技術の宿題
だいぶ長くなりました。すいません…。
すらっと読める一話を目指して、これからもっと精進いたします。
「先輩は中学生の時、技術とか得意でした?」
「あぁ…あれか。得意…な方だったな。細かいの好きだし。」
図書委員会の仕事を二人でしていた時だった。ふいに白木がそんなことを聞いてきた。
技術……といえば、わからない人もいるだろうし一応説明すると、木材切って木箱を作ったり、ラジオの基盤使ってはんだごて使ったり、パソコンでプログラム触ったり…とかする授業だ。家庭科と並んであったなぁ…と懐かしく思う。
「それがどうかしたか?」
「いやぁ…私の妹が宿題を持って帰ってきましてね?
やって、と頼まれるんですが……私も苦手なんですよ。」
なるほど……そういうことか……。意外だった。俺の勝手なイメージだが、こういう人気の人ってなんでもできそうなイメージを持ってしまうんだよな……。もちろん白木も対象だったわけで。
「というわけで、先輩。是非今日お願いします!」
「は!?え、今日!?」
いきなりの返しにたじろぐ。いや、今日はちょっと心の準備が……とかそんな問題じゃなくて!!話の流れ的に「やってくれ」みたいな流れでしたし、薄々予想しましたけど!?……なんて自分の心で全力でツッコむ。だが――
「ちゃんとご褒美ありますから!」
「よし、ノった。」
………男子高校生は、女子からのご褒美に弱いのさ。
*
「どうぞ。」
「お、おじゃましまーす……。」
ついに、やってきてしまった。白木の家に恐る恐る入る。
好きな女子の家に入るんだぜ?緊張ぐらいしてもいいだろ…?……俺が好きになってきた女子って……こう、高嶺の花だったもんだからさ、まず話しかけることすらできなかったわけですよ。そんな俺が…ついに…好きな人の…家に…!
「なんで、お化け屋敷歩くときみたいなすり足なんですか?
もっと堂々としてくださいよ。」
「あ、いや…お、おう…。」
いや、だから緊張ぐらいさせてくれ……と思いながら、ゆっくりと階段を上がっていく。
「ここが私の部屋です。あ、道具とかは準備済みですので大丈夫ですよ。
なんでも、借りてきたみたいなので。」
「そ、そうか…。えーと、どれどれ…。」
俺はとりあえず机の上にあった機器を確認した。もちろん、ちゃっかり白木の部屋自体も確認したが……うん、やっぱりこれを見ると懐かしく思う。ほんとに中学時代やった時のそのままだ。加えて、この白木の部屋は予想通り、とても片付いている。ちらかってるのはこの机の上だけだ。
「じゃ、さっそく始めるか…。」
俺は慣れた手つきで、そこにあった軍手をはめた。設計図を見る限り、さっそく例のはんだごての作業だった。俺はそのままはんだごてを取ろうと腕を伸ばしたが――
「ふぅ…。」
「え!?は!?ちょ…え!?」
白木が、俺があぐらをかいて座っていたその上に、ぽすっ、と座った。髪の香りだろうか、ふわっと花の香りが広がる…って、そんなこと考えてる状況じゃねえ!なんで!こいつが!俺の上に!座ってんだ!
「え?……先輩話聞いてなかったんですか?
まあ、あの様子じゃ聞いてなさそうでしたけど。」
「………は?いつの?」
「帰り道の。」
「帰り道?」
…帰り道に何があったんだ俺…。
そう言われて、とりあえず帰り道での会話を思い出すことにした。
―――
「わざわざ引き受けてくれてありがとうございます。」
「いやいや、別にこれぐらいいいさ。」
委員会の仕事を終えた俺たちは、そのまま白木の家へ向かった。俺の頭の中は既にドキドキとウキウキでピンク色だった。
「それでですね、今回先輩にしてもらうのは結構楽なことなんです。」
「ほう。」
「私が作業の道具を握るので、先輩は手で私の手を覆ってくれたらいいんです。」
「ほう。」
「ちょっとうまくできないだけなので、先輩のそのサポートがあればできるかと。」
「ほう。」
「先輩全然驚かないんですね。」
「ほう。」
「ああ…ダメだこの人…。」
「ほう。」
―――
「…うあああああああ!!!」
「ちゃんと聞いてたんですね。記憶にあるのが驚きです。」
記憶を掘り返してみれば、そんな会話があったと思い出した。ヤバい、死にたい。
「まぁ、というわけでお願いしますね。」
「え、ちょ、それなら話がちg――」
「……ご褒美。」
「はいやりますううう!!!」
「……ダメだこの人。」
男子高校生の変態さ全開で接すると、聞いておくべき会話も聞き逃してこんなのになるぞ…みんなも覚えておけよ…?
*
「これがこうだな。」
「そうですね…でも、ここがどういう風にやればいいかわかりません。」
「ここにはコツがいるんだ。えっとな――」
スタートダッシュこそあんな感じだったが、それからというものの真面目に、言われた通り…つまり、後ろから覆い被さるようにして白木の手を握って作業をした。
白木のやつ、本当は気づいているんじゃなかろうか。俺が…好きなことを。そんな風にも取れてしまう。もしくは、ただの男子高校生で変人だと思われてるのではなかろうか。どちらにせよ、俺にとっては重大な、これ以上ないピンチである。バレてる恋ほど進展しない恋はないし、白木は変人に恋する変態ではないだろうし…あ、いやでも俺の手が好きという異常性h――これは言うのをやめておこう、うんやめておこう。まぁ、そうでないとしてだ。これほど進展させづらい恋はないということが言いたいのである。
「ふぅ、やっとできましたね。すいません、長らく付き合わせてしまって。」
「いやいや、全然。こっちこそ、長い時間お邪魔してすまんな。親御さんにも言っといてくれ。」
そして俺にとってはご褒美だったであろう、白木の手を握りながらする作業の時間は終わった。
「あ、それで、ご褒美はこれです。」
「あ、おう。ありがと。」
ご褒美とは真っ白な手袋だった。ご丁寧に中に布でタグがつけられていて、左と右がちゃんとわかるようになっている。
「さっそく、はめてみてください。」
「りょ、了解。」
俺はさっきまでつけていた軍手を外して、白木からもらった薄手の手袋をつける。左を左手に、右を右手に。
「これは…どういう模様だ?」
指に謎めいた赤い模様がある。それも指ごとに。真っ白な手袋だと思っていたら実はこんな模様があったのかと驚いた。
「それはですね…こうすればわかります。」
「え?」
俺が驚いたその瞬間、白木は俺の右手を左手で握った。お互い、手袋をつけて。
「ほら、わかります?」
「……これ…。」
手をつなぐ――もちろん白木がいつもする「恋人つなぎ」で――と、お互いの手の甲にハートマークが出てきた。しかも、薄い手袋なのでお互いの熱をしっかり感じる。……まさに手への愛が成す究極の手袋だった。
「お前、マジで手が好きなんだな。」
「もちろんです。じゃないと、先輩にあんなこと言いません。ていうか言えません。」
つないだ右手をもう一度見る。違った意味で握られたこの右手。幸せに見えるこの虚しさの意味を、俺以外に誰も知ることはないだろう。
「夏もまだ過ぎていませんが、冬にはこの手袋をちゃんと持ってきてくださいね。」
「……おう。」
でも、これが全て嘘じゃないと思えるんだ。まだ変えていける。
こいつの予定じゃ、せめて一回冬を越すまでは俺の手はこいつの彼氏なんだから。