出会い
俺、京坂 優は本当に、本当に凡人だ。特別運動ができるわけでもなく、勉強もそこそこ。かっこよくもない、どっちかっていうとモテない。取り柄なんて、本当に何もない…はずだった。
変な後輩が、俺に飛びついてくるまでは。
*
「先輩、今日の放課後…屋上に来てくれませんか?」
「え、俺? あ、おう…いいけど。」
ある日、所属していた図書委員会の後輩、白木 奈緒が俺を屋上に呼び出した。俺は委員長でもないし、特別目立つようなこともしていない。何をしでかしたか…とか思い出していたがやはりそんなこともない。どうしたものか…。
しかも呼び出したのは、あの人気の白木だ。白木といえば、仕事熱心で先輩だろうがビシビシ指摘することで有名だ。見た目もすごく可愛い…というか、美人だ。背も高いし、男子の間ではそこそこ人気だ。性格面では知らんが。
これ、怒られんじゃね?…とか思いながらとりあえず呼ばれたわけだし、俺は屋上へ向かうことにした。
「あ、先輩…。」
「どうした、白木。俺なんかを呼び出して。」
屋上に出ると、そこには既に白木がいた。夕日が沈みかけていて空が綺麗なオレンジ色に染まっている。
「先輩…あの……その……。」
白木がやたらともじもじする。夕日のせいか、顔も赤らんでいるように見えた。もしかして…? いや、そんなわけ……いやでも…これは…!!
一つ言っておくが、俺も普通の男子高校生だし恋愛ぐらいしたいと思うわけで。こんな美人と付き合えたらさぞ嬉しいだろうなと思うわけで。……まぁ、ちょっとは下心ありながら一緒に委員会の仕事してましたよ?いや、でも俺みたいな凡人…もしくはそれ以下のような奴から告白するとか…もはや無理だと思ってるわけですよ。
「その………す、好きなんです。」
おっしゃきたぁぁぁぁ!!!!! 俺は心の中で歓喜した。何故だかわかんないけど、とりあえずよっしゃぁぁぁ!!! 俺の心に今世紀最大級のインパクトだ!!
そう、思った矢先だった。
「先輩……の手が。」
「え?」
え? 手…? それって、俺含めて…だよな? 手だけ…とかそんなオチじゃねえよな? いや、まさかぁ…そんなわけねえって…。
「だって……先輩の手めっちゃ素敵じゃないですか…!
すらっと細く長い指……たまにいい匂いしますし……加えて爪まで綺麗だし…!」
「え、えっと…じゃあ俺自身のことは…。」
「はい、好きじゃないです。あ、手と比べてですよ? 私、先輩の『手』は愛してますから!」
そういいながら、白木は俺の右手を持って自身の顔に当てる。白木の顔から少し熱を感じる。
……なんだこの、妙な絶望感。俺の歓喜返せちくしょう。すごい嬉しかったはずなのに、ていうか、普通じゃ今も嬉しいはずなのに、こう…なんというか……高いところから引きずりおろされた感半端ないんですけどマジで…。
「あぁ…幸せ…。」
とびきりの笑顔を見せる白木。可愛いんだけど……素直に喜べない。
「というわけで、先輩! 明日から手をつないで登校してもいいですか!?」
なんでハイテンションなの!? ちょっとは俺のこと考えろよ!? と心の中で全力で突っ込む。
「はぁ…。」
俺はいったんため息をついた。仕方ない。いろんなことが一気におこりすぎてる。怖い。
もう……どうにでもなれ。
「………いいよ。」
あきれ顔で俺は承諾した。まぁ、見た目は可愛いし、手をつないで登校できるんだから幸せっちゃあ幸せだ。中身は全然違うけど。
だけど、この選択が、俺の青春を大きく変えるとは、まだ誰も知らなかった。