完璧じゃない。
ある日の1時限目、数学。
「…………すなわち、ax³+bx²+cx+d……両辺を……」
「zzzz……」
「こら起きろ! 1時間目から居眠りするな!!」
同日2時限目、現社。
「産業構造のハイテク化を………………とも呼ばれ…………」
「zzzz……」
「ここ、絶対テストに出すからなー」
同日3時限目、英語。
「I was looking for my son who I――――」
「zzzz」
「Wake up right now !!」
同日4時限目、生物。
「ある生物の持つすべての核酸上の遺伝情報…………」
「zzzz」
「…………細胞小器官が持つゲノム……………………」
「……zzzz……」
同日、昼休み。
「おい、高瀬!! 起きろって! もう昼だぞ」
机に伏せたままで弁当も食わずにイビキをかいている高瀬を揺すってみた。
「うーーーーん……」
「寝かせとけ。 腹減ったら勝手に起きんだろ」
シューイチがため息交じりに言った。
「こいつバイト掛け持ちしてるって前に言ってたからなー。体キツイんじゃね?」
「そうなのかもな」
「なんか理由があんのかな……」
「気になるか?」
「別にそういう訳じゃないけどさ。なんかすげー頑張ってるみたいだし……」
「授業中に居眠りしていい理由なんて無いけどな」
「…………」
その言い方になんだか少しイラついた。
「シューイチには解んないかもな」
「どういう意味だよ」
「お前はなんだって完璧だからな」
別に高瀬を庇うつもりなんてないのに、なぜかそんな言葉が口をついて出た。
「シューイチには俺たちみたいなフツーの奴が考える事なんて解らないんだ」
俺は一体何を言いたいんだろう。
勝手に言葉が出てきてシューイチを傷つける。
「……俺は、完璧じゃねえよ」
「完璧だろ? 成績はいつもトップだしスポーツだって」
「……俺は、お前がいるから……」
「え?」
「お前がいないと……」
そう言い残してシューイチは教室を出て行った。
「――――? あれ? 俺ねてた? おっ、もう昼かよ!」
高瀬が呑気な声を出す。
俺は高瀬に向けて空になったジュースの紙パックをぶんなげた。