分析
遅くなっちゃいました...
気を抜くといつもこうなるんですよね...
でも、失踪はしないので安心してください。
あと、アクセスありがとうございます!
後書きの方にも説明があります。
『私ですか?私は貴方です』
「...は?」
何を言っているのかわからなかった。
強盗?いや、この家には盗む物なんてない。
じゃあ一体...?
『私は貴方の心の奥にいるもう1人の貴方なのです』
「...どういうことだ?」
『貴方は生と死の狭間で契約を結びました。ですので、私は『発現』されました』
契約...?
そういえば、あの森で気を失った時、変な夢を見たような...
...ん?生と死の狭間?
「生と死の狭間って...まるで僕が死にかけたみたいな言い方をするじゃないか」
『はい、頭にこんなものが撃ち込まれて死なない人間はいませんよ。今回は貴方が神だったので死ななかったようですが』
といって、金属で出来た奇妙な形をした物を手渡された。
「これは?」
『貴方の頭に撃ち込まれた物です。気絶している間に取り除いておきました』
「こんなものが...というか、何故君が僕の事を神だと知っているんだ?」
『私は貴方ですから、私は貴方の全てを知っています』
「全て...?」
『貴方が『地獄のその先』を司る邪神である事も、貴方には素晴らしい相棒がいた事も、今起こっている出来事に、内心わくわくしている事も知っていますよ』
...僕は他人に自分の身の上話をする事は殆どない。
知っているとしても、かなり親しい人でないとここまで知るはずはない。
とすると、この人は本当にもう1人の自分なのか...?
『...まぁ、私の事を信じるも信じないも貴方次第ですが、私としては信じる事をお勧め致します。今後一生を共にするのですから』
...一生を共にする...?
「ちょっと、それはどういう―――」
そこまで言いかけたその時、窓の外から何かが投げ込まれた。
「うわっ、なんだこれ...イタズラか?」
僕は投げ込まれた物を拾い上げる。
すると、女性は叫んだ。
『今すぐに投げ捨てて下さい!』
「え?どうして?」
『いいから早く!』
余りにも顔が本気なので、僕はそれに従った。
『今すぐにここを出...いや、矢印で体を防御してください!』
「わ、わかった!」
僕は全身を矢印で包み込み防御する。
すると、さっき拾い上げたものが突然爆発した。
凄まじい轟音と共に、家の中が燃え出した。
「ぐぉぁぁぉ」
僕は声にならない声でうめいた。
周りの音が何も聞こえない。
『今すぐに窓から脱出してください』
全く何も聞こえない中で、さっきの女性の声だけがどこかから聞こえた。
「君はどこに...?」
『貴方の中にいます。そんな事よりも...』
「わかった、脱出するよ」
僕は窓から飛び出した。
さっきの爆発が気になったのか、玄関の辺りには人だかりが出来ていた。
「うう...家が...」
『...』
女性は人だかりの方をじっと見つめる。
「...一体何を?」
『あの中に1人だけ、心拍数が高い人がいます』
「...え?」
『余程緊張しているのですね、何故でしょう?』
「どうして心拍数とか分かるんだ?」
『私の能力で分析したからです』
「能力?分析?」
しばらく人だかりの方を見ていると、1人の男がこちらに気付き、慌てふためくように逃げていった。
『あ、さっきの心拍数の高い男が逃げるようですね』
「とりあえず追いかけてみよう、なんで逃げるのか聞いとかないと」
男は街の外の方へ逃げて行く。
僕はその後を追いかけて行った...
男はしぶとく街の外まで逃げて、森の入り口辺で急に止まった。
聞こえなくなった音もだんだんと聞こえてきた。
「...ふ、ふはは!お前は俺を追い詰めたと思っているのか!」
男は急に振り向いて、何かをこちらに突きつけた。
森の中で出会った男が持っていたものと似ている...
「いいか!この森の中にはな!...10、いや、100!100人の殺し屋がお前を待ち構えているんだぞ!」
...殺し屋?
なぜそんなやつが僕を狙っているんだ?
あれこれ考えてる前に、いつの間にかそばに居た女性が、森の中をじっと見つめている。
『嘘ですね』
「え?」
『あの森の中には人が2人しかいません。しかも、その事にこの男は気付いていないようですね』
「どうしてそんなことが分かるんだ?」
「おい!一体何を喋っていやがるんだ!」
男は何かを突きつけたままこちらに怒鳴りつけた。
「...お前はこの人が見えないのか?」
「何?ここに居るのは俺とお前だけ...いや、あと100人の殺し屋だけだ!」
『あの男は私が見えないようですね』
何故?と、問い質したい所だけど、今はまずこの状況を何とかしないと...
