第2話
「帝国」には国教がある。
毎週日曜日城内にある教会で祈りを捧げるのだが、月に一度は街へ行き民と一緒に捧げなければならないことになっているのだ。
今日は、その日…
「あれ、カレン。今日って教会行く日…?」
リオンが朝起きるとドレッサーにカツラが置いてあったのだ。
長い金髪をツインテールに縛ってあるカツラ。
黒髪の時でもツインテールだからあまり変わらないはずなのだが、暑いし蒸れるし秋の今頃でもムンムンするからリオンはカツラが嫌い。
カレンはそんな雰囲気を察したのか、
「まあまぁ、月1ですしいいじゃないですか。気分転換だと思って!
今回の礼拝は王様も王妃様も行かれませんが、私がお供しますから!バレなきゃいいんですよ!」
「そうね、ありがとうカレン。」
本当はリオンにとってはバレなきゃいいんだとかそういう問題じゃない。
神の前に黒髪の私が姿を現してもいいものなのか。
姿を偽って民の前に立って、いつかバレてしまったら自分はどうなってしまうのか…。
考え出したらキリがない。
支度をしながらリオンは考え込んでしまう。
「(この十字架さえも、私には重い…)」
首から下げたネックレスを見て思う。
馬車が止めてある所へ向かう途中、中庭の木から廊下を歩いていたリオンめがけて人が落ちてきたっ?!
「うえっぶは!」
リオンに覆いかぶさるようにして倒れてきた女性は限りなく白に近い銀…いや金髪で、黒い目隠しをしている。
…と、いきなり起き上がったかと思うと、リオンの匂いをしきりに嗅ぎ始めた。
「ああ!リオン姫でしたか!相変わらずいい匂いです!」
彼女の名前はテトラ。
テトラは5年前に拷問を受けてしまい、両目の視力を失ってしまった。
また、王直属のスパイ集団、シュピオナージェの一員である。
「テトラ、久しぶりね。なぜ滅多に城には来ないシュピオナージェの貴方がここに?」
個性が強すぎる面々なため、特別な命令がない限りは城には来なくてもいいということになっているのだ。
「リオン姫、私たちが唯一絶対服従なのは王様です。彼からの命令のみが私たちシュピオナージェをうごかすのですよ。
そう!王様にお呼ばれしたのです!」
両手を広げて興奮したように話すテトラ。心なしか息も荒い。
「あらら、もしやリオン姫、教会へ行くのですか?
だとしたら引き止めて申し訳ありません。
パロン様と仲良くしてくださいませ?」
「んなっ?!なんでテトラが彼のこと…!」
意味深に笑いながら廊下を大ジャンプし、一回の瞬きの内にテトラの姿は見えなくなってしまった。
リオンもジャンプしてみたが、少ししか前には進めなかった。
教会に着くと、門番達が恭しく頭を垂れる。
リオンはそんな姿に申し訳なく思いながら会釈し、中へ入って席につく。
「わあ王女様だぁ」「可愛らしい」
声がちらほらと聞こえる。ああ、嫌だ。
「申し訳ありません。大修道女様がどこかに行ってしまっていて礼拝を始められないのです。
教会内にはいるはずなので探してきます。
皆様、しばしお待ち下さいませ。」
修道女が慌ててそう告げ、走っていってしまった。
暇だ。
一方その頃パロンは、道に迷っていた。
朝起きたと思ったら馬車の中で、服のポケットに入っていた手紙を読んだらどうも、リオン姫の護衛として自分も教会に行かなければならなかったようだ。
で、無事教会に着いたわけなのだが、目の前にベルが転がってきた。
「ああっあたしのベルっ!!返して!」
10歳前後らしい少女がパロンの元へ駆けてきて必死の形相で言った。
「はい、どうぞ。」
少女はお礼を言った後、ハイジャンプをしてどこかへ行ってしまったが、次の瞬間パロンは見覚えのない薔薇園に飛ばされてしまったというわけなのだ。
