表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

加速する日々の理由

「おはようございます先輩っ。」

「おはよう。朝から元気だな…白木は。」

 朝。なんとも眠気を誘う、まだ春の陽気が残った朝の空。春眠暁を覚えずってな。あ、意味違うか。あれ?そうだっけ?……もういいや。まぁ、こうなるぐらいダルさを感じさせるというわけだ。

 もう慣れたものだ。毎朝ここで待ち合わせ、手をつないで学校に行くというのも。いつかは違う意味で、もっとドキドキさせるんだと自分に言い聞かせてきて、もう2週間ほど経つのである。………やっぱり不可解だ。白木と手をつないで登校し、そして下校するという動作が増えただけで、どうしてこんなにも時間が過ぎるのが早いのだろう。俺にとっては、違う意味を持つ行動でしかないのに。

「だって、先輩の手を毎日握れるのですから、これほどの幸せはありません。」

「……そうかよ。んで?今日は何をするつもりだ。」

「そうですね……昨日はひたすら握るだけでしたし、今日は指相撲でもしたいです。」

 しかし、俺も楽しんでいないわけではないらしい。

 ここ最近、白木と俺はこの朝の登校時間に手を使って何か遊んだりする。子供じみてるかもしれないが、手に惚れている白木にとっては至福の時間なんだと、この前図書室で熱心に語ってくれた。……1時間半も。

「指相撲?……そんなの、俺が力的にも勝つに決まってんじゃね?」

「指相撲は力が勝負を決めるものではありませんよ?これは、愛の勝負なのです!」

「……ふーん…。そうなんだ。」

「信じてませんね?やればわかります!ほら、行きますよ!」

「おうよ…。」

 俺たちが握り合っていた手は、たちまち戦場に変わった。ひたすらに親指がぶつかり合う。はたから見れば、子供じみた遊び必死になっている変な高校生にしか見えないだろう。

「おりゃっ!」

「おっと…あぶねえ…。」

 だが、白木が俺の親指を見るその眼は、好物を前にしたライオンの鋭い眼光のようだった。そうなれば、俺の親指が危ない。俺も必死になって守り抜かねばならない。俺の親指を。

「ふっ!」

「ひゃっ!」

 俺の親指が放つ右フックが見事に白木の親指の付け根をとらえた。すかさず、俺はカウントダウンを始める。

「1、2、3、4、5――」

「ぬっ…!抜けない…っ!まだ、まだ、私が愛するその指がぁっ…!」

「6、7、8、9、10。ふぅ。言ったろ?力的にも俺が勝つって。」

「むぅ…。」

 こうして、俺の親指をかけた死闘は幕を閉じた。……ってか、俺が勝ってもなんも利益はないけどな!

 そして、そんなことをしているうちにもう学校についていたのだ。……やっぱり、楽しんでるのかもしれんな、俺も。


*


「京坂ー、かえろーぜー。」

「おうよ。今日は仕事もないし構わんぞ。」

 放課後。俺はいつものように授業を乗り切った。特に変わったことなど何もない。ただ、受験も近いし授業に集中するようにはなったが。

 そう。俺ももう3年だ。今年の末には進路が決まってて、そして年明けには受験する。こんな高校生活も、もう終わりを迎えようとしているのは身にしみてわかっている。だからこそ、俺はもっと楽しみたい。授業で済むことは全部授業中にやって、そして遊ぶ時は遊びたい。それが俺の高校生活なんだ、と思うようになった。

「京坂さ、国語得意だったよな?」

「…まぁな。ある程度は。」

「また今度教えてくれよ。最近模試が調子悪くてよ。」

「……了解。」

 浜中との会話も、進路の話が中心になっていく。あまり面白いものではない。むしろちょっと苦痛だったりする。だけど――

「じゃ、ちょっと図書館でもよって勉強していこうぜ。」

「……そうだn―――」

「せんぱーい!帰りましょー!」

「………また今度な。」

「……ちっ…うらやましい限りだ。わかった、また今度な。」

 俺たちより一つ下、2年である白木は、まだそんなことを考える時期ではない。だからか、俺と話す内容のほとんどが白木自身の趣味の話だ。主に手。そう、手。こいつ、マジで手が好きみたいだ。携帯でとったカメラを見せてもらっても、ほとんどが手を撮ったものだ。

「先輩、どうかされました?」

「……ん?何もないが?」

「そうですか。顔色が優れないかと思ったので何かあったのかと。」

「……別に何もないさ。それで、今日は何の本を持ってるんだ?」

 ちょっと沈んでいたことがバレていたようだ。こういうところは鋭いのに、どうして俺の好意に関してはすげえ鈍いのか。いや、鈍いようにふるまってるだけかもしれんが。

「それは、学校出てからです。」

 でも、こいつと話してると楽しいって、俺は思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