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後編

「上澤くんのことが好きです。よかったら、私と付き合ってください」


 好きな人に告白された。

 昨日までの俺なら、屋上でウサギのように飛び跳ねながら喜んだだろう。


 でも、今はそんな気分になれなかった。


 彼女が俺に惚れた理由が、昨日の事故から救ったからだということは、容易に想像できる。


 でも、俺はやり直しているんだ。

 本来なら、彼女を救えなかった。

 本来なら、今こうして告白されることもない。


「ごめん」

 

 彼女を『ループ』というインチキなもので騙しているような気がして、気が引けた。

 なんだか、彼女を不正な力で操っているような気すらしたのだ。


 俺のエゴだということは分かっている。

 それでも、この告白にいい返事をするほどの度胸はなかった。


「そっか」


 俯く彼女の目から、何かが落ちるのが見えた。


「発動『ループ』」


 ……え、宮野さん、今、何て。

 声を出す暇もなく、だんだんと意識が遠のいていく。



 吹き付ける風は相変わらず冷たかった。


「上澤くん。お話があります」


 涙の跡がない彼女は、どっかこわばってた様子で俺を見る。


「実は私」


 この展開、知っている。

 だって、さっきやったじゃないか。


「上澤くんのことが好きです! 付き合ってください」


 まさか、宮野さんも『ループ』を使えるのだろうか。


「ごめん」


 いや、そんなわけない。

 そんな偶然あってたまるか。


「発動『ループ』」


 でも、彼女はまたしても、そう唱えた。



 吹き付ける風は相変わらず冷たかった。


「実は私」


 百歩譲って、彼女が『ループ』を使用していたとしても、わからないことがある。

 何で、俺は記憶が残っているんだ。


「上澤くんのことが大好きです! 付き合ってください」


 俺も『ループ』を使えるからか?

 理由はどうあれ、好きな人の告白を断り続けるのは、精神的に苦しい。

 

「ごめん」


 それでも、だからと言って、やっぱり軽率に付き合うことはできない。

 俺って、自分が思っていた以上に酷いやつなのかもしれないな。


「発動『ループ』」


 泣きそうな声で、彼女は唱える。



 吹き付ける風は相変わらず冷たかった。 


「実は私」

「宮野さん!」


 申し訳ないと思いながら、彼女の言葉を遮る。


「俺、記憶が残っているんだ」

「え?」

「今、四回目だろ」


 彼女はしばらく考え込んで、少しだけ笑みをこぼす。


「やっぱり、残ってたんだ」


 彼女は何か納得した様子で言葉を続けた。


「私も、上澤くんが百回も告白してくれたこと。上澤くんが一度死んだ私を助けてくれたこと。全部覚えてるんだよ」


「私も『ループ』使えるから」と彼女は言う。

 少し時間を置いて、ハッとした。


 俺が今記憶を失っていないように、彼女も昨日の記憶を失わなかったということか。

 もしそうなら。


「それなら、どうして昨日は何も言わなかったんだ。どうして今の俺みたいに、繰り返していることを指摘しなかったんだ?」

「嬉しかったから」


 少し俯きながら、彼女は言う。


「上澤くんに告白されて嬉しかった。本当に嬉しかったの」


「私、今まで何回も『ループ』を使ったことがあるのだけれど、知らないでしょ」

「今までって、今日のことじゃないのか」

「そう。六月の席替えの日。私は何度もくじ引きを繰り返した。上澤くんと隣の席になるために」


 まるで、彼女は懺悔をするかのように、抱えていたものを吐き出すように捲し立てる。


「だから、上澤くんからの告白に答えるのが怖くなった。何だか自分のしていることが、インチキみたいに思えた。未知の能力で上澤くんを操っている気分になっていたの」


 何も答えられない。

 俺と近しい感情を彼女も抱いていたということに、今の今まで気づかなかった自分にどうしようもない無力感を覚えた。


「でも、好きなんだ。上澤くんのこと」



 俯いた彼女の目から、何かが落ちるのが見えた。

 ああ、どうして俺は、こんなにも真っ直ぐな好意から目を逸らしたのだろう。

 くだらない意地をはって、彼女の想いを蔑ろにするなんて、最低だ。


「俺、宮野さんに酷いことしたよな。百回も告白して、そのうえ告白されたら断って。本当にごめん」


 本当に、つくづく酷い男だ。


「お互いさまだよ。私だって告白を断った」

「お互いさま、か」


「何だか私たち『ループ』に振り回されてばかりだね」

「ああ、確かに」


 元々、この能力がなければ、彼女からの告白を断ることもなかった。

 それに、俺の告白に、彼女が罪悪感を抱かなかったかもしれない。

 けれど。


「でも、『ループ』があったお蔭で、俺は宮野さんと出会えた。隣の席になれたんだ」


 こんなデタラメな能力があったからこそ、高嶺の花と思っていた彼女と、今こうして屋上で話しているんだ。


「だから六月の席替えで、宮野さんが能力を使ったって聞いて、正直嬉しかったんだ。隣の席になりたいって思ってもらえただけでも、凄く幸せなんだ」


「上澤くんこそ、百回も告白するってやっぱりおかしいけどさ。でも、好きな人に百回も告白されて嬉しくないわけないじゃん」


 彼女はえへへ、と笑う。

 ああ、俺はなんて素敵な人に惚れたのだろうか。


「宮野さん」


 もう、能力には頼らない。


「俺、宮野さんのことが好きです。付き合ってください!」



 やり直すこができない世界で、もう一度告白をやり直すんだ。




「私も。私も上澤くんのことが好きです。大好きです!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前編で終わっても小説としては成立するのに、更にストーリーが進み、深くなっていったのでとても面白かったです! [一言] もし僕が書いていたとしたら、前編の最後に少し付け足して終わらせちゃって…
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