『あの男程度ならどうにでもなるでしょう』
「ああ、そうだな」
僕は男に近付く。
「や、やめろ!撃つぞ!?」
「何を?一体どうやって?」
と言ったところで、男は持っていたものをそっぽを向かせてから指を引いた。
すると、何かが音と共に発射された。
僕はすかさず後ろに引いた。
確かに、あんなものが当たればひとたまりもない。
「今のが頭にでも当たれば、お前は死ぬんだぞ!?分かったら近づくな!」
男は何かを発射した後、またこちらに何かを向けた。
『分析が完了しました』
「突然何を...うおっ!?」
突然、あの男の持っていた物の発射口から、光が見えた。
「これは...?」
『この光はあの武器の、いわば射線です。あの場所以外から金属は発射されないようですね』
「おい!さっきからいちいちブツブツと!自分の立場が分かっているのか!?」
「そっちこそ、さっきからいちいちうるさいな、何をそんなにビビっているんだ?」
僕は再度、男に近づく。
「お、おい!近付くな!撃つぞ!」
男の忠告を無視し、僕はさらに近づく。
「く、クソッタレが!」
男が指を引いた。
金属が発射される。
が、発射された瞬間、金属がのろく感じた。
いや、この世界全てがのろく感じた。
「一体何が...?」
『私はあの攻撃を分析し、『見切り』ました。だから、あの攻撃がこのような速度に感じるのです』
僕はゆっくりと来る金属を避ける。
すると、のろかった世界は直ぐに元に戻り、男は傷一つない僕を見て狼狽えた。
「な、なんだと!?弾丸を避けた!?」
僕はまた金属を撃たれないように、男の持っているものを没収し、首を掴んで持ち上げた。
「ヒィィ!命だけは!」
「一体何故僕を狙う?」
「依頼されたんだ!」
「誰に?」
「そんなの言えるわけねぇだろ!」
僕はさらに首を絞める力を強めた。
「話すのが先か死ぬのが先か...」
「わ、わかった...話す...話すから...」
そう言った瞬間、女性が言った。
『このまま話すと、この男は間違いなく消されます』
「どうして?」
『とりあえず、森の中にいる人を倒してしまいましょう』
と言って、何かを手渡してきた。
男が持っているものと同じ形だ。
よく見ると、部品の全てが矢印で出来ていて、かなり細部まで表現できている。
『先程没収したものをさらに分析し、使い易いように貴方の矢印で一から生成致しました』
「さっきと男がやったようにすれば、金属が出るって言うこと?」
『そうですね...金属の代わりに矢印が出てきますが、問題はないかと』
「...どうやって矢印を出したかは後で聞くけど、やってみるよ」
「...い、いつの間そんな物を?」
僕は殺気を頼りに、人がいるであろう場所に矢印を撃った。
普段飛ばすような矢印とは全く比べ物にならないぐらいの速さで飛んでいき、正確に敵を撃ち抜いた。
小さく呻き声をあげて、茂みの中にいた男が倒れた。
「...こ、こいつらは...!?」
「僕が知るわけないだろ、さぁ、話してもらおうか」
僕は男に何かを突きつけ、誰が依頼したかを尋ねた。
「顔はわからねぇ。仮面を被っていたからな。だが、結構大柄な男だったぜ」
「それで?」
「信じられないぐらいの量のゴールドを報酬金に、お前を殺せって依頼されたんだ」
「...一体なんのためなんだろう」
「俺が知っているのかここまでだ、本当なんだ!」
「わかった、もういい」
「え?」
「知らないならこれ以上聞く必要ないからね。もう行ってもいいよ」
僕は手に持っていた矢印でできた何かを消して、再び街の中に帰ろうとしたその時、
「ま、待ってくれ!」
と、男に呼び止められた。
「...まだ何かあるの?」
僕は男の方を振り向いた。
男は土下座をしていた。
「失敗した以上、俺は命を狙われてしまう...だから頼む!俺を助けてくれ!」
「...よくそんなことが言えるねぇ」
「そんなことは分かってる!だが頼む!あんたほどの射撃の腕前があれば、何とかなるはずだ!家も貸す!武器も全部やる!だから頼む!」
...武器か。
そういえば、あいつが使っていた武器の事も、家に投げ込まれたものについてもよく分かってない。
ここは頼まれる事にしよう。
「...わかった」
「え?」
「僕もお前に家を吹っ飛ばされて家無しだ。住む所と、お前の持っていた武器について詳しく教えてくれるなら、今お前を死んだ事にしとく」
「死んだ事に...?」
「そこに倒れている男をお前ということにしておけばいいでしょ」
「でも、どうやって...?」
「お前が気にすることじゃない。家の場所を教えてくれたら僕もそこに行くから、家の中で待ってて」
男はみるみる内に笑顔になり、
「ああ!わかった!」
と言って、街の方に走っていった。
「あ、おい!家の場所を...」
『家なら私が特定しておきます』
「うわっ、急に出てこないでくれよ」
『とりあえず今は、この死体を地獄で加工して、彼に似せなければいけませんね』
「...ほんとになんでも知っているんだね」
『私は貴方ですから』
女性は鼻高々に答えた。
「ところで、君の名前は?」
『名前?』
「あぁ、名前がないとなんて呼べばいいのか...」
『名前...ですか。貴方が決めてください』
「僕が?そうだなぁ...」
散々悩んで、ひとつの答えが出てきた。
「僕は牡羊座が好きだから...エリース。今日から君は『エリース』だ!」
『エリース...いい名ですね』
エリースは微笑み、フッと消えた。
「あれ?エリース?」
『能力を使いすぎて疲れました。ですので、しばらく休みます』
頭の中に声が響く。
「...よく分からないなぁ」
僕はそう呟いて男の死体を担ぎ、腰の短剣で地獄への扉を作り、地獄へと向かった...
エリース
主:ナラク
能力:分析する能力
見たものを分析する能力。
能力が覚醒したばかりなので、どの程度分析できるか分かっていない。
人間なら体温や心拍数などが分析できることは判明している。