けじめ
読書の日、としたまではよかった。俺的にも休みの時間は欲しかったし、昨日の仕事のせいでクタクタだったしな。だが―――
「きゃああああ!!やっと手相の本見つけましたよ!手相の本!!」
そんな本見つけたら、俺(主に手)がいろいろヤバい展開に巻き込まれるのはどう考えても回避不可能だろ…!!
「ぬあああああ!!こら!!そんなもの早くしまいなさい!!」
「なんでですか!これで……これで先輩の手を……ぐへへへ…。」
「今度は何を企んでんだ!ていうか、なんて気持ち悪い顔してんだお前は…!」
もう残念な気持ちしかない。あの、男子の中でも群を抜いて人気の美少女白木が、まさか「ぐへへへ…。」とかいうような気持ち悪い女子だとはだれも思うまい。だって、俺も今知ったんだもの。
「さぁ!先輩の運命…この私が占っちゃいますよ!」
「結構だよ!……って言っても、どうせするんだろ…?」
「もちろんです!」
ドヤ顔付ですぐに返答されると、むしろ清々しい気持ちになる。俺はもはやあきらめムードで、白木に向かって右手を差し出した。
「はぁ……!なんて綺麗な右手なんでしょう…!」
「手相見ろよ手相!」
「はっ…!そ、そうでしたね。さてさて…私とこの手の運命は如何に……。」
「結局そこかよ!」
期待通りの返答にもはや笑いしかこみ上げてこない。たまには期待を裏切ってくれ…マジで。
「あっ、先輩。生命線が長いですねー。
事故や感染病さえなければ長生きしますよ!
あ、でもそんな時でも大丈夫ですよ!
手を切断してホルマリン漬けにするので!」
「どこが大丈夫なんだ!ていうか、切断するな!置いとけ!」
「い、いやぁでもぉ…。」
「でも、じゃありません!! ちゃんと置いといて!」
「ちぇっ……はーい。」
「お前は幼稚園児か!!!……はぁ。」
ツッコミどころが本当に多い後輩である。疲れる。
しかし、余程好きなんだな、俺の手。死んだら切ってホルマリン漬けとか……そんなの、ヤンデレ系マンガでしか見たことねえぞ。え、実はヤンデレ……?
「いやああああああ!!!!」
「ちょ、ちょっと!!何いきなり叫んでるんですか!!
びっくりするじゃないですか!!」
「あ、すまん。」
「何平然として謝ってるですか!こっちの心配返してくださいよ!!」
思わず叫んでしまった。まずい……最近、思ったことが全て出てしまうんだよな……気をつけねば。
まぁ、そんなこともありながら刻々と時は過ぎていった。内心、俺も楽しんでいたのかもしれない。……だって、帰らなければいけない時間を忘れて2人で手相見てたんだからな。
*
「おはよう。」
「ああ、おはよう浜中。」
次の日。手をつないで登校して3日目の朝だったが、美少女と手をつなぐのがこんなにも幸せだとは…!と思っていたのも昨日までだ。結構慣れてきた。それはいい意味で。あ、あと、周りの目も慣れてきた。憤怒の眼差しを向けてくる一部のコアなファンとか、ちょっと鬱陶しい系女子とかの嘲笑の目とか。だいぶ慣れたように感じた。
「今日もか?」
「ああ。今日も。」
俺はいつもの一番後ろの席について、荷物を下ろしながら、隣にいる浜中に返事をした。
「いいよなぁ……というのはもうやめる。でも、何故だ?何故お前なんだ?」
そういや話していなかったな、と思った。まぁ、聞かれることもなかったしな。……でも、俺の思いをはっきりさせるいい機会かもしれない。だから―――
「…………俺があいつを好きだからだ。」
……本当のことを話すのは、付き合えてからにしよう。そう思った。