とりあえず入ってみたものの、同じような風景ばかりで迷ってしまう。
「これは伝説の迷いの薔薇園なのか?」
教会の使い魔であるエンジェルたち―パロンが手に持ってしまったベルの持ち主―がベルを鳴らすと、対象の人物を薔薇園に追い込み殺してしまうという。
ちなみに使い魔であって人間ではない。
彼女たちは少なくとも10歳以上、下手をすれば100歳を上回るキューピットもいるという。
さて、そんなことを考えてながらひたすら歩いていると、賛美歌が聞こえてきた。
さっきまでは聞こえなかったからきっと別の道であるに違いない。
少し開けた場所で賛美歌を歌っている女性は、この世のものとは思えない程美しく、儚く、まるで百合のような…そんな雰囲気を醸し出していた。
「き、綺麗…」
思わず呟いてしまっていた。と、女性が気がついた。
「おや、聞かれてしまっていましたか。お恥ずかしい所を申し訳ありませんわ。」
喋り声ですら神秘的だ。
「あら、あらら?もしかしてあなた、2番目の姫のお気に入りなのですね。そしてまた…」
ぐいっと女性が距離を詰めて、パロンの目をじっと見ながら話す。
お気に入り?なぜそんなことがわかるのだろうか。
「大修道女様!!ここにいらっしゃったのですね。王女様一行がお待ちです。」
息を切らしながら駆けてきた修道女はパロンを見て…
「新手のナンパですね!排除致します!
大修道女様は下がってください!」
長い黒のスカートをめくったかと思うと刃渡り30cm程度の短剣を持って襲いかかってきた!
「うわあ!ちちち違うんです!その、僕は…!!」
―閑話休題―
なんとか誤解を解くことに成功し、修道女は剣を鞘に収めてくれた。
「なんだ、初めから護衛だと教えてくれればよかったのに…」
言う暇があれば言っておりました修道女様。
「はっいけない!大修道女様、戻りましょう。」
「ええそうですわね。あなたもおいで。マキ…いえ、ヴェルデンド君。」
やっと僕は、教会に行けそうだ。
そんなこんなで、パロンだけが苦労したが礼拝は無事終了した。
リオンは、パロンと出かける日程を決められて、満足だった。
その夜、寝ようとしていたリオンの部屋の窓を叩く音が聞こえた。
「あけてぇぇ」
必死そうな声が聞こえ、リオンが窓を開けると1体のキューピットが落ちてきた。
「どうしたの?なにかあった?」
リオンが尋ねると、キューピットは握りすぎてぐしゃぐしゃになった手紙を差し出した。
「大修道女様からのお手紙だよ!中身は秘密なんだってー!」
「わかったわ、誰にも言わないって約束する。」
手紙の中身は、ただ一言だった。
「っ…どういうこと…」
「おねーちゃん、大丈夫?な、なにかあったら教会においで?いつでも待ってるよ?」
私よりも年上なはずのキューピットが単純に心配してくれている。
優しいなあ。
「ありがとう、大丈夫よ。さあもう帰って」
窓からハイジャンプをして帰っていったキューピットを見送り…あの子はハイジャンプしか出来ないのか?
背中に翼というより羽があった気がしたけど…
「いいえ、そんなこと、有り得ないわ。大修道女様はからかいが好きなのね。」
もう寝よう、これは悪い夢だ。夜は人を惑わすというし。
明日もきっと楽しくて、希望に満ち溢れて――
夢を見た。
「また、この夢は…」
森の中で女の人が赤ちゃんを抱いている。
その傍には髪が短い黒髪の女性。
黒髪の人がこっちを向いた。
「あ、あの!あなたは…誰?」
悲しそうに笑って――「」
読んでくださりありがとうございます。
登場している宗教はキリスト教を参考にしていますが、架空です。




