日常
「おはようございますっ!先輩!」
「……ああ、おはよう。」
次の日。昨日言われた通り、朝の登校を共にすることになった。あまり気分のいいものではない。いや、普通ならいいんだろうが……この状況で素直に喜べるか!喜べる奴いるなら来いよ!普通の高校生じゃ無理なんだよ!
………とか言いつつも、ちゃんと待ち合わせの場所に来る俺である。
「ではさっそく。」
「え、ちょ、まっ―――」
心の準備ができてねえ!と言う前に、俺の右手は白木に奪い去られた。……別に気分悪いとかじゃなくて、その……緊張するって…。
「うーん!幸せ…!」
俺の右手を両手で持つ白木。しかもがっつり。指までからめられる始末。……ドキドキしている俺が馬鹿馬鹿しく思えてくるあたり腹が立つぜ……。
しかしそれからというものの、学校につくまでこれ以上の会話は一切なかったのであった。………まぁ、手だけが目的だから仕方ねえか……なんだか辛い。
*
「おはよ。」
「おはよ、じゃねえよ!そこら中で、『白木と恋人つなぎで登校する京坂』
って話題になってんぞ!どういうことだ!」
教室に入るや否や、俺の第一友人といっても過言ではないであろう、浜中が俺の胸ぐらをつかんでくる。……苦しい。
「知らねえよ……。」
「知らねえじゃねえだろ!こいつめ……裏切りやがって…。」
……勝手に涙流されても困る。俺だって泣きてえよ…。と思いながらもあえて口には出さないことにする。だって、こういうのは―――
「ちょっと、あんたたち!! 勝手に写真撮って、許されると思ってんの!?」
「「「「ひえええええ!!!」」」」
廊下で白木の怒号が炸裂している。こういうのはあいつに任せよう。俺は被害者だ……と思い込むことにした。
*
はぁ…。なんてついてないのだろう。
現在5限目の授業。幸いにも一番後ろに座っている俺は、窓の外を見てそんなことを考えていた。
ちょっと気があったあの白木が……あんな変な好みの持ち主だとは……。いやでも、普通わかんねえって…。テキパキ行動するし、仕事には厳しいし、なんつったって、あんな美人なんだからよ…。そこまで考えて、俺は自分の右手を見た。こいつのおかげで、いいのか悪いのかわかんねえ状況に立っちまったなぁと思った。………少し気になって、自分の手をよく見てみる。確かに爪は女々しいって言われたことあるし、小さいころに少しピアノやってたからか指は長い。……だけどそこまでなのかこれ。
「じゃあ、ここを………京坂君。解は?」
「えっ?」
すっかり空想の世界に浸っていた俺に、現実の「数学」という重い重い苦しみがのしかかる。やべえ、わかんねえ。てか、どこの問題だよ…。
「え、えーっと…あはは。」
苦笑いで時間を稼ぐ……なんてことはできず。
「………ちゃんと授業聞いておくように。」
数学担当の女教師に呆れられて、クラスに苦笑いを起こした。
*
「京坂ー、帰ろーぜー。」
「あ、すまんな。今日も委員会の仕事なんだ。」
「ちぇっ…………わかった、んじゃあな。」
浜中が一緒に帰ろうと誘うが、あいにく今日も委員会の仕事のため断った。仕方ない……本の整理期間にあたってるから全員駆り出されんだよ…。
俺はゆっくりと足を進め、図書室の扉を開ける。
「こんにちは!先輩!」
「え?……あ、白木か。他の奴らは?」
「全員断っておきました!」
「ああそうか……って、え!?は!?何してんのお前!?」
入ってすぐ、衝撃の事実を突きつけられる。……何してんだよ…。今日は、いつもなら心にとどめておくはずの全力のツッコミを、思わず口にしてしまった。たった二人しかいない図書室に俺の大声が響いた。
「だってそうしないと、本の整理でお互いの手が当たった時に『あっ…。』
みたいな展開が先輩とできないじゃないですか!!
………ふぅ…。というわけで、さっそく同じところの整理をしましょう!」
「なんで何事もなかったかのような感じなんだ!
ちょっとは俺の気持ちを考えろ!」
「じゃあ、とりあえずライトノベルのところ行きましょ!」
「人の話を聞けぇぇぇぇ!!!!」
無視されまくって若干涙目になりながら俺は叫んだ。
…………なんだか、この整理期間さえも大波乱が起こることは回避不可能なんだろうな…と思いつつ、俺は涙をぬぐってから一度だけため息をついた。