でおじいちゃんなへび……?
「あ、どうもいつもお世話になっております……? あの、中に入りますか? 散らかっている上にちょっと色々いるんですけど」
そこまで言っておいてハッと気が付いた。
このへびくんが神様のお使いなら、もしかしてウチにガサ入れに来たのでは。
異世界生物持ち込みすぎ問題で私しょっぴかれてしまうのでは。
どこにしょっぴかれるのかよくわかんないけど。
「あ、あのー……やっぱり多過ぎますかね。あの、少なくとも子犬たちは明日には引き取られていくんですけど。オウムの方も、たぶんお願いしたら帰ってくれるんですけど」
「いかいのいのちについては、へびはわかりません。このたびは、おちからになれたらとおもってきました」
どうやらガサ入れではないらしい。舌ったらずながらも淡々と、そして丁寧に話すへびくんの言葉に私はほっとした。
「えーと、つまり、助けに来てくれたと」
「はい」
「助けに……それって例えば魔石をどうにかしてくれたりとか?」
「はい」
「えっほんとに?」
ふと思いついて言ったら、へびくんが簡単に頷いたので逆にびっくりした。
なんでさっきの今でそんな話が通っているのか。というか、魔石って地球でも通じるのだろうか。神社に納めちゃっていいのか。
ちょっと話が出来過ぎている気がする。
「あの、魔石ってどういうものか知ってるんですか?」
「はい。あなたさまのおちからになるものですが、いまはあつかいにこまるものです。きたるべきときまでは、おんみからはなしておかれるほうがよいです」
「へ、へー」
幼い顔をしているのに、言葉が大人びている上に色々わかっているっぽくて、私は年上の身としてちょっといたたまれなくなった。
「へびはまだそのおいしにさわれませんが、あなたさまがおやしろまでもってきてくだされば、へびがまもります」
「おやしろ……神社まで持っていったらいいと」
「はい」
「あの、それって神様がそうした方がいいって言っ……おっしゃってるんですか?」
「いいえ、へびがそうみました。へびにも、あなたさまとにたちからがあるのです」
ヘビと似た力って何。熱センサーとか私は持ってないんですけど。
「あの、魔石持てないのに預けちゃって大丈夫なんですか」
「おいしそのものはとてもつよいですが、おいしからもれいずるちからをあびれば、へびもまたちからをやしなうことができます」
「お互いにメリットがあると」
「はい」
魔石に詰め込まれている魔力が、このへびくんにとって何らかの力となるらしい。
へびくん的には力が蓄えられるし、私的にはなかなか面倒なことを寄せ付けそうな石を厄介払いできるというわけだった。
神様のところのへびくんなら、変なことにはならなさそう。
「じゃあ、お願いします。もう遅いけど、魔石持ってくのは明日の朝の方がいいかな?」
「すこしあぶないですが、きょうのほうがよいとへびはおもいます。あすでもへびはかまいませんが、もっとあぶないかもしれません」
「じゃあ今からで」
ちょっとあぶないコースともっとあぶないコースだったら前者がいい。
私は即答してへびくんにちょっと待ってもらい、神社まで出かける準備をすることにした。
「ごめん、これから出掛けることになったんだけど、シノちゃんよかったらついて来てくれる?」
「イヤッ!!!」
お店の棚に置いてあった、子犬の出した魔石を持って戻ってきてからベッドの上に声を掛けると全力で断られた。
「シノチャンヘビダイッキライッ!!!」
「あ、そうなんだ。ていうかやっぱりヘビなんだ。じゃあ、申し訳ないけどテピちゃんたちと一緒に子犬とヒナたち見ててくれる?」
「イイヨ〜」
「テピッ!!」
めんどくさそうな返事ながら、シノちゃんは片足をワキワキさせて請け負ってくれた。
そして代わりに、テピちゃんが1匹勢いよく手を挙げている。
「テピちゃん、来る?」
「テピッ……」
「なんか震えてるけど大丈夫?」
「テピィッ……!」
ビビリ属性のあるテピちゃんが、なんか勇気を振り絞ってついてきてくれるようだ。周りのテピちゃんたちは身を寄せ合って震えながら、勇気あるテピちゃんにテピテピと言葉を掛けている。
大丈夫かなと思いつつ、真っ暗な中であの神社に行くのは私もちょっと怖かったので、テピちゃんに一緒に来てもらうことにした。




