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現実

「あっ……先輩……。」

「あ……白木…。」

 本を取ろうとして2人の手が当たる。そして。

「先輩…。」

「白木…。」

 しばし見つめ合って、それから顔が近くなって、もしやこれは――――



「うおっ!?」


 俺は、そのまま後ろに倒れた。


*


「ちょっと、先輩。何ぼーっと倒れてるんですか!

 ほら、早く続きしますよ!」

「……はぁ…。やっぱり現実はそう上手くはいかねえな…。」

 一気に現実の世界に引き戻された俺は頭を掻きながら立ちあがった。どうやら俺は妄想していたせいで、梯子からおちたらしい。痛い。

 やはり、現実はそう上手くはいかない。あのままなら、もしやキスまで―――いや、ねえな。うん。俺が飛び退く。

「はぁ?何言ってるんですか。ほら、手を貸してあげますから。」

「いやいやいや、俺もう立ってるから。手を貸してもらう必要ないのはわかるよな?」

「いいんです!早くつかんでください!」

「結局そこがお前の魂胆だろ!!」

 もうやだこの子!めっちゃ疲れる!………はぁ。今までの心の中の叫びが、こいつの前なら全て飛び出させられる。勝手に飛び出やがる。辛い。声がつぶれそうだっつの…。

「もういいですよじゃあ!………先輩のばか。」

「え?なんだって?」

「なんでもいいです!!ほら、仕事始めますよ!」

 最後に何言ったか全然わからなかったが、とりあえず仕事をやらねばならんのは事実だ。だって、こいつがほかの奴を全員断ったせいで俺たち2人でこれ全部するんだからな。

 俺は、残った何千冊もの本の山を見て絶望した。


*


「ふぅ。」

 俺がため息をついたその時、5時を告げるチャイムが鳴る。委員会の仕事を終えるべき時間だ。

「帰るか。」

「……はい。」

 あれから2人とも無言で作業したせいで、仕事は捗ったがかなり疲弊していた。白木の元気がないのも分かる。やってもやっても減らない本の数を見れば、俺も思う。これは辛い。

 それから、2人で鍵を返しに行ってから校門をくぐる。大波乱の一日に感じたのはきっと俺だけであろう。しかし、まだ終わってない、と俺の頭に警笛を鳴らす存在があった。

「……ん。」

「ん?どうした白木?」

 校門を出てから、白木は一歩も動かない。下を向いたままだ。おそらく、警笛を鳴らすのはこいつのせいだろう。

「……………ん…!」

「……?どうしたんだよ。」

「……ん!!」

 下を向いたまま、白木は左手を震わせていた。………そういうことかよ。

「……わかった。」

 まんざらでもないように、俺は白木の左手を、右手で握る。とりあえず、何も言わなくてもいい、このまま帰ろうと、俺は思った。


*


「ただいま。」

「おかえり。今日は遅かったわね。」

 帰宅。家に入るとすぐ母親が出迎えてくれた。

 あの後、やはり無言のまま手をつないで帰った。朝の待ち合わせ場所まで来ると、白木は「ありがとうございました。」とだけ言って別れた。………なんだか切ない。

 俺はすぐ、2階の自分の部屋に上がる。ベッドと勉強机と、それから漫画の棚……と、ほんとにそれしかない部屋だが、俺にとっては休息の場だ。

「あいつ…大丈夫かな。」

 ポツリと、独り言を呟いた。ベッドに飛び乗ってから、今日一日を振り返る。

 …………強く言い過ぎたのかもな。図書室で、あの時。あの白木なら、と思っていたのかもしれない。強気で、仕事もできて、何故か俺の手が好きで…。変わってるやつだし、強いものだと思っていたのかもしれない。……でも、よく考えれば、あいつだって1人の女子だ。しかも後輩だ。か弱いに決まってる。

 …………なんて馬鹿なことしたんだろうな、俺。いろいろあったとはいえ、ちゃんとあいつのことも考えてやらんとな…。


「明日は、俺から手を握ってやるか。」


 なんて、俺も、おかしいと思っていたはずの状況を構成するその1人なんだと思いながら、呟いた。

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