種族
帝国を出た日の夕方、一行は東隣の永世中立国『ナリ国』に着いた。
ドラゴンの領地に行くには、この国を通過しなくてはいけないのだ。
ナリ国は、おとぎ話のように少し不思議な雰囲気を持っている国である。
今の王になってから絶対的な国からの幸せが保障されているらしい。
と、ツバキは言う。
「そう云えばツバキさんは私たちと一緒に来ていていいんですか?
黒髪を殺したいのに私のことずっとほっといてますけど…怖いです…」
「な、い、いやリオンいいか?
私は昨日一昨日で久しぶりに帝国に行き、その前にはその王と戦ったんだがな、
殺すべきがお前じゃないとおもったんだ。今まで私は黒髪の姫が『幸せに』生きていると思っていた。
だが悪いがそうは見えないんだよ。殺されたかったお前には申し訳ないが。
お前たちといれば、その殺す相手に自然と会えると思ってな。そういうわけで、これからよろしく」
少年と少女は顔を見合わせてから、こちらこそと笑った。
「さて、ずっと軍服でいるわけにもいかないが男物の服なんてなんでもいいだろ。
リオンの剣は私がいつも世話になってる鍛冶屋があるからそこに行こう。
2人ともいいか?」
「ぼ、僕の服もちゃんとした物がいいです!!」
ーーforgeron(鍛冶屋)
ツバキがいつもお世話になっているというおじぃちゃんに剣を注文している途中だった。
「お、いい剣作ってんなあお嬢ちゃんたち。」
少しヴォルフを思い出させる軽いノリで青年が話しかけてきた。
だがリオンは彼から目が離せなかった。
彼の耳は、自分の目を疑うくらい長く、尖がっていたのだから。
それもそのはず。
リオンはエルフという種族を生れて初めて見たのだ。
だが、パロンはどうだ。
彼も生粋の帝国育ちのはずだが、
青年には一瞥しただけで、すぐに剣へと目を戻していた。
「てめえ…なんで面出してんだ。」
え。
「つ、ツバキさん、そんなに怒らなくても…」
「お前あの時決めたじゃないか!もう二度と会わないって!
忘れたとは言わせないぞ。なあナグレット」
リオンの声に耳も貸さず、ツバキは怒る。
ナグレットと呼ばれた青年は彼女の怒りに嫌な顔一つせず、ただ少し悲しそうに笑って
おじぃちゃんにしばらくしたらまた来る。とだけ言って店を出て行った。
剣ができる一週間の間、3人でパロンの服を買ったり軽く首都を観光してすごした。
ツバキはいつも通りに口が悪く元気に見えてが、どこか変に見えた。
だが2人とも、知り合いであろうエルフの青年に関してはなにも聞けなかった。
ーーfrontière(国境)
「ダメダメ、ここから先は行かせられないよ。通行書がないと通せないんだ。」
ナサ国と領地の国境で三人は通行書のことをすっかり忘れていた。
しかも発行するのにも人間が違う種族の地へ行きたがることなので莫大な金がかかるのだ。
「ナサ国で働いてお金を貯めないと…」
「リオン!!!」
その時後ろから少女に呼ばれた。
振り返ると魔法陣をスケートボードのように使って宙に浮いている、耳が魚の鰓のような形をした
全体的に青い少女ー幼女と、秘書のような雰囲気をかもし出す女性の二人がいた。
「ブリタ様!お待ちしておりました!」
門番が慌てて膝をつく。
「き、きみは誰?」
リオンは初対面の幼女に何故名前を知られているのか怖くなった。
それにブリタは楽しそうに応えた。
「あはは!まあ知らないのも仕方ないな、貴様は人間だものなあ。
巫女のように特別でもない、ヨワッコチイ。
だろう、アウリ?」
ぼーっと宙を見ていた秘書が退屈そうに口を開けた。。。
「はいそうですねブリタ。」
そしてアウリは三人に紙を渡した。
「これ…通行書!どうして!」
ツバキは青い二人を疑うように見ながら
「ブリタ様、なんで私たちにくれるんです?
海を支配する女王として、ドラゴンたちと親密な関係を保っているのに人間に渡してはまずいだろうよ?」
海の女王は面倒くさそうに答えた。
「この地の女王と巫女は全部知っている。
我がここに来ることも、貴様らが来ることも。
なあアウリ?」
アウリも面倒くさそうにうなずいた。
いつの間にか門番が国境の重い扉を開けていて、三人…五人はドラゴンの領地へ足を踏み入れた。
リオンは目を疑った。
一週間前に見たエルフの耳の時よりも驚いた。
曇り空を大きなドラゴンたちがたくさん飛んでいて、地には頭から角を生やした種族がたくさん歩いていたのだ。
街、というよりは畑が多く、帝国の城下町と比べると断然田舎、という雰囲気があった。
「のうリオン。奥に大きな五重塔みたいなのが見えるじゃろ。
あれが、ここの女王が住んでる城じゃ。我と来いよ。彼女に会わせてやろう。」
ブリタが城を指差して言った。
三人は行く当てもないので、付いて行くことにした。
「シェイラ様~みんなこっちに来ます~よかったです~」
城内で三味線を鳴らしている眼帯の女が嬉しそうに言った。
話しかけられた幼女は鍋をつつきながらボソッと呟いた。
「友達になれるかな…」
固く結われていたはずの海藻を口の中で解きながら。




